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ダンジョンにハローワークを開いたら魔物が面接に来た  作者: あゆと


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14/20

業務報告書 ミミック(仮採用一日目)

書類保管庫の前に、ミミックを置いた。

見た目は宝箱である。

場所は保管庫前である。

つまり、知らない者が見ると「なぜ保管庫の前に宝箱が置いてあるのか」という疑問が出る。

その疑問を持った者は、だいたい手を伸ばす。

「局長、開始三分で危険性が分かりました。倉庫番のゴブリンさんが、もう開けようとしました」

「理由は」

「宝箱だったので」

「理由としては正しい。職場としては危険だな」

リィナは保管庫前に貼り紙を増やした。

『これは備品です』

『開ける場合は申請してください』

『申請前に手を入れないでください』

『噛まれても労災処理に時間がかかります』

最後の一枚だけ、やけに効いた。

通りかかったインプが、伸ばしかけた手を引っ込める。

「労災処理は嫌です」

「嫌なら開けるな。宝箱ではなく職員だ」


ミミックのミクは、保管庫前で静かに待機していた。昨日まで入口横で番号札を挟んでいた時と、見た目はほとんど変わらない。

違うのは、蓋の隙間に仮採用通知ではなく、小さな表示板が挟まれていることだ。

『重要物品保管箱 仮採用中』

リィナの字である。

その下に、俺が赤字で一行足した。

『噛む前に鳴ること』

ミクが、かたん、と鳴った。

「今のは返事ですか」

「たぶん不満だ」

「不満で済むなら良い方ですね」

試験用の保管物は、三種類にした。

人事記録の写し。

食堂の小麦受領票。

診療所の薬草在庫票。

本物ではない。

だが、失くすと現場が困る紙である。重すぎず、軽すぎない。保管箱の初日にはちょうどいい。


俺は三枚の書類を封筒に入れ、ミクの前に置いた。

「中身を預かる。これは小麦ではなく小麦受領票だ。薬草ではなく薬草在庫票だ。人事記録も含めて、全部食べるな」

「紙」

「紙だ。だから食べるな」

「匂いがする」

「票についた匂いだ。食べるな」

リィナが小声で言う。

「局長、今の確認、毎回必要ですか」

「必要だ。誤食は初日に潰す」

「紙を食べる保管箱、怖すぎませんか」

「食べない保管箱にする」

蓋が、ゆっくり開く。

中には昨日と同じ、古い銀貨、割れた指輪、錆びた短剣、折れた鍵、湿った布が残っていた。

「保管業務と拾得物の抱え込みは別だ。中を空にしろ」

「保管していた」

「今から職場の書類を入れる。私物か残置物かは後で仕分ける」

リィナが木箱を持ってきた。

ミクは不満げに、古い銀貨三枚と割れた指輪と錆びた短剣と折れた鍵を吐き出した。湿った布だけは最後まで出し渋った。

「それも出せ。保管物が湿る」

「敷物」

「敷物ではなく湿り気の原因だ」

「出します」

湿った布が、べちゃりと木箱に落ちた。

リィナが無言で木箱の蓋を閉める。

「これは廃棄物処理に相談します」

「そうしろ」

「スライムのプルムさんですね」

「前職のつながりが出たな」

「職場って、こういうものなんですか」

「前職の後始末が、別の前職の仕事になることはある」

ミクの中が空になった。

そこへ封筒を入れる。

蓋が閉じた。

かちん。

小さな音がした。

「鍵をかけたらしいな。開ける時は、俺かリィナの指示で出せ」

「局長。受付兼補佐」

「認証されたようですね」

「宝箱に認証される日が来るとは思いませんでした」

リィナが少し複雑そうな顔をした。


最初の問題は昼に起きた。

食堂のゴブリンが、小麦受領票の確認に来たのである。受領票はミクの中だ。

俺が声をかけると、ミクの蓋が少しだけ開いた。

ゴブリンのギギが手を伸ばす。

蓋の内側で歯が光った。

ギギの手が止まった。

「研修中の噛まない宝箱から素手で書類を取るのは、少し勇気が要りますね」

「初日は木ばさみを使え」

リィナが横から木ばさみを差し出した。

ギギは木ばさみで封筒を取り出した。

噛まれなかった。

ミクは蓋を閉じ、かたん、と鳴る。

「今のは警報ですか」

「我慢だろう」

「我慢で鳴らないでください」


午後には、不正開封訓練を行った。

リィナが申請なしで近づく。

ミクは鳴らない。

リィナが蓋へ手をかける。

ミクは鳴らない。

リィナが蓋を少し持ち上げる。

がたん。

鳴った。


「噛んでいないのは合格だ。だが、鳴るのが遅い。手をかけた時点で鳴れ」


「開ける前」

「そうだ。開けてからでは遅い。噛む前でも遅い」

ミクはしばらく黙った。

それから、蓋を閉じたまま、かたん、と鳴った。

「今のは」

「練習だな」

「よし」


バルドが通路整理の途中で見に来た。

巨大なミノタウロスが、手持ち看板を持ったまま保管庫前に立つ。宝箱とミノタウロス。どう見ても罠部屋だった。

「不正開封者を止めますか」

「今日は止めなくていい。鳴ったらリィナを呼べ」

「倒さない」

「倒さない」

リィナが俺の袖を引いた。

「局長、連携すると防犯力は上がります」

「上がるな」

「同時に、職員の精神的な通行難度も上がります」

「配置距離を調整する」

「宝箱とミノタウロスが並ぶ職場、普通に怖いです」

「普通の職場ではない」


夕方、ミクの業務報告書が提出された。

提出された、というより、ミクの蓋に挟まっていた紙をリィナが木ばさみで抜いた。

字は、リィナの代筆である。本人、いや本箱は署名欄だけ歯形をつけていた。

俺は採用経過欄へ印を押した。

仮採用継続。

ミクが、かたん、と鳴った。

今日は警報ではない。たぶん返事だ。

「明日も保管庫前だ。警報を早めろ。紙を湿らせるな」

「努力する」

「努力ではなく乾け。リィナ、乾燥剤を手配しろ」

「宝箱に乾燥剤を入れる日が来るとは思いませんでした」

「人事記録が湿るよりましだ」

保管庫前で、ミクは静かに蓋を閉じた。

番号札ではなく、表示板を挟んでいる。

『重要物品保管箱 仮採用中』

『開封申請は受付へ』

『手を入れる前に、人生を見直してください』

「リィナ。最後の貼り紙は何だ」

「職員向け注意喚起です」

「少し強い」

「ミクさんより弱いです」


その日の夜、魔物職業安定所に一枚の業務報告書が届いた。


【業務報告書】

配属者:ミク

配属先:書類保管庫前

雇用形態:試用一日目

担当業務:重要書類保管、正規開封対応、不正開封警報、内容物保持

保管物:人事記録写し一通、小麦受領票一通、薬草在庫票一通

開閉回数:正規開封三回、不正開封訓練二回

警報回数:三回

噛みつき回数:零回

誤食:零回

湿り気:ややあり

破損物:木ばさみの先端に歯形

良好点:長時間待機、内容物保持、正規開封時の封筒返却

注意点:警報が遅い。紙に匂いがあると食べ物と誤認しやすい。湿り気あり

改善案:手をかけられた時点で鳴る。封筒は噛まずに挟む。私物を中に戻さない。乾燥剤を入れる

備考:噛まない宝箱も、宝箱

所見:明日も出勤を許可。重要物品保管箱として試用継続

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