子供の姿だからこそ、でしょう?
「…………ふぅ」
一つ小さく息を吐き出して食事の手を止める。
半分以上を残してカトラリーを置けば、やはり違和感を覚えたのかお母様が何かを言いたそうに見てくるけれど、父はこちらを気にせずに食事を続けている。
(まぁ、貴方は今日起きることを知っていますものね)
実の娘がどんなに緊張していようが、お茶会に出席さえすればいい。
そう考えているのだと手に取るようにわかってしまう。
(でも、残念ですけど今日の予定は変わってしまうんですよ?)
お母様の視線がしっかりこちらに向けられているのを気配で確認してから、目をきつく閉じて歯を食いしばる。
「ヴィヴィアナ?」
お母様が私の名前を呼んだところで、はっとしたように目を開けてなんでもないと引きつった笑みを浮かべようとしたところで、目を大きく開いて口元に手を当てる。
喉の奥からゴポッと嫌な音がして、指の隙間から唾液や胃液、先ほど食べたものが混ざった吐しゃ物がこぼれる。
(まぁ、実際に毎日飲まされている毒のせいで、ヴィヴィアナの体は弱っているんですけどね)
それでも、マリッサは多少具合が悪くなる程度に毒は調整していた。
(けど、私はこの体調ならあえて嘔吐することもできてしまうんですよ)
「ヴィヴィアナ!」
悲鳴のような声を出してお母様が駆け寄ってくる足音が聞こえ、私は目に涙を浮かべて必死に吐しゃ物を飲み込もうとするフリをする。
鼻で浅く呼吸を繰り返し、きつく目を閉じれば涙がぼろりとこぼれていく。
お母様が私の体に触れた瞬間、目を開いて驚きと恐怖を浮かべた表情を作り、ついに我慢できないというようにゴボッと手の中に吐しゃ物を吐き出した。
周囲から聞こえてくる悲鳴、喉を焼く胃液に意識をせずとも眉間にしわが寄り、頬に涙が伝い落ちていく。
それでも、無理やり口の中を飲み込み、ひきつった笑みを顔に浮かべる。
焦点の合わない視線のまま、お母様を見つめ「大丈夫、問題はありません。私はできます」とうわごとのように繰り返していく。
常にない娘の姿、まるで何かに怯えているように、大丈夫、問題はない、出来る、と繰り返す姿は異様でしかない。
驚きながらも私に駆け寄り抱きとめるお母様に、少なくともこの人はヴィヴィアナに対して情愛があるのだとわかる。
吐しゃ物で汚れたドレスや手で自分のドレスが汚れることも気にせず、ただ娘を心配する姿。
いいわ、お母様。
元々そうするつもりだったけど、ちゃんとお母様のことも助けましょう。
心の中でそう決めると、私はお母様のドレスにしがみつきながら、さらに大丈夫だと言葉を重ねる。
まるでそうしなければいけないと思い込んでいるように。
「何も、問題はありません。大丈夫です。……ちゃんと、いつも通りできます。ちゃんとできます」
震える手は具合の悪さからなのか、それとも目に浮かんだ恐怖に関係しているのか。
お母様にはまだわからないだろうけれど、わからないなりに娘を守らなければと思ったのか、メイドや侍女に指示を出す声が聞こえる。
「だめっ……本当に、大丈夫です。何も問題はないのです。だから、ちゃんとできますから、いつも通りに出来ますからっ……お茶会もでます、ちゃんといつも通りにしますっ……だから、だから……嫌いにならないでください」
必死に、嫌われないように、捨てられないように涙を浮かべて縋り付く。
「ごめんなさいっ! ちがうっ大丈夫、ちゃんとできます! ちゃんと今日もいつも通りにするから……ちゃんと、言われた通りにします……だから……」
そこでもう一度胃液が込み上げてきたので、咄嗟に手で口を押さえて必死に飲み込もうとする姿を見せる。
とても五歳の子供が行う行動ではないと、メイドたちが驚愕し、父が訝しむ視線を向けてくるのをちらっと見てから、マリッサに視線を向ける。
驚愕と嫌悪の視線を隠せないままこちらをみてくる姿に、内心で笑ってから口の中のものを無理やり飲み下して咳き込む。
涙の浮かんだまま、無理やりいつも通りに笑顔を作っているように口角を上げる。
「ほら……私はちゃんと出来てますよね」
自信満々に見えるように、ひきつった中途半端な笑顔を浮かべながら言う娘に、異常事態だと判断したお母様は、今すぐ休むように口にした。
それは当然お茶会にも行けないということになり、私は顔に怯えを浮かべ体を震わせてお母様に縋りつく。
「だめっだめです……。お茶会にいかなくちゃ、嫌われてしまいます。怒られて、……い、痛いのも苦しいのも、いやですっ! お願いします……ちゃんと言われたとおりにします。私はちゃんとお母様とお父様の自慢できる子供を出来ますから」
どこかおかしい口調。違和感の残る言葉。
「ヴィヴィアナ……とにかく今は休みなさい。そんな状態でお茶会に行くなんて無理ですよ」
「だっ大丈夫です! いかないと、だって……そうしないとっ私は、だめなんです」
興奮しているように息を荒くして震える手でお母様のドレスを掴む。
次第に浅く短く繰り返されていく呼吸。
誰がどう見ても正常ではない状態に、お母様が何かを言おうとした瞬間、私はマリッサを見て「ヒッ」と小さく短い悲鳴を上げて顔を伏せる。
普段のヴィヴィアナであればマリッサに怯えるなど絶対にない。
逆に具合の悪い自分の世話をなぜしないのかと、怒鳴りつけているはずなのに、今、大勢の目に映るヴィヴィアナは、マリッサに怯えるか弱い幼子でしかない。
「お嬢様」
なにかよくない気配を感じたのか、マリッサが私に近づこうと一歩踏み出した瞬間、私は頭を抱えるようにして体を丸める。
「ごめんなさいっごめんなさいっ! 怒らないで! 苦しいのも痛いのもいやっ! ごめんなさいっ! いい子でいるから! 言われたとおりにするから! 怒らないで!」
怯えて震える私を守るように抱きしめたお母様が、とにかく今はヴィヴィアナを休ませると宣言し、執事に私を部屋に連れていくよう指示したけれど、私はそれに絶望したように顔を上げた。
「いやっ捨てないでっ! いい子でいます! 休まなくて大丈夫です! ちゃんとできます! だから、捨てないでっ嫌いにならないでくださいっ! 役に立つ子でいるから……ちゃんと、ちゃんと言われたとおりに出来ますからっ」
必死に言い募る姿はやはり普通ではなく、お母様はマリッサにどこか冷たい視線を向けたあと、「私も一緒にお部屋にいますからね」と優しい声音で言うと、そのまま執事に私を丁寧に抱き上げさせて一緒に部屋に戻っていった。
(……ねえ、お父様? あなた、なーんにも言わないんですね?)
去り際に少しだけ視界に映り込んだ父に心の中で問いかけて、口元を手で隠してクスリと笑った。
あ、この作品のPVあります。
見ていただけるとヒャッホーーーーーーーーーイって飛び上がった末の感謝の土下座をします(イマジナリーで!)
↓ こちらです。楽曲もオリジナルです!歌詞頑張りました!
https://youtu.be/lGgzV-qP2d4?si=qfMnJDU_K_SPcavB
↓ 曲 2バージョンあります(歌詞は同じです)
https://youtu.be/0_eG4LgSRxc?si=sVh6MfslAAvzeO6r
https://youtu.be/6nR6zqxGNPY?si=SRqlyHR7kBCSOvNL




