第4話 滅びた世界からの避難民
ダンジョンから無事に抜け出した俺たちは、帰り道にあるスーパーマーケットへと立ち寄った。
赤いジャージ姿で周囲をキョロキョロと見回すルリスを連れて、俺は総菜コーナーへと向かう。お目当ては、割引シールが貼られた大きなトンカツだ。
「おおお、何やら美味そうな香りがするのぅ……」
ルリスはプラスチックのパック越しにトンカツを見つめ、口元からダラーッとヨダレを垂らしていた。その金色の瞳は、完全にトンカツのきつね色の衣に釘付けになっている。
「まてまて、これからだって」
俺は苦笑いしながらトンカツを買い物カゴに入れた。
それから、レトルトのご飯パックと、同じくレトルトカレーを人数分買い足して、スーパーを後にした。
◇◆◇
俺が住んでいるのは、築数十年は経っている木造のボロアパートだ。
きしむ階段を上り、狭い玄関のドアを開ける。
「なんじゃ? ボロい家じゃのう」
部屋に足を踏み入れたルリスは、遠慮というものを一切持たずに素直な感想を口にした。
「うっせぇよ。トンカツ分けてやらないぞ?」
「すまないのじゃ~! 謝るのじゃ~!」
俺が少し意地悪く脅すと、ルリスは慌てて両手を合わせ、涙目で頭を下げてきた。
さっきまでのダンジョンでの威厳はすっかり消え去っている。どうやら彼女の頭の中は、すでに食欲でいっぱいらしい。
俺は台所に立ち、お湯を沸かしてレトルトカレーを温めた。
同時に電子レンジでご飯パックを加熱し、温まったご飯をお皿に盛りつける。そこにサクサクのトンカツを乗せ、熱々のカレーをたっぷりとかけた。
あっという間に、即席のカツカレーの完成だ。
「ほら、食っていいぞ」
ローテーブルにカツカレーを並べると、ルリスはスプーンを握りしめた。
そして、何も言わずにガツガツと猛烈な勢いで食べ始めた。
サクッ、モグモグ、ゴクン!
ものすごい集中力でカツカレーを平らげていく彼女を見守りながら、俺は食後のタイミングを見計らって口を開いた。
「それで、ルリス。お前、本当はどこから来たんだ?」
カレーを飲み込んだルリスは、スプーンを置いて少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。
「妾たちの世界は、大災害が起こってのう。魔物だらけになってしもうた……」
「それで逃げてきたとかか?」
「そうなのじゃ。ダンジョンは避難装置なのじゃ……」
彼女の言葉に、俺は息を呑んだ。
世界各地に出現し、モンスターが這い出してくる恐ろしい場所。それが、滅びゆく異世界からの避難用シェルターだったなんて、現代の誰も知らない真実だ。
部屋の中に、しんみりとした重い空気が流れる。
「なあ、カレーもう一皿食うか?」
俺が明るい声で提案すると、ルリスの顔がパッと輝いた。
「食べるのじゃ~!」
さっきまでの悲壮感はどこへやら、彼女は満面の笑みで空っぽのお皿を差し出してきた。
俺は笑いながら立ち上がり、台所へとおかわりを取りに向かった。
ふと、テーブルに置きっぱなしになっていたスマートフォンに目を落とす。
まだ切り忘れたままだった配信画面には、大量のサブスクリプション登録の通知と、高額な投げ銭のカラフルなエフェクトが画面を埋め尽くしていた。
(これもルリスのおかげだな)
俺は小さく息を吐き、すさまじい勢いで流れ続けるチャット欄のコメントに目を通した。
「ダンジョンって避難所だったのかよ!?」
「設定重すぎんだろ……」
「カツカレーに釣られるダンジョンマスター草」
「チョロインすぎる」
「おかわり要求しててかわいい」
「投げ銭止まんねえな」
「とりあえずボロアパート脱出できそうだな」
「トーキお前、明日から人生変わるぞ」
「カツカレー食いたくなってきた」
「また明日も配信してくれ!!」
俺はルリスを布団に寝かしつけると、ソファで横になる。
さすがに配信は切った。
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