ヒイローズ
連続する爆発。
細まったキリウの眼、彼女は煙草を立てて――引き金を引く。
「指向性がある……ミスナイ・シャルディン効果か……魔法で型を作った爆発成形侵徹体……合図はなし、時限式じゃない……この爆破範囲で実体が視えない……不可視の矢を応用したか……」
ぼそぼそとキリウはつぶやき、俺は、冷や汗を流しながら笑う。
おいおい、コイツの推察力はどうなってんだ……威力を高めるために爆発成形侵徹体を仕込んだのはしくじったか……いや、いずれにせよ、キリウの眼は誤魔化せない……不可視は不可視、この状況下で精確な位置を特定するのは不可能……それに……。
俺は、引き金を引く。
強風――不可視の殻の位置が、パターンBからパターンAへと推移する。
重力制御 《 グラビティ・バランサー 》 で軽くした爆破殻は、一定以上の風量、風速、風向きで位置を変えることが可能……俺とシルフィエルの魔力を総動員した合計200個の爆破殻は、AからEパターンまでの風で設置箇所が変じる。
爆破、爆破、爆破ッ!!
噴き上がる爆轟波、大量の爆発成形侵徹体がライゼリュートの巨体を貫く。
「位置が……風で爆発物が雪崩込んでくる……」
キリウは、ニヤリと笑う。
「くくっ……坊っちゃん、あんた、何手先まで組み立てて来てるぅ……いやはや、ライゼリュートという圧倒的な優位性をもってしてもコレとはねぇ……つくづく、この世界に嫌気が差してくる……ライゼリュート」
キリウはつぶやく。
「縮まれ」
しゅんっと、ライゼリュートは小型化し朧車へと着地する。
「いらっしゃいませぇ~!」
来店を祝った俺は、高らかに指を鳴らし――ライゼリュートの首が爆炎で吹き飛ぶ。
「お客様の体格に合わせ、S、M、L、LLにXLまで、多種多様の爆破殻を用意させて頂いておりますぅ~! やだぁ~! お客様、赤色がお似合い~!」
「……あんた、ホントにスコア0か」
キリウは苦笑し、煙草の煙を吹かした。
「ライゼリュート、膨らめ」
「それは」
天を覆わんばかりに。
巨大化したライゼリュートは、爆破殻の爆破を受けながら権能の発動の準備を始める。
「ズルだろ」
「魔人ってのは、そんなものでしょぉ?」
この世を撫でつけるみたいにして、ライゼリュートは両手のひらで三条櫻の上辺を擦った。
そこから裂け目が生じ、世界に亀裂が入って――止まる。
キリウは眼を見開いて、俺のことを凝視する。
燈色の瞳。
俺の瞳が『燈色』から『緋色』へと移り変わるのを見て――キリウは察知する。
「まだ、三条燈色の自然開眼は完璧じゃないッ!! 陽、ライゼリュート、世界を変えろッ!!」
なにかが捻じ曲がる感覚。
俺は、再度、払暁叙事を開眼し『漂白が不発に終わる』世界への平行移動を行おうとして――両目に激痛が走る。
「ヒーロ、払暁叙事が馴染むまで待てッ!! 自分の意思で開こうとしても、それは強制開眼にしかならないぞッ!!」
「そんな時間ねぇだろうがッ!!」
アルスハリヤの忠告を無視した俺は、無理矢理、眼を開こうとし――キリウの全身が爆炎に包まれる。
空中を歩いてきた杖ヒイロは、絶え間なく火球を宙空に発生させながら爆発させ、足の止まったライゼリュートの首から上に斬撃が走る。
かと思えば、その頭上から降り注いできた幾万の弓矢に全身を貫かれ、鋼糸が絡まった両腕両足が吹き飛び、最後に突っ込んできた拳ヒイロの一撃を受けて巨体が倒れる。
続々とやって来たヒイロたちを代表し、杖ヒイロは、俺の背後で静止しているライゼリュートの群れを親指で指した。
「頭を怪我しているライゼリュートたちは指示待ちのラジコンみたいなもので、この世界のキリウの指示がなければまともに動けやしない。そっちの意識がこっちに移れば、ああやって静止して指示待ちの状態になるみたいだ」
「平行時空仮構論を使えるのは、この世界に存在しているオリジナルのライゼリュートだけの筈だ。オリジナル以外のライゼリュートにもその能力が備わっているとは思うが、同時に平行時空仮構論を発動して『権能の衝突』が起きた場合のリスクを鑑みればその手は切れない」
杖ヒイロの言葉に頷いて、俺は、自説を口にした。
「例えば、ライゼリュートAが『白いカラスが存在する並行世界』への平行移動を行おうとした時、同時に、ライゼリュートBが『白いカラスが存在しない並行世界』への平行移動を行った時に生じる矛盾……恐らく、それは、長和六年の禍どころではない世界同士の衝突と破壊を生む。他にも、様々な事例と逆説が考えられる。キリウは権能に関する仮説の検証を行うことはほぼ出来なかった筈だ。下手すれば、実験の最中に自分どころか世界が吹っ飛ぶからな」
弓ヒイロは、俺の推測を受け取ってから続けた。
「平行時空仮構論の制限はそれだけじゃない。平行時空仮構論は、例えば、『三条燈色が存在しない』という事象をこの世界に平行移動させてくることは出来ない筈だ」
拳ヒイロは、赤熱している拳を振りながらつぶやく。
「詳細に入る前に、俺たちの認識を合わせよう。ライゼリュートが平行時空仮構論を使って出来ることは大まかにふたつ。
一、空間に開いた画を通じて、現在、自身がいる世界(現在界座標)とは異なる並行世界への移動を行う。
二、現在界座標とは異なる並行世界から、自身がいる世界(現在界座標)へと事物や事象を運ぶ」
汚いヒイロは、指を二本立てて整理を行う。
「一の能力の制限についての議論は不要だな……開いた画を通れる対象、容量、寸法についての指標となる情報はない。ほぼ無限と考えておこう。二の能力を使用するには『自然開眼した払暁叙事の固有魔法の発動』という前提が必要になる。なぜならば、自然開眼した払暁叙事の固有魔法が使えなければ、運んでくる事象や事物の選択(指定選択を行う際に、対象となる事象、事物が発生した時空の情報が必要となるため)を行うことが出来ないからだ。つまり、本来のライゼリュートの権能は一のみだったが、『払暁叙事の固有魔法』という要素が加わったことで、追加で二の権能も使えるようになっている。ここで弓ヒイロの言っていた『平行時空仮構論の制限』についての話に立ち返ろう」
着物ヒイロの言う事を聞きながら、ひとり、離れたところに居座り話し合いには参加していない車椅子のヒイロは無言を貫く。
「二については、平安から現代に戻ってくる際に俺が利用した権能だな……あの時、俺は、ライゼリュートの権能と自然開眼した払暁叙事の固有魔法を使って『三条燈色がライゼリュートに殺されない』という未来の事象をこの世界に運ぶことで助かった」
弓ヒイロは、俺の言葉を引き取る。
「『三条燈色が存在しない』という事象をこの世界に平行移動させてくることは出来ない……コレもまた矛盾、逆説の類が発生するであろうことから考えられる権能の制限だ。要は、現在界座標には既に三条燈色が存在しているが、三条燈色の存在性は過去、現在、未来にまで跨っており、彼に纏わる関係、記憶、軌跡は無限に枝分かれし、その数量は理論上、無限にまで至っているため測定はおろか観測することすら叶わない。誰も認識出来ない花を部屋に飾っても意味がないように、誰も観測出来ないものに権能を発動しても意味がない。『三条燈色が存在しない』世界は存在し、その事象も存在してはいるんだろうが、既に三条燈色が存在しているこの世界に運んできたとしても無意味ってことだな」
「つまり、『三条燈色が存在しない』という事象をこの世界に運ぼうとしてきても空振りに終わるってことか……出来るんだったら、とっくの昔にやってる筈だしな」
そう言って、杖ヒイロは肩を竦める。
「なら、ここからは」
俺を先頭に、俺たちは声を合わせる。
「「「「「愚直な殺し合いだ」」」」」
「なんか、ヒイロくん増えてない?」
「まさか、自分を増やすことで重婚を回避するとは……嫁を増やすために並行世界まで用意するなんて、世のハーレム主人公も真っ青な手腕で――」
「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」」」
月檻とスノウのやり取りを叫声で吹き飛ばし、俺たちはライゼリュートへと襲いかかった。




