暗躍は忍者の得意技
『カオーちゃんと手を組まない?』
三条家地下の座敷牢。
地面に転がっている侍衛頭は不審げにこちらを見つめ、俺はワラキアの肩を掴み壁側へと向かせてから声を発する。
「どういう意味だ?」
『どういう意味もなにも、そのままの意味っしょ〜? 巫蠱継承の儀で、カオーちゃんと手を組まないかってこと……You Knowだとは思ってるけど〜、キリウはガチガチに前準備を整えてから儀に参加するよ。そもそものそも、レーちゃんがひーろーくんの前からいなくなり〜の、三条家当主がお亡くなりになり〜の、レーちゃんが『藤原』を名乗り巫蠱継承の儀を取り仕切り〜の……ぜんぶぜんぶぜ〜んぶ、キリウが計画的に進めていたハンコーだからNE♡』
「だろうな。俺から見れば唐突なレイの心変わりも、裏でキリウがコトコト丹念に煮詰めた策謀のお陰だろうよ……そうであれば、なおさら、俺は巫蠱継承の儀に参加すべきじゃないと思うが?」
『そいつぁ、どうかな〜?』
画面上で、『?』マークの手持ち看板を降りながらカオーは笑う。
『たぶん、ひーろーくんの思う以上に巫蠱継承の儀の縛りは強くて重い。アレは、歴代の三条の血を吸ってきた儀式呪法だからね。血縁による縛りはストロングだよぉ〜? 巫蠱継承の儀を経た次代当主の決に対し、藤原、三条、徳大寺、西園寺の四家の血族すべてが逆らえなくなるくらいには。レーちゃんを救うための前提条件のひとつである「三条家当主となる」を満たすには儀に参加する他ないのだ〜♡』
俺、レイ、キリウ、カオウを模したミニキャラが描かれた手持ち看板を振り回し、俺以外のミニキャラを画面外に吹き飛ばしてから、カオウは背景にデカデカと『WIN!』の蛍光文字を表示させる。
「要は、俺が参加せざるを得ない状況に置かれていることも含め、なにもかもキリウの計画通りに進んでるってことだろ? なーにが巫蠱継承の儀だ、最初から結果がわかってるクソゲーじゃねぇーか」
「そーだー!! くそげーくそげー!!」
イヤホンを着けていないため話に混ざれないワラキアは、俺の首に縋り付いて胸を押し付けてきながら賛同の声を上げる。
『だから、手を組むんでしょーが』
ワラキアの顔面を掴み引き離しながら、俺はエイデルガルトが開いているノートPCに映るカオウを見つめる。
「お前、自分が信用に値する人物だと思ってるってことか? もしかして、自分の立ち位置を正常に認識出来ないオンボロCPU? お前と比べれば、ネットの海にはびこる陰謀論の方がまだ信じるに値するぞ」
『西園寺華扇は貴方と藤原黎の味方をしていると、ずば抜けた思考能力を持つ貴方なら理解している筈。既に察しているとは存じますが、魔法合宿で自殺呪詛を仕組んだのは西園寺華扇……巫蠱継承の儀には、藤原、三条、徳大寺、西園寺の正嫡が必要ですから、キリウさんが貴方を表舞台へ引っ張り出そうとするのは予想がついておりました。儀の発動を防ぐのがまずは肝要ゆえ、当主の死という引き金を引かれて、なし崩し的に貴方が参加を余儀なくされる前に手を打とうとしたのです。だから、貴方を魔法合宿の場に釘付けにし事が終わるまで監禁しようと計画した』
画面内で姿勢を正し、真顔でカオウは淡々としゃべり始める。
『しかし、結果はご存知の通り……キリウは魔法合宿に自ら乗り込み「三条燈色を三条家当主に祭り上げる」という名目で、ライゼリュート、Qすらも巻き込み西園寺華扇の計画を有耶無耶にした』
瞬きひとつせず、早口でカオウは続ける。
『言い訳がましいかもしれませんが、キリウさんが破絶のQを使うとは思いもしませんでした。恐らく、キリウさんは今回の計画を立てる途上、ヒイロさんを調査する段階でクロエ・レーン・リーデヴェルトの中にQがいることを嗅ぎつけ利用しようと考えた。ヒイロさんの三人の婚約者を害そうとしたのも、自分への注意を逸らすためのパフォーマンスの一環でしょう。ヒイロさんに死なれて困るのは事実でしょうが、それだけ調べ上げている以上、あの程度のことで死ぬような人間ではないと理解していた筈です』
「まぁ、QはQでキリウのことを利用してたんだろうがな……で、その口調はなに? 面接中?」
『信頼に足る人物じゃねーって言われたから、わざわざ、敬語口調でしゃべってやってんだよ♡ 察しろ、モテねーぞ♡』
「なにしてもモテんだから、察しようが察しまいが関係ねーだろうが!! なにもわかってねーガキは黙ってろッ!!」
「きょ、きょーちゃん、お、落ち着いて落ち着いて!! ステイステイ!!」
今までの苦難を思い出し、ぶち切れた俺をワラキアが押さえつける。
ようやく落ち着きを取り戻し、俺は画面へ目をやった。
「話に矛盾はないし、お前が巫蠱継承の儀を利用し次代の当主になろうと目論んでいるならコレまでの動きはあまりに無能過ぎる……状況証拠的に信じてやるよ。だが、なんで、こんな状況になる前に俺とレイに協力を申し入れなかった?」
『テメーがカオーちゃんを信用出来なかったように、カオーちゃんだってテメーらを信用出来てなかったんだよ♡ 男は無能だって前提から見れば、身辺調査も終わらない段階からキリウに気付かれるリスク犯して接触試みるわけねーだろ♡ 少しはその無い頭で考えろ、ボケナスが♡』
「ん〜? そんなことわかりきった上で、信頼関係構築のために説明させてるってことくらい理解出来ないんでちゅか〜? カオーちゃんじゃなくて、ムノーちゃんでちゅねぇ〜? 画面の中に引きこもってたせいで、精神年齢が3ちゃいになっちゃったのかな〜?」
『殺せ、エイデルガルト』
「ンごごぉ……っ!!」
俺の背後に回ったエイデルガルトは俺に裸締めを仕掛けて首を折ろうとし、ワラキアは素早くエイデルガルトの首根っこを掴んで放り投げる。
着地したエイデルガルトを見て、画面上のカオウは顔を引き攣らせる。
『ご、ごめん、冗談だったのにホントに殺しにかかるとは……』
「ごめんなさい、私も冗談のつもりだったのだけれど殺せそうだったから殺そうと思って」
「こんなイカれたボケを放し飼いにしてんじゃねーよ!! 殺処分しろ殺処分!!」
真っ赤な顔をして泣きながら非難する俺を見て、カオウは白けた表情で目を細める。
『……で、手ぇ、組むの?』
「組むだろ。てか、組まないと俺ら負けるぞ」
『だよね。でも、カオーちゃんがひーろーくんに味方することはキリウも織り込み済みだと思う』
「なら、虚を突くためにもう一手混ぜ込むか」
『もう一手?』
カオウの問いかけに俺は頷く。
「エイデルガルトに、キリウへと寝返ったフリをさせる」
自分で言っておきながら、俺は苦笑する
「ただ、正直、通るかはわからない」
「通るわよ。わたしはキリウ専属の忍びだもの」
壁に背を預けて、目を閉じているエイデルガルトは静かに答える。
その返答を聞いて、原作ゲームで既知ではあるものの、俺は驚愕の表情を作ってみせる。
「お前、キリウ専属だったの? それがなんだって、カオウのお付きに?」
「話せば短いから割愛しないけれど、わたしの母はキリウの母代わりだったの」
「『話せば短いから割愛しないけれど』……いる?」
正常な脳を持つ俺の正当な確認を無視し、異常な脳を持つ変人は淡々と話を続ける。
「キリウの両親はキリウに関心がなかったから、わたしの母がその代わりを務めていたのよ。その縁もあり娘であるわたしもキリウに付いていたのだけれど、他ならぬ主君であるキリウに『今後、自分がなんと言おうともカオウだけの命令を聞け』と厳命されている……わたしが主君の命を違えることはないわ」
「でも、それであれば、キリウはお前が二心を持ったとは信じないんじゃ……」
「恐らく、わたしではなく母であれば信じなかったでしょうね。でも、キリウとわたしは長い年月を重ねて信頼関係を築いてるわけではない。それに加えて、わたしがまだ幼い頃に交わした口約束よ。わたしの母をよく知っているキリウの立場からすれば、個人的な情に流されて自分へと寝返ったと考えることはそう不自然じゃないわ。簡単にこのノートPCをキリウから取り戻せたのも、キリウはどこかで私に信を置いている証左になるでしょうし」
「…………」
黙り込んだ俺を見て、エイデルガルトは肩を竦める。
「大丈夫よ、本当に裏切ったりはしないから」
「なんで、そう言い切れる?」
エイデルガルトは、真っ直ぐに俺を見つめる。
「母は、一度も、主君を裏切ったことはなかった」
『なにはともあれ、話は決まり。エイデルガルトは、キリウにトドメを刺せると思える場面までは動かないようにして。虚を突けるのは一度限り、しんちょーにね』
「任せて」
『「「…………」」』
そこはかとない失敗の可能性を感じながらも、俺とカオウたちは手を組むことに合意した。




