無知の罪②
愛されていないとはいえ、わたくしは第一王女という身分で、公爵令嬢のアウリティアと一緒にいれば、周囲には自然と貴族の子女が集まってくる状況でしたわ。
ヴィヴィアナがアウリティアへの復讐のため、王族である双子の兄を誘惑したという話を否定しませんでしたの。
いいえ、むしろあんなに親しくしていた二人を引き裂くなんて、とアウリティアを慰めるように同調して話を広める手助けをしましたわ。
当然、双子の兄からはヴィヴィアナを悪く言うなと責められ、暴力も振るわれましたわ。
久しぶりに振るわれる暴力は、わたくしの体と心に深く傷を残し、暗い表情を消せないわたくしに、いったい何があったのだろうと気にするのは当然でしたわね。
とくにアウリティアは、不意に体の傷を庇ったり痛みを見せたりするそぶりをするわたくしを気にかけ、お茶会などで他の貴族子女がいる時にでも、わたくしに「大丈夫?」と声をかけてくれましたわ。
あの時は…………そう、ちょうど双子の兄にアウリティアを大事にすべきだと訴えて、生意気だと手首をつかまれ、痣が残るほどの痛みがあり、紅茶のカップも持つことが出来ませんでしたの。
咄嗟に手首を庇ってしまったわたくしに、アウリティアは心配そうな表情で「もしかして……」と言葉を止めた後、「……もしかして、お義姉様に関係して?」と小さく呟いた後、はっとしたように、口元に手を当てました。
けれども、静かになっていた場所でその声は妙に響いてしまい、否定することで双子の兄がわたくしに暴力行為を働いたと明かされることも怖く、何も言えないわたくしに何を思ったのかは、翌日からの周囲の反応で明らかになりましたわ。
あちらこちらで、わたくしの耳にすら届くようになったヴィヴィアナの噂。
わたくしへ暴力をふるったという疑惑は、いつの間にか家庭内、アウリティアに暴力をふるっているという噂へと、当たり前のようにすりかわっておりましたわ。
そのことでヴィヴィアナは社交界であからさまに邪険に扱われるようになり、孤立していきました。
けれど、そのような状況だからこそなのか、双子の兄はヴィヴィアナをより自分の庇護下に置こうと躍起になり、実母と暮らす離宮で過ごすように手配してしまったのです。
それが許されない行為だと、誰だってわかっておりましたわ。
特にお母様はヴィヴィアナの存在そのものが気に入らず、けれども双子の兄の目の前でヴィヴィアナを責めることも出来ず、一人になった時に少しずつ痛めつける行為を繰り返しておりました……。
それが、双子の兄に気づかれないわけもなく、実母と双子の兄は口論を繰り返す日々が続いておりましたわ。
だから、わたくしはヴィヴィアナに申し上げたのです。
「貴女が……貴女が来てから全ておかしくなりましたのよっ……」
わたくしの声は弱々しく震えておりましたでしょう……。
だれかになにかを訴える、責めるような言葉をぶつけるなど、あの時のわたくしに経験がなかったのですから……。
今にして思えば、ヴィヴィアナは巻き込まれただけなのに、ひどい責任転嫁ですわね。
「わ、私はそんなつもりじゃなくて……」
驚きと戸惑いを浮かべたヴィヴィアナは、申し訳なさそうな表情を浮かべ、頭を下げたけれど、あの時の彼女は王族である双子の兄に逆らう事などできなかったのです。
その弱い姿に、私は無性に苛立ちを感じたのを今でも覚えておりますわ。
きっと、何もできない弱いだけの自分自身の姿を重ねてしまったのかもしれませんわね。
「…………貴女なんて、いなければよかったですわ」
涙交じりに訴えたわたくしは、そう言い捨ててヴィヴィアナの前から逃げ出しました。
その翌日、ヴィヴィアナはベッドの上で冷たくなっていたと聞きました。
聞きましたというのは、わたくしはその姿を見ていないからですわ。
毒を飲んで死んでいたとメイドが話しているのを聞きましたが、あの時わたくしは自分のせいで自殺したのではないかという、恐怖に飲み込まれておりました。
自分のせいではない、わたくしのせいで服毒したのではないと、そう必死に言い聞かせておりました。
ヴィヴィアナが自分の庇護下で死んだことで、双子の兄は絶望し、そのいら立ちは当たり前のようにわたくしに向けられましたわ。
殴られ、切りつけられ、人前に出てもいいようにと伸ばされた髪は、いつの日かのように床に落ちて広がっていき、その上に切り付けられたわたくしの血が点々と散らばっていく光景は、衝撃というよりも諦めの感情に染められていきましたわ。
床に叩きつけられたわたくしは、窓から入る夕日の赤い色に、実母や双子の兄の髪の色を重ね、少しでも近づこうと動きの鈍い腕を持ち上げましたが、当然届くはずもなく、力なく無様な音を立てて床に落ちるだけでしたわ。
それからどれほど時間が経ったのか、いつの間にか沈んでいた意識は誰かの足音をとらえ、ふと浮上しました。
カツンとヒールの音を鳴らして目の前に見えたのは、真っ赤な靴。
動かしにくい視線を上に向ければ、そこには白い肌が鮮血で彩られた実母がおりました。
「お、かあ……さ、ま?」
絞り出した声が終わるか終わらないかの時、ポタリ、と何かが床に滴り落ちた音がしました。
目を向ければ、そこには先ほども見た覚えのある真っ赤な血……。
いったいどこから、と思って視線を少し上げればそこには血を滴らせる、双子の兄の首。
「ひっ」
掠れた喉の奥から、ひきつった悲鳴がこぼれた瞬間……。
「お前が生まれていなければ……」
冷たい声は、心臓をえぐるような鋭さを持ってわたくしに降り注ぎ、双子の兄の首が床に落ちる音が聞こえると同時に、わたくしの首に刃が突き立てられました。
引き抜かれた刃は真っ赤なしぶきをまき散らし、滴る血がさらに実母の顔を赤く染めあげました。
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あ、この作品のPVあります。
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↓ こちらです。楽曲もオリジナルです!歌詞頑張りました!
https://youtu.be/lGgzV-qP2d4?si=qfMnJDU_K_SPcavB
↓ 曲 2バージョンあります(歌詞は同じです)
https://youtu.be/0_eG4LgSRxc?si=sVh6MfslAAvzeO6r
https://youtu.be/6nR6zqxGNPY?si=SRqlyHR7kBCSOvNL




