善意なき善意②
ジャキルピット男爵令嬢とダイオプテーズ女男爵が話をしているテーブルとは別の、もっと爵位が高い女性が集まっているテーブルでは、オイドクシ公爵夫人がパパラチャ侯爵夫人に話しかけられていました。
先ほどの会話が彼女にも届いていたのでしょう、僅かに口元が引きつっていましたが、なんとか笑みを作っています。
「まあ、お聞きになりまして?」
「……え、ええ」
にこやかに微笑むパパラチャ侯爵夫人は「第二王子殿下の教育係をご紹介いただけるなど、光栄なことですね」とクスクスと笑っています。
その教育係がろくにフロリアナの教育が出来なかったことは、すでに社交界では有名な話です。
だからこそ、そのような教育係を紹介されると言われても、オイドクシ公爵夫人には受け入れがたいものでしょう。
けれど、もし本当に王家から教育係を紹介されてしまえば、よほどの理由がなければ断ることなどできません。
「ありがたいお話ですが、我が家にはすでに優秀な教育係がおりますので、過分なお心遣いになりそうで、恐れ多いです」
あくまでも謙虚な姿勢で断る流れを作ろうとしていますが、私はそれならと皇女に視線を向け、にこり微笑みました。
私の視線を受け、皇女は意図を察したのか視線だけで頷き、オイドクシ公爵夫人たちがいるテーブルに向けて声を掛けました。
「令嬢への淑女教育は、紳士教育とはまた別になりますからね。知識やマナーの教育はともかく、令嬢教育は別の方を付けるべきでしょう」
その言葉を救いと思ったのか、オイドクシ公爵夫人の顔が明るくなります。
「皇女殿下のおっしゃる通りです」
「けれど、知識やマナーの教育は男女で共通していますし、王家からの教育係を紹介するのもいいでしょう」
「そ、れは……」
言葉に詰まるオイドクシ公爵夫人をチラリと見て、私は「そうですね」と皇女に向かって言葉を発しました。
「もう何の縁もないとはいえ、かつてオイドクシ公爵家にいたものとして、教育係を紹介するのはよい事だと思います。だって、オイドクシ公爵夫人は再婚するまでは男爵夫人でしたから」
暗に、オイドクシ公爵夫人の教育も足りてないのではと言えば、皇女は「そういえばそうね」と笑いました。
彼女が予定と違い、前夫が毒で死ぬのを待たずに離縁し、子供を連れてオイドクシ公爵に嫁いだことで、元から不貞の関係があったというのは有名な噂話です。
オイドクシ公爵令嬢はオイドクシ公爵に似ていますからね。
誰の子供なのか、言わずともわかってしまいます。
自分の出自が馬鹿にされていると分かっていても、オイドクシ公爵夫人は私に関わる事ができませんから、顔をひきつらせたまま笑みを維持するしかできません。
もし本当に紹介された場合、受け入れなければ王家に対する侮辱となり、受け入れれば王家から堂々と監視役を送り込むことができます。
どちらにしても、オイドクシ公爵家にとっては痛手になりますね。
本来であれば王家が各家の教育に口を出すなどありませんが、第二王子の評判という王家にもかかわる事態に、誰も口を出すことできません。
そもそも、このような噂が立つようなことを常識のある令嬢がするわけがありませんからね。
「それに、第二王子殿下とオイドクシ公爵令嬢のロマンスがこのように噂になっていたら、来年の春のお茶会でデビューさせないわけにはいかないでしょうし。信頼できる教育係は必要だと思います。ね、フィリー」
「そうですわね。第二王子殿下とお噂になった相手が、いつまでも正式に社交界に姿を見せないなどとなっては、第二王子殿下が悪く言われてしまいますわ」
フロリアナは、すぐさま私の言葉を引き継いでくれ、あくまでも善意で言っているのだと強調してくれます。
しかも、春のお茶会でデビューできなければ第二王子、ひいては王家の顔に泥を塗ると付け加えています。
ああ、正式にという部分で、七夕の節句で勝手に参加した無礼にも触れていますね。
ループをしているからか、こういった貴族らしい嫌味も得意なようで何よりです。
「悪い癖がいつまでもあると、オイドクシ公爵家としても困るでしょうし……。お母様、わたくしはオイドクシ公爵令嬢に教育係を紹介なさることに賛成ですわ」
「そうね」
フロリアナの言葉ににっこりと微笑んだ皇女が、「王家として」と前置きをしてから言葉を続けます。
「ジャキルピット男爵令嬢には何度も断られてしまっていますが、オイドクシ公爵家はそのようなことはしないでしょう。よき教育係を正式に紹介しましょう」
「っ……恐れ多いことにございます」
別のテーブルとはいえ、会話が聞こえていたオイドクシ公爵夫人がわずかに震えた声で受け入れました。
さて、どのような結果を得ることができるでしょうね。
「ねえヴィア」
「なんでしょう、フィリー」
「今度、またタンザナイト公爵家にお伺いしてもよろしいかしら?」
私がフロリアナの訪問を断るはずがないのに、敢えてここで尋ねてくるということに一度だけ瞬きをしてしまいましたが、すぐににっこりと微笑んで頷きました。
「もちろんです。けれどもう11月になってしまいますし、サロンの中でのお茶会になってしまいますけれど、いいでしょうか?」
「そうですわね。不用意に外でお茶を楽しんで、体が丈夫ではないヴィアが体調を崩しては大変ですわね」
誰のせいで体が丈夫ではなくなったとは言わずとも、フロリアナの目の奥にある確かな怒りに、私は喜びを感じてしまいました。
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あ、この作品のPVあります。
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↓ こちらです。楽曲もオリジナルです!歌詞頑張りました!
https://youtu.be/lGgzV-qP2d4?si=qfMnJDU_K_SPcavB
↓ 曲 2バージョンあります(歌詞は同じです)
https://youtu.be/0_eG4LgSRxc?si=sVh6MfslAAvzeO6r
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