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バール片手の地味配信、最深部で赤ジャージのダンジョンマスター幼女(ポンコツ)に懐かれて世界トップ配信者に駆け上がる  作者: 塩野さち


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2/6

第2話 腹ペコのダンジョンマスター

 玉座にふんぞり返る赤いジャージの幼女と、バールを握りしめた底辺配信者の俺。

 仰々しい部屋の中で、俺たちはしばらく見つめ合っていた。


「……」


「……」


 静寂がダンジョンの最深部を包み込む。

 彼女は鋭い金色の瞳で俺をねめつけ、尊大な態度を崩さない。俺もどう反応していいか分からず、ただ立ち尽くしていた。


 すると、ピンと張り詰めた空気を切り裂くように、とんでもない音が鳴り響いた。


 グウウウウウウウウッ!


 それは、目の前にいるツインテールの幼女のお腹から発せられた、非常に立派な腹の虫の音だった。


「あ……」


 幼女の顔が、瞬く間にりんごのように真っ赤に染まる。

 先ほどまでの威厳はどこへやら、彼女は慌てて自分のお腹を押さえ、恥ずかしそうにうつむいてしまった。


(めちゃくちゃお腹空かせてるじゃないか……)


 俺はため息をつき、バールを床に置いた。

 相手がダンジョンの主だろうが何だろうが、腹ペコの子どもを前にして警戒する気にもなれなかった。


「……とりあえず、何か食べるか?」


「た、食べるっ!」


 俺の提案に、幼女は勢いよく顔を上げた。その瞳は、さっきまでの鋭さが嘘のようにキラキラと輝いている。


 俺は背負っていたリュックを下ろし、中からダンジョン探索用の携帯食料を取り出した。

 水を入れるだけで温かいご飯ができるインスタント食品だ。今日は五目ご飯と、温かい豚汁のセットを持参していた。

 手早く準備を済ませ、湯気が立つ容器を彼女の前に並べる。


「ほら、熱いから気をつけて食べろよ」


「おおおおっ! これは美味そうな匂いじゃな!」


 幼女は目を丸くして感嘆の声を上げると、渡したスプーンを握りしめた。

 そして、小柄な体のどこにそんなスペースがあるのかと疑いたくなるような凄い勢いで、ご飯を口に運び始めた。


 ハフッ、モグモグ、ゴクン!


「うまいっ! なんじゃこの食べ物は! (わらわ)の口に合うぞ!」


「そりゃよかった。ゆっくり食べないと喉に詰まらせるぞ」


 よほどお腹が空いていたのだろう。彼女は豚汁もずずずっとすすり、あっという間に容器を空にしていった。

 その見事な食べっぷりを見ていると、なんだかこちらまで気持ちよくなってくる。


「そういえば、きみ名前は? 俺はトーキって言うんだ」


 俺が自己紹介を交えて尋ねると、彼女は口の周りについたご飯粒をペロッと舐めとり、ふんすと胸を張った。


「妾はルリスじゃっ!」


「ルリスか。よろしくな」


 お互いの自己紹介を終えたところで、俺は食後の飲み物として持ってきたペットボトルを取り出した。


「ほら、食後のポカリだ。喉乾いてるだろ?」


「ぽかり……? なんじゃそれは。魔法の霊薬か?」


「まあ、そんな感じの甘い水だよ」


 俺がキャップを開けて手渡すと、ルリスは恐る恐る口をつけ、ゴクリと飲んだ。

 途端に彼女の金色の瞳が、カッと大きく見開かれた。


「あ、甘いっ! そして体に染み渡る……! なんという美味じゃ!」


 彼女は両手でペットボトルを大事そうに抱え、ちびちびとポカリを飲み始めた。

 すっかり機嫌が良くなったルリスを見て、俺もようやく肩の力を抜くことができた。


(それにしても、ダンジョンの主が赤いジャージ姿でインスタント飯をがっつくなんて、誰も信じないだろうな)


 ヘルメットのカメラは回ったままだが、今はもう配信のことなどすっかり頭から抜け落ちていた。


 満足そうにポカリを飲み終えたルリスが、ふと真剣な表情になって俺を見上げた。


「トーキよ。そなた、なかなか見どころがあるのう」


「は? そりゃどうも」


「そこで頼みがあるのじゃが……」


 ルリスは玉座から立ち上がり、俺に向かってビシッと指を突きつけた。


「このダンジョンを立て直すのを、手伝ってくれんか?」


「えっ、えええええ!」


 俺の素っ頓狂な声が、静かなダンジョンの最深部に響き渡った。


 しかし、この時、俺は配信を続けていた事をすっかり忘れていた。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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