はい、喜んで!お任せください。
ついに、待ちに待ったお出かけの日がやってきた。
最初に目を覚ましたのはヒロ(ヒロト)だった。壁の時計に目をやると、時刻は朝の9時半。彼は小さくため息をつき、眠い目をこすりながら呟いた。
「あーあ……もうすぐ待ち合わせの時間じゃん」
重い体を無理やり引きずるようにしてベッドから起き上がり、自室のドアを開ける。出迎えたのは、静まり返った静寂なリビングだった。あたりを見回し、心の中で思う。
(シルヴィアのやつ、まだ寝てんな、これ)
そのまま洗面所へ向かい、冷たい水で顔を洗って眠気を吹き飛ばし、歯を磨いてから、鏡の前で髪型をきっちりと整えた。
それから小さなキッチンへと移動する。片手で手際よく朝食を準備しながら、もう片方の手には最近気に入って購入したライトノベルの単行本を握りしめ、その活字を熱心に貪り食うように読んでいく。しばらくして、湯気の立つ朝食の皿をテーブルに並べると、大声を張り上げて叫んだ。
「シルヴィア! 起きろ! 朝飯できたぞ!」
――返事がない。再び静まり返る空間に、もう一度「シルヴィア?」と呼びかけるが、やはり梨のつぶて(無反応)だった。
「ったく……他に選択肢を残さないお前が悪いからな。入るぞ」
ドアをコンコンと2回叩き、応答がないのを確認して、そっとドアを押し開けた。
カーテンが閉め切られた部屋の中は完全に真っ暗。それ以上に、部屋の中はまるで戦場(ゴミ溜め)だった! スナック菓子の袋がいたるところに散らばり、何キロ分あるんだという空のピザ箱が視界を埋め尽くしている。
そしてその混沌の中心で、ファンタジー世界の気高き元・美少女勇者であるシルヴィアが、夏の薄手のシャツとショートパンツ姿で、ベッドの上に完全にひっくり返って寝ていた。枕があるはずの場所に足があり、頭はその真逆。口をぽかんと開けてよだれを垂らしながら、食い意地の張った寝言をフガフガと呟いている。
「それ……そう、その大きな一切れのピザを私に寄こすのだ……」
ヒロトはその姿に完全に呆気に取られ、開いた口が塞がらない状態で頭を振った。
「ここまで食い意地が張ってて、食べ物のことばかり考えてる女子、生まれて初めて見たわ! これが本当にあの伝説のシルヴィアなのかよ……本当の隠された本性が、寝てる時だけ丸出しになってるじゃねえか」
すると、眠っているシルヴィアが不機嫌そうに眉をひそめて呟いた。
「ヒロトのバカめ……そのピザは私のだ、手を出すな……」
ヒロトは一歩近づき、彼女の肩を優しく揺すり始めた。
「おいシルヴィア! 何がピザだ! 起きろ、朝飯ができてる。出かける準備をするんだ!」
だが、シルヴィアはその呼びかけに応じるどころか、無意識のうちに恐ろしい怪力で、ヒロトを自分の方へと勢いよく引き寄せた! およそ女の子とは思えない規格外のパワーである。
次の瞬間、気がつけばヒロトは彼女の上に完全に押し倒され、その体はがっちりとホールドされていた。彼女の突然の荒々しいハグによって、ヒロトの顔は彼女の胸の間に完全に埋もれてしまう。
ヒロトの顔は、破裂しそうなほど一瞬で真っ赤に染まった。完全に息ができない。心の中で『離せ、このモンスター!』と必死に叫びながら脱出しようとする。
しかし……正直に言おう。彼の思春期男子としての脳内レーダーの片隅では、これはまさに至高の夢だった。あの憧れのシルヴィアに生身で抱きしめられ、その柔らかい胸に顔を埋めているのだ! 彼はその贅沢なハプニングの状況に、半分以上、本気で恍惚として身を委ねていた。
だが、その至福の時間は長くは続かなかった。シルヴィアが夢の中でさらに力を込め、文字通り彼を物理的に絞め殺し(チョークスリーパー)にかかったのだ!
完全に酸素が足りなくなり、ヒロトの目はぐるぐると回り始めた。恐怖と窒息の危機の中、力を失いかけながら彼女の手をトントンと叩き、かすれた声で途切れ途切れに訴える。
「は……離せ……し、死ぬ……マジで死ぬって……!」
その決定的な瞬間に、シルヴィアはゆっくりと目を覚ました。そして、最初に視界に飛び込んできたのは、自分の胸の間に完全に挟まり、自分が力いっぱい抱きしめているヒロトの顔だった。
睡魔の雲は一瞬で消し飛び、彼女の両目に冷酷で凶暴な、紅い殺気の火花が宿る。部屋の壁を震わせるほどの絶叫が響き渡った。
「この、ド低能変態スカム(クズ)がぁぁァ!!! 私が眠っているのをいいことに、不廉恥なことをしようとしたな!?」
「待て! 違う! 俺じゃない! 俺は完全に被害者だ! お前が引き寄せたんだろ……!」
言い訳の言葉を最後まで紡ぎ終える前に――。
(ドガァァァッ!!)
それからしばらくして、ヒロトとシルヴィアは朝食のテーブルに向かい合って座っていた。
ヒロトは静かにご飯を口に運んでいたが、その頬には、誰の目にも明らかなほど真っ赤で鮮明な手形(ビンタの跡)がくっきりと焼き付いていた。一方、向かい側に座るシルヴィアは、不機嫌そうにぷいっと顔を背け、彼に一言も口を利こうとしない。
ヒロトはズキズキと痛む頬を押さえながら、ため息混じりに言った。
「だから、俺のせいじゃないって言っただろ! 俺はただ起こしに来ただけなのに、お前がそのクソ怪力で俺を絞め殺そうとしたんだ!」
シルヴィアは鋭い視線を向け、冷たく言い放つ。
「嘘をつくな! 機会をうかがっていただけのただの変態のくせに!」
ヒロトは絶望して、完全に降伏した。
「はいはい、何とでも言え。……とにかく、早く食えよ」
自分の空になった皿を片付け、シンクに置く。彼女が朝食を完食するまでの時間を利用して、自分の部屋と彼女の部屋の掃除を終わらせることにした。自分の部屋は元々片付いていたため、音速のスピードで終了。そして、次に向かったのはシルヴィアの「不法投棄地帯(ゴミ部屋)」だ。
部屋の電気をつけ、窓を大きく開け放つ。朝の新鮮な空気と太陽の光が、部屋のよどんだ空気を一気に洗い流していく。ビニール手袋をはめ、大きなゴミ袋を抱え、皮肉めいた調子でブツブツと呟きながらゴミを拾い始めた。
「一体どうやったら女の子がこれほど怠惰で不潔になれるんだ? 本人の体や匂いはめちゃくちゃ綺麗で清潔なのに、周囲の環境はただの環境破壊レベルじゃねえか」
そう言いながら、床に転がっていたいくつかのポテトチップスの空袋を持ち上げた時、彼の手にシルクのような滑らかで柔らかい、ピンク色の布切れが引っかかった。
好奇心に駆られてそれを持ち上げ、広げて見てみる――その瞬間、ヒロトの目は驚愕で見開かれ、思考が完全にフリーズした。
それは……レースで綺麗に装飾された、シルヴィアのピンク色の下着だった!
その静止した息詰まる数秒間の沈黙の中、背後から超高速の飛来物が飛んできて、彼の後頭部にピンポイントでクリーンヒットした!
飛んできたのは、恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤に染め上げたシルヴィアが投げつけたジュースの缶だった。彼女は羞恥に震える声で怒鳴り散らす。
「この、変態ストーカー覗き魔ぁぁぁ!! 人の下着を手に持って何をしているのだ!?」
ヒロトは痛む後頭部を押さえながら、恐怖で一歩引き下がった。
「待て! これは俺のせいじゃない! 俺はただ掃除をしていただけで、これが床に落ちてたんだよ!」
シルヴィアは冷酷で恐ろしい足取りで、ゆっくりと彼に歩み寄ってくる。ヒロトは背中が壁にぶつかるまで、じりじりと後退するしかなかった。彼女はドスの効いた声で言う。
「朝は私に近づいて胸に顔を埋めて抱きつき……今度は私のアンダーウェアをその手に持っているだと?」
彼女の瞳に不気味な青い火花が走り、まさにその瞬間、シルヴィアの精神集中と共に――まばゆい光の中から、彼女の愛刀である聖剣がその手に現れた!
ヒロトの表情は純粋な絶望へと変わり、さらに一歩下がって、震える声で悲鳴を上げた。
「おい! 待て待て待て! なんでお前、こっちの現実世界で魔法が使えてんだよ!?」
シルヴィアは剣を構え、冷徹に返す。
「そんなことはどうでもいい……今こそ、お前のその不浄なる魂を浄化(物理)してやる!」
「ひえっ! 待てシルヴィア! 俺はお前の友達で、この世界の恩人だろ、忘れたのか!? ……分かった、お前に最高級の『巨大バケツアイス』と『ファミリーサイズ特大ピザ』を奢ってやるからァァァ!!!」
――ピタッ、と。
聖剣の切っ先が、彼の額のわずか数センチ手前で完璧に静止した。
わずか一秒。シルヴィアの冷厳な表情は一瞬で崩壊し、脳内で巨大なピザとひんやりとしたアイスクリームの味を妄想して、その口元からじゅるりとよだれが垂れた。聖剣は一瞬で空気中に霧散し、彼女は満面の笑みを浮かべて明るく言った。
「取引成立だな!」
ヒロトは心底安堵し、額の冷汗を拭った。
「ったく……掃除の続きは後だ。もう時間がねえ、準備するぞ」
彼は自分の部屋へと猛ダッシュで逃げ込み、内側からドアの鍵をがっちりと閉めた。心臓が信じられない早さでバクバクと脈打っている。
(クソ、マジで殺されるところだった……! あの女、歩く人間爆弾(危険すぎる存在)だろ……!)
30分後、部屋から準備を終えたシルヴィアが出てきた。ヒロトはその場に釘付けになり、彼女から目を離すことができなくなった。
それは、まるで天界から舞い降りた本物のプリンセス(姫君)のようだった。艶やかな長い赤髪が彼女の肩に滑らかに流れ落ち、上品でトレンディな白いワンピースを身にまとっている。歩くたびに揺れるミディアム丈のスカートが、彼女の儚げな美しさを引き立てていた。爪には綺麗なマニキュアまで塗られている。
ヒロトの口から、無意識のうちに感嘆の吐息が漏れた。
「お、おお……すげえ……シルヴィア、お前……マジでめちゃくちゃ綺麗じゃん……」
シルヴィアは自分の髪の毛を指先で弄びながら、少し照れくさそうに、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「本当にそう思うか? ……ふん、感謝する」
ヒロトは不思議そうに尋ねる。
「だけど……そのマニキュア、一体どこで塗り方を覚えたんだ?」
彼女は誇らしげに胸を張って答えた。
「テレビだ!」
ヒロトは呆れ半分に首を振った。
「お前、役に立たないことに関しては本当に学習能力が高いな……。よし、行くぞ!」
二人は駅に向かって急いだ。ストリートに出た瞬間、シルヴィアはまるで周囲の視線を集める強力な磁石のようになった。その圧倒的な美貌、抜群のスタイル、そして洗練されたウォーキングは、すれ違う通行人たちを瞬時に恋に落ちさせ、誰もが驚愕して振り返るほどだった。隣を歩くヒロトは、周囲の男たちから向けられる凄まじい嫉妬と殺気に怯え、ひたすら恐縮して歩くしかなかった。
目的地の中心街へ向かう電車に乗り込んだが、車内は文字通り息が詰まるほどの満員電車(大混雑)だった。シルヴィアはあまりの人の多さと、電車の突然の激しい揺れとスピードに激しく動揺し、恐怖を感じていた。
そして思考が追いつかないまま、彼女の小さな手がヒロトの手をきゅっと掴み、安心を求めるように強く握りしめた。
その瞬間、ヒロトは背後にいる男たちの視線が、嫉妬のあまり自分の背中を物理的に消し飛ばすのではないかと思うほどのプレッシャーを感じた!
ようやく目的の駅に到着し、二人は電車を降りた。改札の向こう側から、あの(ヒカルに似た抜群のルックスと爽やかな笑顔を持つ)ユウトと、彼の隣にいるリカが待っているのが見えた。
しかし――。
リカの視線がヒロトとシルヴィアを捉えた瞬間、正確には、シルヴィアの小さな手がヒロトの手を恋人のように強く、甘えるように握りしめているその光景が目に入った瞬間――。
リカの両目に、駅全体を消し炭にせんばかりの、燃え盛るような紅蓮の嫉妬の炎がメラメラと燃え上がった!




