密室の本題
私の存在がフロリアナを害さない、少なくとも重要な存在であると認めた第一王子は一つ小さく息を吐き出す。
「まあ、フロリアナの後ろにタンザナイト公爵家が付くとなれば、あの女狐も簡単には手を出すまい」
第一王子にウルフェナイト公爵家が付いたことで、皇女の異母妹が自分に手を出しにくくなったように、と首を縦に動かした。
けれどもその後、すぐに真剣な目で私を見ると、「で?」と剣呑な光を目に浮かべました。
「俺にはパートナーになる相手以外のジュエリアとの共感力はほぼない。だが、タンザナイト公爵令嬢が普通ではないというのはわかる」
そうだろう。と第一王子が背後に立つウルフェナイト小公爵に同意を得るように視線を向けます。
ウルフェナイト小公爵は視線を受けた後、一度私を見てから、「普通ではないというのは、フロリアナ殿下も同じですけどね?」と含みのある笑みを浮かべました。
「まあ、私のフィリーが普通のわけがありませんでしょう。ウルフェナイト小公爵はおかしなことをおっしゃいますね」
「はは、これは失礼しました。どうも普段ヴェスと皇女殿下に甘やかされている姿の印象が強くて」
「まあ、愛されていることはよいことですよ。もっとも、甘やかすだけでは優しい虐待と同じですけど」
そんなことしてないですよね、と視線で語れば、ウルフェナイト小公爵も同じ考えなのか深く頷いて下さいます。
「もちろんです。そんな甘ったれた王族なんて、ただの傀儡ですよ。どこかの子狐のように、ね」
「あらあら、その子狐はお気の毒ですけれど、フロリアナの様子を見て気づかない、気づけない、放置する愚かな子狐のようですから、仕方がないでしょうね」
「まったくです」
ニコニコと笑みを交わしながら言葉を交わす私とウルフェナイト小公爵に、第一王子の顔が引きつりますが、フロリアナは目を輝かせました。
「……うん、いや……怖いんだが? 空気が、うん……な?」
そういう第一王子に、私とウルフェナイト小公爵は不思議そうに同時に視線を向けました。
「仲の良い家族はいいですね、とお話ししていただけですよ?」
「そうそう。何も変なことは話していないぞ」
「……うん、もういいや、それで」
なにかを諦めたような第一王子は深く息を吐き出してから、「本題だ」と場の雰囲気を変えるように、声を出しました。
流石はいずれ皇帝となるべきお方ですね。場を制す力の片鱗はすでに表れているようです。
「俺もだが、フロリアナ、そして母も持っている王位継承権の証の色。この色のせいであの女狐が俺だけではなくフロリアナの命も狙っているのは知っているな」
第一王子の言葉に、フロリアナの手にピクリと力が入ったのが分かりました。
「彼女は……フロリアナの実母は皇女の異母妹ではあるが、王位継承権の色は一切持っていなかった。それどころか母親の身分が低すぎて我が母、皇女への嫉妬に狂っていると言ってもいい」
「そのような女性にたぶらかされた第一王子のお父君は、なんと申しますか……」
思わず憐みの視線を向ければ、それ以上は言ってくれるなというように、苦い表情を浮かべられてしまいました。
このままいけば、間違いなく皇女の夫が皇帝の座に就くことになる。
その内情はともかく、それが星暦なのですからしかたがありません。
「…………で、だ。その女狐に洗脳されるように育てられた愚弟は、当然賢妹であるフロリアナとは正反対なわけだ」
第一王子の言葉にフロリアナとウルフェナイト小公爵は遠い目をしましたが、私はその通りと頷きます。
「フロリアナとタンザナイト公爵令嬢が2度目の退出をした後、そそくさと会場に入れ替わるように入ったそうだ」
「ジュエリアの子女は遠巻きにしているそうですが、女狐の取り巻きの派閥の子女、そして第二王子殿下の花嫁の座を狙っている令嬢はすぐさま、第二王子殿下に集まったそうです」
いつの間にそんな情報を、とは思いますが、そこもどこかの家が動いているのでしょう。
「子狐だけですか?」
「はい、女狐は皇女殿下と同じく出席できません」
それなら、第二王子にまだ大したことはできないでしょうと、私は笑みを浮かべました。
前世の記憶を持つ私や、ループの記憶があるフロリアナならともかく、ただの甘やかされて育った6歳の子供に出来ることなどほとんどないでしょう。
「つまり、第一王子殿下は私に何をさせたいのでしょう?」
ほんの僅かだけ首をかしげて第一王子を見れば、にやりと笑みを浮かべて私を見てきました。
「先ほどの状況でタンザナイト公爵令嬢とフロリアナの親密さは十分に理解されただろう。他のジュエリアにも、な」
その言葉にコクリと私とフロリアナは頷きました。
「だからこそ、第二王子と明確に敵対していると、示せ」
はっきりと口に出された言葉に、私はほんの僅かだけ目を細めました。
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あ、この作品のPVあります。
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