いつまでも同じではありません
お茶会の会場に戻ると、先ほどとは違いどこか探るような視線を向けられる数が増えたように感じ、フロリアナが一瞬動きを止めたので、繋いだ手を少しだけ強く握りしめました。
今は先ほどのようなパフォーマンスは必要ありません。
必要なのは……。
「フィリー、あちらに新しいお菓子が並んでいますよ」
「またお菓子でして? もう、ヴィアってば本当に食いしん坊さんですわね」
仲の良さをアピールして、6歳の子供らしく無邪気にお菓子の話をしながら、会場の中央付近に移動していけば、自然に道が開いていきます。
見えてくるのは幾人もの令嬢に囲まれた第二王子です。
あちらも私たちに気づいたのでしょう、視線は寄越してきますが話しかけてくる様子はありません。
いまだに自分の方が上位者だとでも思っているのでしょうか?
皇女の正式な養女となっているフロリアナは、血縁上は双子の妹でも、身分的には第二王子よりも上になるというのに、状況が分かっていない子狐ですね。
私たちから挨拶しに行くことはありませんよ。だって、上位者が下位の者にわざわざ自分から挨拶に行くなんて、親しくもないのにおかしな話ですからね。
それに、第一王子殿下……ヴェスペリオン殿下からも、敵対関係をはっきりさせておくようにと言われていますから、ちゃんと遂行しないといけませんよね。
「王宮のお菓子はタンザナイト公爵家といただくものとはやはり違いますから、堪能したくなってしまうんです」
「これからいくらでもこちらに来る機会ができますのに? わたくしもタンザナイト公爵家のお菓子を戴きたいですわ。お土産でお持ちいただいてもよろしいかしら?」
「フィリーのお望みとあればいつだって持ってきますよ」
クスクスと微笑み合う私たちに、第二王子の視線が向けられているのが分かりますが、当然無視です。
無視している間、ジュエリアの子女をはじめ、先ほど挨拶をしてきた高位貴族の子女が話しかけてくるので、その相手をしつつフロリアナとの仲の良さをより印象づけていきます。
皇女にもヴェスペリオン殿下にも認められた親友。
ジュエリアの家であるタンザナイト公爵令嬢と、王族の正統な後継者の色を持つ王女の組み合わせは、なにも疑われることはなく、むしろそれが当たり前のことのように認識されていきます。
そうしてどのぐらい時間が経ったのか、第二王子は目に見えて不機嫌になっていき、周囲に集まっている令嬢たちが気まずそうに顔を曇らせていくのが見えます。
王族として、そして母親に甘やかされた王子として自分を律するということが出来ないのでしょうね。
(本当、お可哀相に)
心の中でそう嘲笑して、私は一瞬だけ視線を合わせるように第二王子を見ます。
しっかりと視線が合ったのを確認した後に、頭を下げることもなくすぐに視線をフロリアナに戻します。
耳打ちするようにフロリアナに顔を寄せ、口元を手で隠して小さな声で「始めましょう」と言って笑い合えば、勝手に勘違いしたのか、険しい顔をした第二王子がこちらに近づいてくるのが見えました。
そのまま耳元で「来ましたよ」と囁いてから、第二王子に気づかないふりをして、フロリアナの耳元から口を離し、ゆっくりと紅茶の入ったカップを手に取ってフロリアナと同じタイミングで口元に持っていきました。
暗に話しかけるなというサインなのですが、第二王子には通じないようで、「おい」と声をかけられました。
けれど、誰にかけたかこの状況ではわかりませんよね。
だって私たちの周りには数名の子女が私たちを守るように立っているのですから。
「おい!」
再度声をかけられ、あえて私たち以外の子女が、今気づいたというように第二王子に向かって頭を下げました。
その空気を感じ取り、私が初めて振り返り、驚いたような表情を浮かべた後、ゆっくりと淑女の礼を取りました。
けれど、第二王子の目的は私どもではなく、フロリアナのようです。
「僕に挨拶もないとは、皇女殿下にずいぶん甘やかされて身の程をわきまえなくなったのか?」
頭を下げたままの状態で、身の程をわきまえないのはそちらでしょう、と思いながらも、私には声を掛けられていないのでそのままの体勢を維持し続けます。
正直、この体勢はつらいので、早めにお声をかけていただきたいのですが、そのような気遣いを出来る子狐ではないでしょうね。
「……身の程をわきまえないというのは、わたくしにおっしゃっておりますの? 第二王子殿下」
あえてお兄様とも呼ばず、名前も呼ばない。
それだけで不仲であることを表しているのに、第二王子はそれを指摘することもない。
普段からそうで、それが当然の日常であると宣言しているようなものなのに、わからないのでしょうね。
「お前がいないせいでお母様が悲しんでいる。今まで育ててもらった分際で生意気だな。しかも僕に挨拶もしない。戻ってきてお母様に教育し直してもらったらどうなんだ?」
第二王子の言葉に、フロリアナは体をびくりと震わせ、私に身を寄せると縋るようにドレスを指先でつまみ、消えそうな声で「いやですわ」と言いました。
まさに庇護欲を誘うようなその姿に、様子をうかがっていた子女たちは、どちらにつくべきかを必死に計算し始めているのでしょう。
私はそれが経験から導き出した計算上の行動とわかりますが、他の子女たちは違いますからね。
(でも……)
「恐れ入ります、第二王子殿下」
「……なんだ、貴様。無礼にもほどがあるとわからないのか?」
許可を待たずに頭を上げた私にあからさまに機嫌の悪い声を出す第二王子。
「私はタンザナイト公爵家の長女でございます。失礼ですが、皇女殿下の正式な養女になられたフィリー……フロリアナ王女殿下は、第二王子殿下より身分は上であると、ご理解なさっておいででしょうか?」
私がはっきりとそう言ってフロリアナの前に立ったからか、他のジュエリアの子女達も顔を上げ、第二王子に冷たい視線を向けつつ、私とフロリアナを守るようにすぐに動けるように密かに場所や体勢をかえました。
「なんだと!」
第二王子が私の言葉に激高したのはわかりますが、事実なんですよ?
そう言った瞬間、私は自分の瞳の奥でタンザナイトの青が揺らめいたように感じました。
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あ、この作品のPVあります。
見ていただけるとヒャッホーーーーーーーーーイって飛び上がった末の感謝の土下座をします(イマジナリーで!)
↓ こちらです。楽曲もオリジナルです!歌詞頑張りました!
https://youtu.be/lGgzV-qP2d4?si=qfMnJDU_K_SPcavB
↓ 曲 2バージョンあります(歌詞は同じです)
https://youtu.be/0_eG4LgSRxc?si=sVh6MfslAAvzeO6r
https://youtu.be/6nR6zqxGNPY?si=SRqlyHR7kBCSOvNL




