第2話 腹ペコのダンジョンマスター
玉座にふんぞり返る赤いジャージの幼女と、バールを握りしめた底辺配信者の俺。
仰々しい部屋の中で、俺たちはしばらく見つめ合っていた。
「……」
「……」
静寂がダンジョンの最深部を包み込む。
彼女は鋭い金色の瞳で俺をねめつけ、尊大な態度を崩さない。俺もどう反応していいか分からず、ただ立ち尽くしていた。
すると、ピンと張り詰めた空気を切り裂くように、とんでもない音が鳴り響いた。
グウウウウウウウウッ!
それは、目の前にいるツインテールの幼女のお腹から発せられた、非常に立派な腹の虫の音だった。
「あ……」
幼女の顔が、瞬く間にりんごのように真っ赤に染まる。
先ほどまでの威厳はどこへやら、彼女は慌てて自分のお腹を押さえ、恥ずかしそうにうつむいてしまった。
(めちゃくちゃお腹空かせてるじゃないか……)
俺はため息をつき、バールを床に置いた。
相手がダンジョンの主だろうが何だろうが、腹ペコの子どもを前にして警戒する気にもなれなかった。
「……とりあえず、何か食べるか?」
「た、食べるっ!」
俺の提案に、幼女は勢いよく顔を上げた。その瞳は、さっきまでの鋭さが嘘のようにキラキラと輝いている。
俺は背負っていたリュックを下ろし、中からダンジョン探索用の携帯食料を取り出した。
水を入れるだけで温かいご飯ができるインスタント食品だ。今日は五目ご飯と、温かい豚汁のセットを持参していた。
手早く準備を済ませ、湯気が立つ容器を彼女の前に並べる。
「ほら、熱いから気をつけて食べろよ」
「おおおおっ! これは美味そうな匂いじゃな!」
幼女は目を丸くして感嘆の声を上げると、渡したスプーンを握りしめた。
そして、小柄な体のどこにそんなスペースがあるのかと疑いたくなるような凄い勢いで、ご飯を口に運び始めた。
ハフッ、モグモグ、ゴクン!
「うまいっ! なんじゃこの食べ物は! 妾の口に合うぞ!」
「そりゃよかった。ゆっくり食べないと喉に詰まらせるぞ」
よほどお腹が空いていたのだろう。彼女は豚汁もずずずっとすすり、あっという間に容器を空にしていった。
その見事な食べっぷりを見ていると、なんだかこちらまで気持ちよくなってくる。
「そういえば、きみ名前は? 俺はトーキって言うんだ」
俺が自己紹介を交えて尋ねると、彼女は口の周りについたご飯粒をペロッと舐めとり、ふんすと胸を張った。
「妾はルリスじゃっ!」
「ルリスか。よろしくな」
お互いの自己紹介を終えたところで、俺は食後の飲み物として持ってきたペットボトルを取り出した。
「ほら、食後のポカリだ。喉乾いてるだろ?」
「ぽかり……? なんじゃそれは。魔法の霊薬か?」
「まあ、そんな感じの甘い水だよ」
俺がキャップを開けて手渡すと、ルリスは恐る恐る口をつけ、ゴクリと飲んだ。
途端に彼女の金色の瞳が、カッと大きく見開かれた。
「あ、甘いっ! そして体に染み渡る……! なんという美味じゃ!」
彼女は両手でペットボトルを大事そうに抱え、ちびちびとポカリを飲み始めた。
すっかり機嫌が良くなったルリスを見て、俺もようやく肩の力を抜くことができた。
(それにしても、ダンジョンの主が赤いジャージ姿でインスタント飯をがっつくなんて、誰も信じないだろうな)
ヘルメットのカメラは回ったままだが、今はもう配信のことなどすっかり頭から抜け落ちていた。
満足そうにポカリを飲み終えたルリスが、ふと真剣な表情になって俺を見上げた。
「トーキよ。そなた、なかなか見どころがあるのう」
「は? そりゃどうも」
「そこで頼みがあるのじゃが……」
ルリスは玉座から立ち上がり、俺に向かってビシッと指を突きつけた。
「このダンジョンを立て直すのを、手伝ってくれんか?」
「えっ、えええええ!」
俺の素っ頓狂な声が、静かなダンジョンの最深部に響き渡った。
しかし、この時、俺は配信を続けていた事をすっかり忘れていた。
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