業務報告書 フェアリー(仮採用一日目)
求人掲示板管理補助に、フェアリーを置いた。
結果から言う。
掲示板は、過去最高に見られた。
同時に、過去最高に危なかった。
受付横の掲示板前には、朝から小さな列ができていた。
求人を見に来た者が半分。
掲示板の上で羽をぱたぱたさせているピピルを見に来た者が半分。
さらに、花粉も少し飛んでいた。
リィナは受付横の表示板を三枚ひっくり返した。
『換気中』
『掲示板前で立ち止まりすぎないでください』
『求人票は読むものです。拝むものではありません』
最後の一枚は、さっき追加した。
インプ三匹が掲示板の前でピピルを拝みかけたからだ。
「私、拝まれてないわ! ちょっと見上げられていただけ!」
「声量を落とせ。掲示板が返事しているみたいに響いている」
「掲示板にも元気があった方がいいわ!」
「求人票に元気はいらない。正確さがいる」
ピピルはむっとした顔で、掲示板の端に貼られた三枚の表示カードを指差した。
『掲示可』
『回収』
『読み上げ可』
「ちゃんと表示カードつきだけ触ってるわ」
「そこは合格だ」
「じゃあ褒めて」
「まだ早い」
「厳しい!」
「職安だからな」
初日の仕事は単純だった。
期限切れ求人二枚の回収。
新着求人三枚の掲示。
読み上げ許可一枚。
ピピルは軽いので、掲示板の上段にも簡単に届く。脚立がいらない。羽で位置を変えられる。小さな画鋲も持てる。
問題は、本人が一枚貼るたびに説明したがることだった。
「新着求人! 食堂搬入補助、二名募集! 力自慢さんにおすすめ!」
「そこまで。おすすめは誰が決めた」
「私!」
「不許可」
「じゃあ、力仕事経験者歓迎、なら?」
「求人票に書いてあるなら可」
「書いてある!」
「なら可」
ピピルは掲示板の上で小さく跳ねた。
その拍子に花粉が少し落ちる。
リィナが無言で皿を差し出した。
午前の一番の成果は、期限切れ求人の回収だった。
古い求人票は、掲示板の隅に残りやすい。特に「夜間見張り急募」「食堂洗い場臨時」「薬草乾燥補助」のような地味な求人は、貼った者も忘れる。
ピピルはそれを見つけるのが早かった。
期限が昨日のもの。
一昨日のもの。
文字が薄くなっているもの。
新しい求人票に半分隠れているもの。
ピピルは羽を鳴らして、掲示板の前を飛び回った。
期限切れ求人を外し、新着求人の位置を揃え、見出しだけが見える高さへ貼り直す。手は小さいが、動きは速い。風で紙の端が浮くたびに、画鋲を押さえる。
掲示板が、少しだけ見やすくなった。
「局長、かなり向いています」
「飛ぶ掲示係は便利だな。本人が喋らなければ」
「そこが研修ですね」
問題は昼前に起きた。
ピピルが、新着求人を読み上げていた。
「新着求人のお知らせです! 薬草乾燥補助、一名募集! 業務内容は、薬草棚の整理、乾燥具合の確認、納品票の記入。歓迎経験は、軽作業、細かい確認、湿気に気づけること。昼食あり!」
そこまでは求人票どおりだった。
リィナも頷きかけた。
ピピルは、そこで息を吸った。
「あと、診療所の裏にある薬草棚は、今ちょっと人手不足で」
「止まれ」
アーベルが言った。
ピピルは空中で止まった。本当に止まった。羽だけが細かく震えている。
待合室の魔物たちも止まった。
「それは求人票に書いてあるか」
「書いてない」
「なら言うな」
「でも、本当よ」
「本当でも、掲示してよい情報とは限らない」
「人手不足って言ったら、応募が増えるかも」
「診療所の裏が手薄だと知る者も増える」
ピピルの羽が、少し下がった。
「勇者側とか、ブラック商会とか?」
「そうだ」
「再軍備派も?」
「そうだ」
「……私、噂の方が早いって言ったわね」
「言った」
「早いと、止まる前に遠くへ行くのね」
「そうだ」
ピピルは掲示板の上段に降りた。
さっきまでより、少しだけ静かだった。
「ごめんなさい」
「謝罪より、次を止めろ」
「分かった」
「分かったなら続けろ。求人票に書いてあるところまでだ」
ピピルは求人票をもう一度見た。
今度は、少しゆっくり読んだ。
「薬草乾燥補助、一名募集。細かい確認が得意な方、受付へ」
余計な言葉はなかった。
だが、待合室のスライムが一匹、受付の方へ動いた。湿気に気づけるなら、確かに向いているかもしれない。
「局長。今の読み上げ、短いけど届きました」
「届いていい範囲だけ届いた。それが掲示だ」
午後には、ピピルが見出し案を持ってきた。
小さな紙に、本人の字で書かれている。字は丸い。やたら跳ねる。読むだけで少し騒がしい。
【見出し案】
食堂搬入補助:小麦袋を落とさない方、募集
薬草乾燥補助:湿気に気づける方、募集
通路整理補助:迷わない方、または迷っても報告できる方
書類保管補助:箱に手を入れない方
夜間見回り:夜が平気な方
リィナは見出し案を見て、少し考えた。
「悪くありません」
「最後の二つは修正だな」
「書類保管補助は、ミクさん前提ですね」
「箱に手を入れるな、は求人見出しではない。注意書きへ回せ」
「夜が平気な方、は?」
「可」
「通路整理補助は?」
「迷っても報告できる方、は良い。迷わない方、は消せ」
「ミノタウロスさんに刺さりますものね」
「消せ」
ピピルは不満げに頬を膨らませた。
「面白い方を消すの?」
「笑わせるための求人ではない」
「でも、少し面白いと見るわ」
「少しだけならな。条件を変えるな」
「条件は変えない。見つけてもらうだけ」
「それなら仕事だ」
ピピルは、ぱっと顔を明るくした。
すぐに何か叫びそうになり、自分で口を両手で押さえる。
リィナが小さな表示カードを出した。
『発言前確認』
ピピルはこくこく頷いた。
大きな成果だった。
夕方、業務報告書が提出された。
提出された紙は、少し花粉で黄色かった。
リィナが無言で拭いた。
【業務報告書】
氏名:ピピル
職種:求人掲示板管理補助
勤務場所:受付横掲示板
掲示件数:新着求人三件
回収件数:期限切れ求人二件、重複掲示一件
読み上げ件数:許可済み求人一件
見出し案:五件提出、採用二件、修正二件、不採用一件
禁止事項違反:なし
未遂:非掲示情報を話しかけたが、局長制止により停止
花粉飛散:少量。換気で対応
破損物:なし
良好点:期限切れ求人の発見、掲示位置の整理、見出し案の作成
注意点:声量、花粉、非掲示情報を話しかける癖
反省点:本当のことでも、掲示してよいとは限らない。求人票は盛らない。花粉は落としてから触る
改善案:読み上げ前に求人票を見る。話したいことを一度飲み込む。リィナの表示カードを見る
備考:噂より遅くても、求人票は迷子にならない
所見:求人掲示板管理補助として試用継続




