第5話 激変した朝と、ギルドからの緊急招集
ちゅんちゅんと雀の鳴く声で、俺は目を覚ました。
昨夜はルリスに唯一の布団を譲り、俺は硬いソファで眠りについていた。
寝ぼけ眼をこすりながら、手探りでローテーブルの上に置きっぱなしになっていたスマートフォンを手に取る。
画面をタップした瞬間、スマホは熱を持ち、数秒間フリーズしてしまった。
(なんだこれ……!?)
再起動した画面を見て、俺は文字通り目を疑った。
SNSの通知が、滝のような勢いで流れ続けているのだ。昨晩の配信のアーカイブ動画は、すでにネット中で拡散されまくっていた。
チャンネル登録者数は、なんと数万人を突破している。さらに、昨夜の投げ銭――いわゆるスーパーチャットの総額を計算してみると、このボロアパートの家賃数年分……いや、下手をすれば大企業のサラリーマンの年収レベルに達していた。
ブルブルと、俺の持っている手が震え始める。
「むにゃ……コーラ……カツカレー……」
隣のスペースに敷かれた布団から、気の抜けた声が聞こえてきた。
見ると、ルリスが口からヨダレを垂らしながら、幸せそうな顔で寝言を呟いている。
赤いジャージ姿のまま布団にくるまるその無邪気な寝顔を見ていると、少しだけ現実逃避したくなった。
(待てよ。あの配信がここまで拡散されているってことは……)
俺はようやく事の重大さに気がついた。
未陥落のダンジョンの最深部にいた謎の幼女。しかも彼女は、自らをダンジョンマスターだと名乗り、別世界から避難してきたと言っていたのだ。
そんな爆弾のような情報を、全世界に垂れ流してしまったのである。
ジリリリリリリッ!
突如として、俺のスマホがけたたましい着信音を鳴らした。
ビクッと肩を揺らしながら画面を見ると、そこには『ダンジョン管理ギルド』という恐ろしい文字が表示されている。
恐る恐る通話ボタンを押して、スマートフォンを耳に当てた。
「もしもし……」
「トーキさんですね? 私はギルド監査局の者です」
電話の向こうから聞こえてきたのは、冷徹で事務的な大人の女性の声だった。
背筋に冷たい汗が流れる。
「昨夜の配信について、至急ギルド本部までお越しいただけますか。……それと、あなたの部屋にいる『彼女』もご一緒に」
有無を言わさない圧力があった。
返事をする間もなく、プツンと一方的に電話は切られてしまった。
(ついに公的機関に目をつけられちまったか……)
絶望的な気分になりながら、俺は布団で丸くなるルリスを見つめた。
ここで彼女を見捨てることなんて、できるはずがない。昨日出会ったばかりとはいえ、なんとなく放っておけない不思議な魅力が彼女にはあるのだ。
「おいルリス、起きろ! 怒られる前に、とりあえず美味いもん食って腹ごしらえだ!」
「ふぇ……? 美味いもの……?」
食べ物の名前に反応し、ルリスがむくりと起き上がる。
「ああ、昨日買ったゼロコーラと朝飯がある。それを食ったら、ちょっと出かけるぞ」
戸惑いながらも、俺はルリスを守る決意を固めた。
こうして俺たちは、慌ただしくギルド本部へと乗り込む準備を始めるのであった。
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