善意なき善意①
皇女が主催したお茶会、重要な意味合いがあるわけではないけれども、貴族女性としては気合を入れて出席するべきもの。
そこで交わされる情報は真偽が定かではないゴシップ、もしくはここだけの話という秘密のお話し、そして悩み相談という愚痴。
世界が変わっても、女性の集まりはかわりませんね。
いくつか用意されたテーブルは近くもなく遠くもなく、その気になれば隣のテーブルで囁かれる会話は聞こえてしまいます。
もっとも、それを計算しての配置なのでしょう。
皇女に全ての情報が集まるように、皇女の腹心がその情報を精査できるように……。
「そういえばジャキルピット男爵令嬢」
「なんですか?」
少し離れた位置にあるテーブル席から、なぜかよく通る声が聞こえて来て、私はフロリアナとの会話を楽しみつつ、そちらの話にも注意を払います。
もっとも、こうしているのは私だけではないでしょう。
ある男爵夫人に尋ねられたジャキルピット男爵令嬢は、そのテーブルでは最も身分が高そうに振舞い、まるで自分こそが主役というような笑みを浮かべています。
確かに男爵位の中では、ジャキルピット男爵令嬢は身分が高いでしょう。
話しかけているのが、ダイオプテーズ男爵家の女当主でなければですけれど……。
本来は祭祀や神事や布教を担う家として、目立った行動はありませんが周囲や教会からの信頼が厚い家門です。
だからこそ……。
「先日の重陽の節句の際、第二王子殿下がオイドクシ公爵令嬢と護衛を置き去りにして、二人きりで動き回っていたそうですね?」
彼女の言葉は、重みを増します。
「……そのような噂が出回っているとは聞いています。あの子は冒険心が強く、この王宮を窮屈に感じているのかもしれません」
「さようでしたか」
ジャキルピット男爵令嬢の言葉に、ダイオプテーズ女男爵は人のよさそうな笑みを浮かべ、ゆっくりと頷きました。
予定通り、平民の間では第二王子と公爵令嬢の幼い恋を心温かく受け入れ、一部の下位貴族や夢見がちな方々は演劇のようなロマンスに心を躍らせています。
そのことはジャキルピット男爵令嬢も理解しているのでしょう。
不名誉な噂の話をされる前に、どう自分側に利益のある話につなげるか、今頃必死に考えているのでしょうね。
もしくは、今日のお茶会でこの話が持ち上がるのを予測して、次の言葉を準備しているかもしれません。
「それにしても、オイドクシ公爵令嬢に付き合わされるとは、第二王子殿下も大変ですね。けれど、噂のわがまま令嬢にお付き合いできるという度量は、流石ジャキルピット男爵令嬢のご子息です」
「ええ、あの子は優しくて。夏に行った川涼みで知り合ったオイドクシ公爵令嬢にせがまれて、断れなかったようです」
あくまでも第二王子は巻き込まれたのだと言いたいようですね。
けれど、ダイオプテーズ女男爵の言葉の裏には気づかないようで、残念です。
「まあ……わがままとはいえ第二王子殿下にねだるような真似を、オイドクシ公爵令嬢がなさいましたの?」
「ええ」
どこか悲しそうに目を伏せ、困ったように頷きました。
「それは困ったご令嬢ですね。来年の春のお茶会に出席できなければ……第二王子殿下の顔に泥を塗ったも同然ですね」
「っ……」
あくまでも穏やかな空気を維持したまま口にしたダイオプテーズ女男爵の言葉に、ジャキルピット男爵令嬢が一瞬だけ息を飲んだ空気が伝わってきました。
第二王子がデビューもしていない公爵令嬢と、護衛もつけずに遊び惚けたとなれば、ロマンスなどという甘い話ではなくなってしまいます。
何も知らない夢を見ている人を除けば、の話ですけどね
「可愛らしいお相手がしっかりとデビューできるよう、教育係を紹介なさってはいかがでしょう?」
「それ、は……」
戸惑ったようなジャキルピット男爵令嬢の声に、私はフロリアナとの話をいったん止め、少しの間ダイオプテーズ女男爵を見れば、すぐに視線に気づいてこちらをみたダイオプテーズ女男爵と目が合いました。
目が合ったのはほんの少し間ですが、僅かに目を細め青みを帯びたエメラルドグリーンの瞳がゆらりと光りました。
すぐさま彼女は視線をジャキルピット男爵令嬢に向け、何事もなかったように話を続けます。
「聞けば、第二王子殿下の教育係は以前第一王女殿下の教育も兼任なさっていたとか。王族の教育を出来るご立派な方なのでしたら、公爵令嬢の教育も可能でしょう」
あくまでも善意の提案だと言う口調のダイオプテーズ女男爵に、ジャキルピット男爵令嬢は「それは……」と言葉を続けられないように、戸惑った声が聞こえてきます。
「ねえ、ヴィア」
フロリアナとの話をいったん切り上げるため、お菓子とお茶を楽しんでいた私に、ジャキルピット男爵令嬢の話を気にしながら、私に話しかけてきました。
「あの教育係に淑女や令嬢の教育は……」
できないと続けようとしたフロリアナの口に、私は人差し指をそっと近づけました。
「ねえ、フィリー。幼い恋……何度繰り返しても恋に落ちる二人なのであれば、応援するのも、一興でしょう?」
「でも……」
結局うまくいく恋ではなかったと言いたいのでしょうが、私はそれによって巻き込まれるフロリアナの人生が過去にあったことを、簡単に切り捨てるつもりはありません。
誰も覚えていなくても、フロリアナは覚えているのですから。
「二人の身分はとても釣り合っていますよ。とても、ね」
にっこりと微笑む私に、フロリアナは何かに気づいたらしく、コクリと頷きました。
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あ、この作品のPVあります。
見ていただけるとヒャッホーーーーーーーーーイって飛び上がった末の感謝の土下座をします(イマジナリーで!)
↓ こちらです。楽曲もオリジナルです!歌詞頑張りました!
https://youtu.be/lGgzV-qP2d4?si=qfMnJDU_K_SPcavB
↓ 曲 2バージョンあります(歌詞は同じです)
https://youtu.be/0_eG4LgSRxc?si=sVh6MfslAAvzeO6r
https://youtu.be/6nR6zqxGNPY?si=SRqlyHR7kBCSOvNL




