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結界守護者・蜻蛉商会_SS置き場(短編集)  作者: 御崎菟翔
結界守護者SS

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人界妖界、それぞれの四月一日

 春。まだまだ寒い夜の闇の中、ランタン灯る本家の庭に、(わたり)は俺と(うしお)を乗せてバサリと(わし)の姿で降り立った。夕方すぎに呼びに来た汐に促され、少し離れた場所へ結界の(ほころ)びを閉じに行った帰りだ。

 人の姿に変わった二人と本家に入り、無事に結界を閉じたことを使用人である村田に伝えると、ボーンボーンと柱時計が二度鳴る。


「ああ、日を越えてしまいましたね。奏太(そうた)様、御存知ですか。4月1日は、目上の者から目下の者へ、日頃の感謝の気持ちを伝えねばならない日なのですよ。」


 後ろから、そんな亘の声が廊下に響いた。


「はぁ? なんだよそれ。4月1日って、年度初めかエイプリルフールかのどっちかだろ、普通。そんなの初めて聞いたけど。」

「里での毎年の恒例行事です。ですから、ほら。」


 亘はそう言うと、ずいと両手をこちらへ突き出してくる。


「え、なに?」

「ですから、目下の者へ感謝の意を伝えるんですよ、()り手様。いつも周囲を御守りする、護衛役と案内役がちょうどここに居るではありませんか。」


 わざわざ、“守り手様” を強調する言い方だ。


「いや、それはさっき聞いたけど……」


 そう答えると、亘は眉を上げる。


「感謝を伝える時は両手を握って真っ直ぐに目を見るものです。(ゆい)様はそうしてくださいました。」


 何故わからないのかとでも言うような声音で、手を突き出したまま、亘はじっと俺を見つめている。


 ……いや、ウソだろ。この場で両手を握って、感謝の気持ちを伝えろって? 恥ずかしげもなくそんなこと、できるわけがない。それに、こういうのって普通、要求されてやるものじゃないと思うんだけど……


 しかし、亘はそんなこともお構いなしに、


「さあさあ、奏太様。」


と迫ってくる。


 恥ずかしい、という気持ちはある。しかしそれ以上に、亘のニヤけた顔が無性にイラッとする。

 本気で労ってほしいというより、戸惑(とまど)う俺を見て遊んでる感じだ。


 俺はふいっと亘に背を向けて、(あき)れ顔で俺達を少し離れて眺めていた汐の手をぱっと掴んだ。

 ニヤニヤと俺をからかう気満々でいる亘に伝えるくらいなら、俺は汐を優先する。

 汐の両手をギュッと握って、


「いつも、案内役ありがとう、汐。」


と言うと、汐は目を見開いて少しだけ驚いたような顔をしたあと、柔らかく笑った。


「こちらこそ、いつもありがとうございます。奏太様。」

「え、いや、奏太様、私は?」

「亘の場合、どうせ俺のこと、からかって遊ぶつもりだろ。」

「そんな訳ないでしょう。いつも真面目に護衛の御役目を務めているのに、あんまりです。」


 亘は微塵(みじん)も思っていなさそうな顔でそう(のたま)う。


「本気でそう思ってるなら、少しは残念そうな顔をしろよ。」


 俺がそう言うと、亘はこれ見よがしに取ってつけたような悲しい顔をしてみせた。


「……はぁ……本来であればあの方に御言葉を頂けていたはずなのに……」

「……ホントお前、そういうところだからな。」


 すると、亘は何かを思いついたかのようにハッと顔をあげる。


「今から妖界へ行けば、もしや……!」

「やめろよ。どうせ追い返されるだけだ。それに、その風習があっちにもあるなら、多分、大変なことになってるよ。」


 そもそも、(いん)の気を抜くためにハクに手を握られたというだけで、目の敵にされるくらいだ。両手を握って感謝の言葉だなんて、大混乱が目に浮かぶ。

 そんな中に突っ込んでいって相手にしてもらえる訳がないし、最悪門前払いだってあり得る。


 そんなことを思いつつ亘をチラと見ると、完全に意気消沈で項垂れていた。

 俺相手との差が大きすぎる。


 俺はハアと息を吐き、項垂(うなだ)れる亘の両手をグイと掴んだ。


「……いつも感謝してるよ。」

「奏太様……!」


 仕方無しにそう言うと、亘はキラキラした目で俺を見つめる。


「せっかくなので、日頃どの当たりを感謝してくださってるのか、詳細にお教え頂いても?」

「調子に乗るなバカ!」


俺は思わず声を荒げた。


「うるさいぞ。夜中に騒ぐな。」


 不意に、そんな低い声が背後から聞こえてきて振り返ると、柊士(しゅうじ)(りく)(しおり)を連れてやってくるのが目に入った。


「あれ、御役目?」

「いや。今日だけは用がなくても来るんだよ、こいつら。その見送り。」

「今日だけは?」

「目上が目下を(ねぎら)うってやつだよ。お前もやってたんだろ。」

「え、わざわざその為に里から?」


 目を見開くと、栞は何も言わずにニコリと微笑み、淕が居心地悪そうに視線をそらす。

 唖然(あぜん)と二人を見つめていると、俺の背後から、さも当たり前のような亘の声が響いてきた。


「私も、たとえ御役目がなくとも来ますよ。汐を連れて。」

「さっきのあれの為に?」


 亘と汐を交互に見ると、汐は眉尻を下げる。


「何年か前に、亘だけが御言葉を頂く為に結様の元へ伺ったようなのです。その時に、結様が私にも必ず来るようにと(おっしゃ)って……」


 ……催促するなよと思わなくもないが、申し訳なさそうな汐の様子に、一応口を(つぐ)んでおく。


「そもそも、亘があまりにも(かい)(さく)をからかうから、たまにはきちんと褒めてやれって結がエイプリルフールについた嘘が始まりなんだよ。年に一度の人界の風習だって言って。」

「え、里の風習じゃないの?」


 柊士の言葉に目を瞬くと、柊士はハアと息を吐き出した。


「やるなら自分からってアイツが亘と汐を労って、それを亘が周囲に自慢して、栞と淕にまで伝わって、俺も要求された。今では、里の一部にも広まって年に一度のイベントみたいになってる。」

「……なんか、すごい影響力だね……」


 たった一度、晦と朔の為についた小さな嘘が、里の風習になるなんて。


「それだけ亘が言いふらしたんだろ。」


 柊士が鼻を鳴らすと、亘は心外だとばかりに眉根を寄せる。


「まさか。人聞きの悪いことを仰らないでください。そもそも、里の者は労いというものを頂く機会が少ないのです。守り手様の為に命を張るのが当然ですから。それに、粟路(あわじ)様も(さかえ)様も、どう考えてもその様なことなさらないでしょう。御当主も柊士様も、です。上がそうだと下もそうなります。結様の機転に、皆が喜んだ結果ですよ。」


 亘の言葉に、淕もウンウンと頷いている。


「ってことは、亘もちゃんと目下を労ってるわけだ。」

「ええ、もちろん。」


 亘は俺にニコリと笑って見せた。でも、汐は呆れたような視線を亘に向けている。


「そんな事を言って、いつも一言多いと、晦を怒らせているじゃない。素直に労えば良いものを。」

「素直に労った結果なのだが。」


 なるほど。

 二人のやり取りから、大体想像はつく。亘の場合、素直にストレートに伝えてるのは確かなのだろう。ただきっと、労うついでに言葉も選ばず余計な事を言って怒らせているに違いない。

 本当に、晦と朔が憐れになってくる。今度里に行ったら、日付関係なく、きちんと労ってやろう。

 俺はそう、心のなかで小さく決意した。

 

……それにしても。


「目上の者から目下の者へ、ね。」


 俺はチラと柊士の方を見る。すると柊士は、あからさまに嫌そうな表情を浮かべた。


「お前まで要求すんなよ。絶対にやらないからな。」

「でも、次期当主から、いつも結界の綻びを閉じて回ってる従弟(いとこ)に労いの一言くらいあっても……」

「元はエイプリルフールの冗談だって言っただろ。人には適用しない。妖連中だけで十分だ。」

「良いだろ、減るもんじゃなし。」

「減るんだよ、気力が。もう、用が終わったらさっさと帰れよ。」


 柊士はクイッと(あご)で玄関のある方を指し示す。

 どうやら、本当に労ってくれるつもりはないらしい。


「あーあ。あっちでも同じ事、やってんのかなぁ。」


 星が瞬く空を見上げて、俺は、不満とともにそう声に出して呟いた。




―――幻妖宮(げんようきゅう)


「いったいこれは、なんの騒ぎだ?」


 翠雨(すいう)が廊下を通りかかると、一箇所に奇妙な形で人だかりが出来ていた。というよりも、白月(はくげつ)の前に列ができていて、璃耀(りよう)が疲れたような顔でそれを眺めている。


「……良くわかりませんが、年に一度、目上の者が目下の者へ礼を言う日だそうで。白月様が、朝から目につく者へ片っ端から労っているうちに、あの方の前に近衛(このえ)が並び始め、蔵人所(くろうどしょ)の者が並び始め、それを聞きつけた軍団の者が、といった具合で、気づけばこの有様です。」


 よく見れば、廊下の角を曲がるほどに列が出来上がってしまっている。白月は自分の前に膝をつく一人ひとりの手を取って、何事か声をかけてはニコリと微笑む。

 声をかけられた者は、男女問わず頬を紅潮させたり、涙で目をうるませたりしながら頭を下げて嬉しそうに去っていく。


「これを朝からずっと?」

「ええ。」


 璃耀が諦めたような途方に暮れたような表情で返事をした。


「まさか、宮中の者全てに対応されるおつもりか?」

「放っておけばそうなるでしょうね。きりが無いので、裏で(こう)に近づく者を制限させています。とはいえ、午前限定だそうなので、そろそろ終了でしょう。まさか、この様なことで半日浪費することになろうとは思いもしませんでしたが。」


 ため息混じりに言う璃耀の視線の先では、浩どころか宇柳(うりゅう)や軍団の者まで動員して廊下の交通整理を行っているように見えた。

 しかし、そんなことよりも。


「……午前限定?」

「ええ。」

「もうすぐお戻りになると?」

「午前の分のお仕事もこなして頂かねばなりませんからね。」


 翠雨はそれに目を見開く。


「……璃耀、其方は? 白月様より御言葉を頂いたのか?」

「ええ、まあ。朝一に。」


 翠雨は愕然(がくぜん)とした面持ちで璃耀をまじまじと見つめる。

 限られた時間の中で自分を差し置いて、宮中の者共どころか璃耀にすら先を越されているとは。しかも、もうすぐ昼を迎える。


「私の番は……」

「あの御様子では、今並んでいる者だけで午後を迎えるでしょうね。残念ながら。」


 微塵(みじん)も残念さを感じさせない口調だ。


「な、何故、私に声をかけぬのだ!」

「……特に用事がありませんでしたから。」


 ぬけぬけと言い捨てる璃耀に、翠雨はぐぬぬと拳を握りしめる。このまま璃耀と話をしたところで時間の無駄だ。


「白月様!」


 翠雨はすぐに向きを変え、人混みをかき分けて白月に歩み寄った。


「ああ、カミちゃん。」

「ああ、ではありません。何故一番先に声をかけて下さらぬのです。」

「えぇ……そんな事言われても……璃耀とか、(なぎ)桔梗(ききょう)に声をかけてるうちにこんな感じになってたし……」


 白月は戸惑うように言い淀む。そこへ、


「白月様、翠雨様とその様な問答をしている間に午後になりますが。」


と、翠雨の望まない方向に空気を読んだ璃耀が邪魔に入った。


「璃耀にお声をかけたのなら、私のことも労ってくださらねば。」


 そう言いつつ手を差し出すと、白月は小さく首を横に振るう。


「だめだよ、横入りは。」

「しかし、璃耀ばかり……」

「璃耀ばっかりじゃないよ。皆平等。地位とか関係ないから。」


 翠雨がもう一度、ズラと並んだ者達に視線を向けると、居心地が悪そうに皆が視線を下にそっと逸らす。更に白月の眼の前で今正に膝をついている男に目を向けると、男はビクッと肩を震わせた。

 白月はその様子にハアと息を吐き出す。


蝣仁(ゆうじん)、カミちゃんを部屋に連れてって。あとで行くから。」

「白月様、今日はその様なお時間はもうありませんよ。」

「仕事終わらせてからなら良いんでしょ。午後になっちゃうけど、ちゃんと行くから。じゃないと、ここに居る皆が萎縮(いしゅく)しちゃうよ。」


 白月が蝣仁に目を向けると、蝣仁は承知した様にコクリと頷く。


「戻りましょう、翠雨様。お仕事もありますから。」

「いや、しかし……」

「この様なところで他の者に混じって御言葉を頂くより、後程落ち着いた場所での方が良ろしいでしょう。」

「まあ、それはそうだが……」


 なかなか動こうとしない翠雨の背を蝣仁が押すと、翠雨は恨めしげに白月の前に並ぶ者たちと璃耀を見やった。


「絶対に、お約束ですからね。」


 翠雨は切実な声音でそう言いつつ、白月が確実に(うなず)くのを確認する。しばらくその場で粘ろうとしたのだが、その場から移動させようとする蝣仁の説得に、翠雨はしぶしぶその場を後にしたのだった。




 それから数時間後、璃耀の眼の前で、白月は執務机の上に突っ伏していた。


「もう無理。あとは明日にさせてください。」

「午前を無駄にしたツケですよ。」

「無駄じゃないし。大事なことだし。」


 白月の言いたいことは璃耀にもわからないではない。上の者から労いをすることは、働く者の活力につながる。ただ、あまりにも対応する人数が多すぎた。


後ろ倒しになった仕事の処理で、もう外はすっかり夜闇に包まれている。


「もう頭が働きません。見逃してください。明日ちゃんとやるから。それに、カミちゃんのところにいかないと。」

「それこそ、もう明日で良いのでは?」

「だめだよ。約束したし。」


 璃耀はそれに、ハアと息を吐き出した。

 確かに、翠雨との約束を反故(ほご)にするとあとが面倒ではある。執拗(しつよう)に文句を言われるのは璃耀だ。

 そして璃耀が無視をすると蔵人所の別の者に飛び火する。


「……仕方がありませんね。残りは明日に。明日もあまり休憩は取れませんからね。」


 それに白月はうっと息を飲んだあと、小さくコクリと頷いた。


 白月と共に翠雨の部屋に向かうと、机の前に座り、先程の白月のように机に突っ伏した翠雨と、仕方のなさそうな顔でそれを見やる蝣仁がいた。


「来ない。」


 ()ねたようにそうボソリと呟く。それに、白月は苦笑を漏らした。


「カミちゃん、来たよ。」


 入口から白月が声をかけると、翠雨は勢いよくガバっと体を起こす。

 それに蝣仁があからさまにほっとしたような表情を浮かべた。恐らく、相当長い間愚痴(ぐち)を聞かされていたのだろう。

 翠雨こそ、蝣仁を労ったほうが良いのではないだろうか。

 そう思いながら、喜び白月の手を握る翠雨を、璃耀は呆れたように見やった。






ーーーーーーーーーーー


この件に関する各キャラの反応


奏太:恥ずかしがりながらも一応対応する。次々来られるとやめ時を見つけられない。


亘:結に言われた相手にだけ対応する(余計な一言つき)


汐:口数少なく淡々と一言だけ伝える(そんなところが良いという一部の声あり)


柊士:煩く本人に直談判されるか、逆らえない誰かにやれと言われるまでは絶対に対応しない


白月:はい、よろこんで!


璃耀:来年はきちんと予定に組み込んで対策を立てておかねば……(自分が下にするつもりはさらさらない)


翠雨:来年こそは朝一に伺い璃耀に先を越されぬようにせねば……(自分が下にするつもりはさらさらない)


泰峨:なる程、一理ある。来年は近衛にも取り込んでみるか(割と前向き)


瑛怜:は? その様なことになんの意味がある。無駄口叩いてないで仕事しろ(無関心)


蒼穹:まあ、一応腹心にはやっとくか(適当)それより、しばらく近づかないようにしないと良いように璃耀に使われるな。


蝣仁:翠雨様も白月様を見習ってくださらないだろうか(黙ってる)

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