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冬の森の死体安置所  作者: 山田太朗
第七幕 デイドリーム・ビリーバー
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3.日記

「ええ、っと……確かこの辺に」

 イヴェルナが辞した後に自室に向かうと、契約書の確認を始めた。当然、今回の『埋葬』に関することだ。イヴェルナがそう言ったからとして、それが果たして真なのか自分で納得したかったからだ。書物だらけの部屋から分厚い契約書の写しを見つけると、イルミナはもどかしげに(ページ)を手繰った。

「本当だ」

 イルミナは誰にともなくそう呟いた。

 曰く――国家が必要だと認めた時のみ、農林水産大臣、ギルドマスター、国家総務大臣の閣議(かくぎ)により決定されると、当時の王陛下から『埋葬』の命令を下すことがある。その場合立ち会いはギルドマスターとなり、管理人は儀式の遂行、並びに通訳に専念し、正しく安全に儀式の終了を目指さなくてはならない。

 (おおむ)ねこんな感じで書いてあった。

 国家が必要と認めたとき。確かにそう書いてあるが、イルミナには今回『埋葬』される人間がどう絡んで来るのか全く理解できない。何せ彼はただの医者である。

 とはいえ、分からないのはいつもの事であるし、管理人側からしたら、いつも以上の守秘義務が課せれるだけでやるべき事自体は変わらないだろう。それに安堵すると、イルミナはいつもよりもやや遅めの朝食(あるいはやや早めの昼食)を待っているザックがいることを思い出し、足早に食堂へと向かった。


「こんなことって前もあったの?」

 イルミナは自分の分のベーコンエッグを手に持ち、普段通りお祈りをすませると無言のまま食べ始めているザックへと問いかけた。

「何度かはあった」

「ふうん。じゃあザックに任せていたら安心だね。あたしはいつものように通訳していたら良いんでしょ?」

 いつもの事だから返答を期待せず、目玉焼きに振る塩に手を伸ばしたところでザックが「気をつけろよ」と言うのでイルミナは固まった。

「……どういう事?」

 怪訝な顔をしたイルミナに視線もくれず、ザックはボウルに入った生野菜に手を伸ばす。ドレッシングを振らず、いつものようにそのまま食べるザックを見て、イルミナは先ほどの言葉は聞き間違いかと思ったほどだった。

 これ以上聞いたら食事中のマナーにやたらとうるさいザックに怒られかねないので、イルミナはため息を落として食事に取り掛かる。


「どこ行くの?」

 朝食兼昼食を先に摂り終えたザックは、いつものように暖炉に向かわず、死体安置所に通ずる扉に手をかけていた。

「ちょっと待ってろ」

 そう言い残してどこかへと行ってしまったザックに、イルミナは今度こそ眉根を寄せることとなる。普段の彼らしからぬ言動もそうだったし、今日のザックはやけに神経を尖らせている。そんなに彼女の香水が嫌いだったのかな? そう思いもしたが、もう三年近く彼と暮らしているイルミナだからこそ理解できた。ザックは――とても緊張しているのだ。

 やがてザックは一冊の書物を手に戻ってきた。のんびりと食べていたイルミナに「まだ食べ終わってなかったのか」とばかりに顔を顰め、「食事を終わらせてから読んでみろ」と今度は口にして、テーブルの隅っこにそれを置いた後いつもの定位置の暖炉へと向かう。イルミナに背を向けて何か手元を動かしている。おそらくいつもの木工細工作りなのだろう。その背中は「もう話しかけるな」という圧に満ちていて、今度はイルミナが顔を顰める。

 ザックがうるさいので言われた通りに食事を終え、テーブルを片付けるとイルミナは書物に向き合った。

 それは糸で綴じてある、どこにでもあるような厚めのノートブック――日記帳とかいうやつだった。表紙にはあまり達筆ではないやたらと右上がりに日付が記されている。隅の方に署名がしてある。その名は見覚えがあったが、誰だったのかまでは思い出せない。

 ザックに聞こうと顔を上げたら、いつの間にか隣にいて声が出そうになった。

「ちょっと、ザック! 驚かせないでよ」

「それは」イルミナの小言を無視してザックは日記帳を指差す。「お前の前任者が記したものだ。死ぬ前日にやった『埋葬』の詳細が書かれている」

「それって違法なんじゃ……」

 当然ながら取り扱っている情報などから『埋葬』は極秘事項とされている。口頭はもちろん、記述して残すなんてもっての外なはず。どこまでを外部に漏らしても良いのかまでは記憶していないが、その罪状は裁判を待たずして決定される終身刑、もしくは死刑なのは確実に覚えている。

「巧妙に隠していたのを俺が見つけた」

 そう事もなげにザック。

「どうして国に提出しなかったの?」

 イルミナからの当然の疑問は、いつものように肩をすくめるだけにしてザックは無言のまま頁を開く。

 どうやら前任者はまめな人間だったようで、ぱらぱらと手繰られる頁には依頼人だの、『埋葬』者だのが細かく分けられていた。行きすぎて白紙になったところから少し戻ると、ノート数枚にびっちりと『埋葬』その内容が書かれていた。何気なく追った文字列が「これは呪いだ」と記してあって背筋が伸びる。筆圧がかなり強い性質(たち)だったようで、ところどころ文字が(にじ)んで読みにくい。

 イルミナの目に留まったのは冒頭に記された依頼人の名前と、そのすぐ下に書かれた、「こんな事、知らなければ良かった」という書き出しだった。




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