三条燈色大安売り
俺の眼前には、六人の『三条燈色』が並んでいる。
一人目は、神殿光都産らしい弓を担いでおり、ルーン文字が刻まれた指輪をつけているヒイロ。
二人目は、燃える宝石を頂点につけた短杖を帯びているヒイロ。
三人目は、どこか見覚えのある黒い手袋を両手に嵌めており、どことなく剣呑な雰囲気を漂わせているヒイロ。
四人目は、三条家の三つ紋が入った紋付着物を着ており、魔導触媒器らしき大小を携えているヒイロ。
五人目は、手入れされていない蓬髪を野放図に伸ばし、先程から落ち着きなく腰の九鬼正宗を指で弄っているヒイロ。
そして、六人目は……両手両足を欠損した状態で車椅子に乗り、腰辺りまで白髪を伸ばし右目に血の滲んだ包帯を巻いているヒイロ。
「「「「「「…………」」」」」」
無言で。
俺たちは互いに互いを見つめる。
そして、同時に――
「「「「「オェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」」」」」
嘔吐した。
車椅子に乗ったヒイロを除いて、全員が全員、互いに背を向けてゲロをぶち撒ける。
その言動を目の当たりにし、瞬時に俺たちは相互理解を果たした。
「あんたら、本当に『俺』入りの三条燈色みたいだな……この世界のオリジナルのヒイロ、つまり、ゲーム上のヒイロであれば嘔吐したりはしない筈」
「あぁ、まぁ、ひとりを除いては」
俺の呼びかけに対し、弓を担いだヒイロは車椅子に乗ったヒイロへ眼を向ける。
「……………」
濁った片目を虚空へ向けたまま、車椅子のヒイロは微動だにしない。
俺を含めた六人のヒイロは、一旦、彼のことは放置することとしてライゼリュートを仰ぎ見る。
「リッスン、聞いてくれ、俺。オリジナルヒイロの俺が状況を説明する」
「いや、ふざけんな、誰がオリジナルヒイロだよ。明らかに俺こそがオリジナルヒイロだろ。見てみろ、この眼の輝き。原型にしか灯せない百合好きの美しい色合いが宿ってるだろーが」
「ざけんな、タコナス。どの口でとぼけやがる。テメェ、その弓、明らかにラピス・ルートに入ってる証だろ。なんで、月檻じゃなくてお前が持ってんだよ。毎月の百◯姫を履修していれば、斯様な大罪の証を背に背負って並行世界にピクニックになんて出かけられない筈だが?」
「おい、てか、その黒い手袋はなんだよ。それ、リウのだろうが」
「一回、落ち着けよ、俺!! ゆる◯りの世界観だ!! ゆる◯りの世界観で、一回、クールダウンしよう!!」
「なんか、最近、『なんか人気出るし百合要素入れとこ!』みたいな作品増えすぎじゃねぇか!? ふざけてんのか!! ありがとうございます!!」
わーわーぎゃーぎゃー。
俺たちは怒気を発し唾を散らしなじり合いながら、眼前の不倶戴天の天敵をこの世から滅しようという共通の考えでまとまろうとした時――歩を止め、こちらを見下ろし、静かに観察している魔人たちの気配を感じ取る。
「皆、一旦、殺し合いは後の楽しみに取っておこう」
俺の言葉に、五人のヒイロたちは頷く。
「あまりに俺たちは俺たち過ぎる。一旦、司会進行はこの世界のヒイロに任せよう。早めに現状を理解しないと各個撃破されるだけだ」
杖を持ったヒイロは、そう言ってから俺へと眼を向ける。
片手を挙げて、俺は、ヒイロたちの視線を惹いた。
「見るに各々の現況は異なるようだが、俺とあんたたちの目的は共通の筈だ。初めに魔人を倒し、その後、時間が余れば殺し合う。三条燈色のゴミカスどもがよ、雁首揃えてゴキブリみたいに湧いてきたことを後悔させてやるよ」
相違はないのか、ヒイロたちは頷く。
「まず、現状を伝える。一瞬ではあるが払暁叙事の自然開眼に成功した俺が、あんたたちのことを呼んだ。並行世界から自身を呼び寄せ始めたライゼリュートに対抗するためだ」
払暁叙事の自然開眼と聞いて、一部のヒイロたちは驚きの表情を見せるが、余計な質問になると判断したのか俺への追求を避けた。
「現在は様子を見てるが、数分後にはライゼリュートとの戦闘に入る。指示系統に混乱が出ないように呼び名を決めておこう」
短い議論の後、俺たちの呼び名が決まる。
まず、俺の呼び名は、呼び寄せた張本人であることから『ヒイロ』となった。
弓を担いだヒイロは、『弓ヒイロ』。
杖を持ったヒイロは、『杖ヒイロ』。
手袋を嵌めているヒイロは、『拳ヒイロ』。
着物を来ているヒイロは、『着物ヒイロ』。
蓬髪のヒイロは、『汚いヒイロ』。
そして、車椅子に乗ったヒイロは『車椅子のヒイロ』(本人は話し合いに入らず、無視するので勝手にそう呼ぶこととした)。
「よし、呼び名も決まったことだし、一致団結、ライゼリュートを倒し――」
「……違う」
しわがれ声。
初めて口を開いた車椅子のヒイロを見て、俺たちは思わず黙り込む。
「違うって……なにが?」
代表して俺がそう問うと、彼は静かに答える。
「ライゼリュートなどどうでも良い」
五人分のヒイロの視線を吸い込み、彼は、剣呑な眼光でこちらを射抜く。
「殺せ」
車椅子のヒイロは言った。
「月檻桜を殺せ」
俺たちは、無言で、顔を見合わせた。




