終点、暗転
「ミュールさんっ!!」
筋弛緩薬が効いている。
焦燥とは裏腹に上手く動かない身体に苛立ちながら、座席の背もたれを伝いながらミュールの傍に寄ったレイはその拳を見分する。
「…………」
開放骨折。
中手骨の先端が皮膚の外へ飛び出し、割れ落ちてトゲのようになっていた。その骨にまとわりついているピンク色の肉が溢れる血液で濡れている。
両拳の中手骨が外に出ているから、最早、拳を握り込んだまま開くことは出来ない。
「いだぁい~!! 三条妹ぉ、ミュール先輩って言え~っ!!」
アドレナリンが切れたのか。
激痛でわんわんと泣き始めたミュールは、泣きながらレイの胸に縋り付いてくる。
「なんでこんな無茶を……っ!? 貴女といい桜さんといいラピスさんといいお兄様といい……っ!! なぜ、関係のないことに首を突っ込むのですか……っ!?」
「か、関係あるだろ……」
すんすんと鼻を鳴らし。
レイに頭を撫でられていたミュールは、涙目で彼女を見上げる。
「お前は……ヒイロの妹だし……たまに黄の寮にも遊びに来ていた……お前のことを可愛がっているフレアには借りもあるし……鳳嬢の大切な後輩だ……関係しかないだろ……」
「意味がわかりません……なぜ、他人のためにココまで……」
「だぁ~かぁ~らぁ~!! 他人じゃないだろぉ~!! おまえぇ~!! わたしの後輩で、フレアの子分で、ヒイロの妹だろうがぁ~!! なんで、おまえはぁ~!!」
ぐすぐすと泣きながら。
ミュールは、レイのお腹に顔を擦り付けてくる。
「誰かが自分をどう思ってるのか考えないんだぁ~!! もっと、気合い入れてナデナデしろぉ~!! 殺すぞぉ~!!」
小さな先輩を撫でながら。
ぼんやりと、レイは三条家の本邸に現れた兄の姿を思い出した。
そして、その姿に父の笑顔が重なる。
「……私は」
レイは、小声で虚空へ尋ねる。
「私は……なにがしたかったのでしょうか……貴女も桜さんもラピスさんも……お兄様も……私のためにココまでしてくれた……最初から……最初からこうなることはわかっていた……お兄様は必ず迎えに来る……でも……それでも……」
片手で。
己の目元を覆ったレイは暗闇へ逃げる。
「あの人には……あの人にだけは……しあわせになってほしかった……」
「それは、お前の願いだろ」
ミュールは言った。
「アイツの願いじゃない」
「…………」
ゆっくりと。
レイは顔を上げて――光――咄嗟にミュールを突き飛ばし、左肩へ短刀が突き刺さる。
「ご歓談中、申し訳ないが」
倒れ伏しているネズミは笑みを浮かべる。
「終点だ」
振り向く。
先頭車両のガラス窓の先には地面があった。
瞬間――衝撃――世界が闇へ染まった。




