自愛自縛
「巫蠱継承の儀を完遂させるって……夏休み終わった後に宿題出したところで、先生に怒られることは確定してるようなものでしょ?」
「いや、夏休みはまだ終わってない」
ラピスの疑問に、俺は微笑を交えて答える。
「ライゼリュートが自分で設けた自縄自縛だ。愛を知る唯一の魔人になるため、アイツは『三条家』に仕えてる。現在は、霧雨も華扇も黎も、そして燈色も……すべからく三条家で対等。霧雨の言う事を優先的に聞いているのは、陽が後援者にいるから。巫蠱継承の儀は、三条屍が長きに渡り完成させた呪法のひとつ……次代の三条が決まれば、浮いていたライゼリュートへの命令権が手に入る」
「陽と霧雨は、ライゼリュートの命令権を……三条の力を得てなにをしようとしてるの?」
俺は、ラピスの射撃を受けながらも再生を繰り返し、三条櫻へと至ろうとしている陽を、そして、霧雨を見つめる。
――皆で……咲いた櫻を……櫻を見たかった
俺は、もう知っている。
――もし、全を救い個を見捨てることを正義と言うのであれば、個を救うために全を見捨てることを悪と呼ぶのでしょう
あのふたりの願いを。
――ぼかぁ、悪の味方で在りたい
だから、俺は、反目する悪を悪むしかない。
「……皆、巫蠱継承の儀における四つの遵守事項を憶えてるか?」
独り言じみた月檻の質問には答えず、俺は、月檻、ラピス、寮長へと目を向ける。
「壱、列席する四家は、己を含む四人の列席者を集めなければならない。
弐、朧車から下車するか死亡した場合、列席権を放棄したと見做す。
参、巫蠱継承の儀は列席者が独りになるまで続く。
肆、終局まで儀に列席した者が属する家を次代の継承本家と裁定する。
……だっけ?」
顎先に指を当てた月檻はスラスラと答え、黙り込んでいたラピスは顔を上げる。
「……それっておかしくない?」
俺は微笑を浮かべる。
「あぁ、おかしい」
「おかしいってなにが? ヒイロの頭か?」
「ちょっともぉ~、りょぉちょお~、発言には気をつけてくださいよぉ~! 俺の頭のおかしさ、見せつけちゃってもいいんですかぁ~?」
「申し訳ございませんでした。手始めに土下座させてください」
手始めが土下座レベルで、俺の頭のおかしさに確信を抱くのはやめろ。
深々と土下座し続ける寮長のつむじをガン見しながら、俺は、ラピスの疑問への答え合わせを始める。
「あれ」
俺は、ライゼリュートの肩に乗る霧雨を指差す。
「どう見ても下車してるよな」
「まぁそう見えるけど、大前提、本当に霧雨は巫蠱継承の儀に則るつもりはあるの? 長和六年の禍の再現とライゼリュートの能力+三条家の権力がイコールで繋がってるとは思えないんだけど……ん?」
インタビュアー気取りの月檻は、マイクもどきの剣柄を俺の口元へ突きつけてくる。
そのマイクへ、俺は口元を近付ける。
「破壊と再生はワンセットだよ」
ピンと来たのか、月檻は苦笑する。
「あぁ、なるほど、狙いは異界じゃなくて現界か……いるの?」
――平安異京と座標が重なっているのは三条家の本邸
「あぁ、長和六年の禍の再現……現界と異界の重ね合わせを行えば、再度、ふたつの世界が入り混じり双方が弾け飛ぶ。巫蠱継承の儀の結を見るために集った三条家のお偉いさんたちは、ひとり残らずこの世から消え失せるだろうよ」
「文字通り、漂白じゃないか! よくもまぁ、そんなおっそろしいこと考えつくもんだなぁ!」
腕を組んだ寮長は、うんうんと感心する。
「霧雨は三条家の面々を皆殺しにして漂白して再建の土台を整えた後、ライゼリュートの能力と三条家の権力を使って自分の目的を果たそうとしてるんでしょ? だったら、やっぱり、巫蠱継承の儀の遵守事項を守る必要があるってことだよね?」
「あぁ」
「なら」
ラピスは、番えた矢の先で霧雨を指した。
「アレはなに?」
「ニセモノ」
誰よりも早く、ミュールは答えた。
「贋作だ」
「あぁ、寮長の言う通り、本物の霧雨は――」
俺は、真下を指差す。
「朧車に乗っている」




