聖装の仮縫い
雨は豊穣の恵みとはいえ、雨季だとどうしても憂鬱になりがちです。
けれども、それを吹き飛ばしてしまう出来事があれば話は別で、雨脚が弱い日に私とお婆様は王宮に向かいました。
呼び出しの理由は、七夕の節句で着用するドレスの仮縫いが出来上がったので、確認と仕上げのための調整に来て欲しいとのことです。
いつものように侍女に案内され、もはや通い慣れてしまったフロリアナの部屋に到着すると、ソファに座っていたフロリアナが立ち上がり、パタパタと足音を立てて駆け寄ってきました。
お婆様と共に入室時に淑女の礼をしていた私は、頭を下げたまま横目でお婆様の様子を確認しましたが、特に咎める様子はなさそうです。
「ようこそ、ヴィア。そしてタンザナイト公爵夫人。どうぞこちらにいらしてくださいませ」
顔を上げるなりフロリアナに手を引かれ、部屋奥に向かえば、そこには皇女とデザイナーたちが既に調整の準備をしていました。
「皇女殿下、ご機嫌麗しく存じます」
お婆様と改めて淑女の礼をしますが、すぐに頭を上げるように言われ、室内を確認すれば中央には2着のドレス………………。
(ドレス?)
ドレスというには思わず首をかしげてしまうものが、2着存在していました。
七夕の節句は式典の意味合いが強いですから、白を基調にした衣装なのはわかります。
金糸の刺繍は髪の色に合わせているのですね。
そこまではわかります。
(なぜ、おそらく私の分であると思われるほうにまで金糸で刺繍を?)
豪奢さと、使用している青で私の分である方はわかりますが、前回と同様に私の分にまで金色を取り入れるとは、徹底しているというか……本当に外堀を埋めてきていますね。
「いかがでして? わたくしとしてはヴィアの方ももう少し刺繍を増やしたいと思いますの」
「十分ですよ。そもそも、式典のドレスというよりもなんだか神事の衣装に見えますね」
そう、何よりも問題はそこです。
王族として壇上に上がるフロリアナがこの衣装を着ている様は、荘厳さと神秘性を強調する演出になりますが、ただの参列者の私が着るには些か目立つ……では収まらないでしょうね。
「今回の式典はいつも通りになりますが、その後の会食会でフロリアナとヴィヴィアナには、教皇猊下の接待……というか、隣に座っていて欲しいのですわ」
にっこりと微笑んで言う皇女に、私とお婆様の表情が思わず固まってしまいました。
式典後という事で、貴族の相手をする皇帝が教皇の相手をするのが難しい為、他の王族が相手をするのが慣例であり、通常であれば皇女か第一王子が対応するべきです。
フロリアナも幼くはありますが、まだ対応するというのはわかりますが……。
「なぜ私が……」
無礼を承知で皇女にそう尋ねれば、皇女はにっこりと微笑んだので瞬間的に嫌な予感がしてしまいますね。
「教皇猊下からの、ご希望ですわ。ツインレイである二人を見たいと」
「…………さようでございますか」
なぜ教皇までそんなに私たちを確認したいのでしょうね。
心の中でため息をつきつつ、改めて衣装を確認します。
確かに、教皇の隣に並んで接待をするための衣装というのなら、納得のデザインです。
西洋の聖職者のローブ風とでも言うのでしょうか?
なんでしたか、ひ孫たちが言っていた…………。
(聖職者風、でしたか?)
もっと違う固有名詞だった気もしますが、そのような名前を言いながら見せてもらったものに、似ていると言えば似ているような気がします。
フロリアナの衣装が白地と金糸に統一されているのに対し、私の方には青が使用されているのは、タンザナイト公爵家を意識してのことでしょう。
予定通り、似通ったデザインながらも、装飾でそれぞれの特徴を出すことで、別のデザインに見せるようになっていますが、私は声をかけて自分の衣装に近づき、じっくりと観察します。
「……この首元ですが、今から変更することは可能ですか?」
私の発言に驚きつつも、頷いたデザイナーに仮布と言葉でデザインの変更を伝えていきます。
今のままでは、私の衣装にも刺繍が多めで、フロリアナの衣装との差別化が難しいからです。
「このケープ部分の刺繍はライン部分だけで結構です。その代わり、この新しく足した部分のふちに刺繍と、留め具に……こういう十字の大き目なものを付けて印象を変えましょう」
流石に十字ぐらいは描けます。流石に……多分……。
デザイナーに伝わったことを確認して、その場でデザイナーがどんどんと仕上げていきます。
貴族相手のオーダー衣装は、仮縫いの時点からデザインを変えることが多くあるため、対応できるようにいろいろ持ち歩くのは素晴らしいですね。
「これでは、ヴィアがわたくしの引き立て役のような衣装になってしまいますわ」
私の変更に不満があるのか、フロリアナが私の腕に自分の腕を絡ませて文句を言いますが、もう片方の手で頭をなでて宥めます。
「ツインレイとはいえ、立場があります。そこをはき違えるのは間違っていますよフィリー。けれども、お揃いのイヤリングをするのですから、許してくださいな?」
「むぅ……」
腕に絡み付いたままフロリアナが拗ねつつ承諾したので、微笑んでその膨れた頬をつつけば、ジト目で見つめられましたが、その眼は甘えを浮かべており、これほど庇護欲をそそられる存在がいるのに、過去のループで出会った人々は情けない、とどこか呆れてしまいました。
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あ、この作品のPVあります。
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↓ こちらです。楽曲もオリジナルです!歌詞頑張りました!
https://youtu.be/lGgzV-qP2d4?si=qfMnJDU_K_SPcavB
↓ 曲 2バージョンあります(歌詞は同じです)
https://youtu.be/0_eG4LgSRxc?si=sVh6MfslAAvzeO6r
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