春のお茶会での喜劇③
会場に広がる静寂……。
デビューしたばかりの、礼儀のなっていない公爵令嬢が、あろうことか第二王子にかってにマカロンを食べさせたのです。
管理されている食事とはいえ、このような場所では常に警戒を怠ってはいけない王族に、してよい行いではありません。
一歩間違えれば、自滅覚悟の毒殺と言われ可能性があります。
ここにいるのは子供とはいえ、各家でマナーの合格点を貰った子息令嬢ばかり。
王族へそのような不敬を働くことが、どれほどの罪になるかよくわかっています。
「まあ」
ふいに、フロリアナの静かな驚きの声が響き渡りました。
「第二王子殿下とオイドクシ公爵令嬢は、世間で噂にあるように、本当に仲睦まじくていらっしゃいますのね」
驚きとともに、二人の仲を改めて肯定して広める言葉。
ざわりと空気が揺れ、視線がフロリアナに向けられた後、第二王子とオイドクシ公爵令嬢へ向けられました。
マカロンを口に含んだまま硬直した第二王子、フロリアナに仲睦まじいと言われて嬉しさを隠さないオイドクシ公爵令嬢。
「クスッ」
会場のどこかから、小さな笑い声が聞こえた瞬間、口に含み切れなかったマカロンが、第二王子の口元から落ち、床に小さな音を立てました。
「いっ今笑ったのはだれだ!」
第二王子が顔を赤くして叫びましたが、誰も何も言わず、無言で第二王子を見つめていますが、その視線に耐えられなかったのは第二王子ではなく、オイドクシ公爵令嬢でした。
いえ、耐えられなかったというよりは、空気を読めないと言うべきかもしれません。
「あ~! ルベニウス様ってば落としちゃだめですよぉ? もしかしておいしくなかったんですかぁ? 他の方がいいなら言って下さいよぉ」
笑ってマカロンの横にある、一口サイズのカップケーキに視線を向けました。
遠目にもカラフルなそれらに、「どれにしよ~」と大きな声でつぶやくオイドクシ公爵令嬢に、私は思わず笑いそうになり、扇子で口元を隠しました。
「ねえ、フィリー」
「なんでしょう、ヴィア」
まるで第二王子とオイドクシ公爵令嬢への興味をなくしたように、すぐさま私の声に反応してフロリアナは私に視線を向け、にっこりと微笑みます。
私の遺伝子上の異母妹には、もう少し踊っていただきましょう。
ほかでもない、私の大切なフロリアナのために。
「あちらのご令嬢をご存じですか? 今日が社交デビューのようですが、どこかでお見かけしたのですか?」
七夕の節句にオイドクシ公爵令嬢が紛れ込んでいたこと、堂々と私たちの前に姿を見せたことは、ここにいる誰もが分かっていますが、正式に自己紹介を受けていない以上、私は彼女を知らないのです。
私の言葉の意味に気づいたのか、フロリアナは「確かにそうですわね」と頷きました。
「わたくしってば、あんなに親しげになさっているから、第二王子殿下の噂の恋人だと思い込んでいましたわ。けれど、どなたか彼女をご存じでしょうか?」
どこか演技がかった口調でフロリアナが周囲に尋ねれば、誰もが「存じ上げません」と答えました。
その言葉にフロリアナは困ったように眉を寄せ、「どうしましょう」と不安そうに声を震わせました。
「だれかもわからない令嬢が、この場で第二王子を害そうとしたかもしれないということでして? なんておそろしい……」
その一言は静かに会場全体に届き、第二王子を狙っていた令嬢たちへの後押しへとなったようです。
いらだちを隠すことをせずに、フロリアナと第二王子の間に幾人かの令嬢が割り込むのが見え、私とフロリアナはそっと視線を交わしてから、食事を置いてあるコーナーにゆっくりと近づいていきました。
近づくにつれ令嬢たちがオイドクシ公爵令嬢を責める言葉が、鮮明に聞こえてきます。
「第二王子殿下に対する無礼を謝罪なさったほうがよろしいのではなくて?」
「そうよそうよ。ここに来てから誰に挨拶をするでもなく、第二王子殿下にべったりと!」
あのお二人のご令嬢は、昨年も第二王子の傍を離れませんでしたが、まだあきらめていないのは、個人の意志なのか家の意思なのか……。
食事コーナーの端の方に到着すれば、さりげなくアングレサイト男爵令嬢が私たちのそばに来ます。
視線を向ければ目が合い、すっとそらされ、私たちと第二王子たちの騒ぎの壁になるような位置に移動する姿を見てから、フロリアナに視線を戻しました。
「あちらのミニケーキはどうですか?」
私が視線だけでケーキを示せば、フロリアナも視線をそちらに向け、「おいしそうですわ」とにっこり笑いました。
給仕に言いつけて私とフロリアナの分を取り分けてもらった瞬間、「うるさいなぁ」というオイドクシ公爵令嬢の声が聞こえてきました。
給仕からお皿を受け取るさいにさりげなく視線を向ければ、カップケーキを手に持ったオイドクシ公爵令嬢が、大口を開けてカップケーキをかじってから、自分に声をかけて来た令嬢を睨みつけています。
「…………フィリー、一歩後ろへ」
「ええ」
私とフロリアナが一歩後ろに下がった瞬間、ベチャッという音の後に一拍ほど間を開けてから、オイドクシ公爵令嬢に文句を言っていた令嬢の悲鳴が響きました。
「あたしはルベニウス様の特別な存在よ? だから、今更挨拶なんて必要ないんですぅ」
「ね、ルベウニス様♡」と汚れた手を拭わずに、第二王子の腕に自分の手を絡めましたが、すぐさまその手は第二王子自身に振りほどかれました。
「汚れた手で俺に触るな、汚いな」
「は?」
第二王子の言葉に、オイドクシ公爵令嬢がまぬけな声を上げましたが、第二王子は汚れた上着を脱ぎ棄てると「着替える」と言って会場を出ていきました。
(あらあら、上着を床に投げ捨てたままにするだなんて、しつけがなっていませんね)
給仕の一人が上着をさりげなく回収するのを見ながら、私とフロリアナは笑いそうになる口を、ケーキを食べることで誤魔化しました。
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。
あ、この作品のPVあります。
見ていただけるとヒャッホーーーーーーーーーイって飛び上がった末の感謝の土下座をします(イマジナリーで!)
↓ こちらです。楽曲もオリジナルです!歌詞頑張りました!
https://youtu.be/lGgzV-qP2d4?si=qfMnJDU_K_SPcavB
↓ 曲 2バージョンあります(歌詞は同じです)
https://youtu.be/0_eG4LgSRxc?si=sVh6MfslAAvzeO6r
https://youtu.be/6nR6zqxGNPY?si=SRqlyHR7kBCSOvNL




