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王妃様による最高の再婚〜夫と愛人聖女に飼われるくらいなら離婚させていただきます。あ、慰謝料はもらいますけどね~  作者: 油性ペン
六章

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夫であり国王

 しかし、今度は別の大臣の声が飛んでくる。


「妃殿下は僻村の下級貴族の陳情から、平民の子供の他愛ない声まで、全てに目を通し把握されておりました。故に、私共よりも有用な横断的見地をもっておられました」


 皇帝の半身とも言われる、宰相だった。


「陛下が見過ごされたことでも、妃殿下が気付いて止めてくださったこともありました。引きこもりなど以前は呼ばれていたようですが、彼女が引きこもり、政務に専念してくださっていたからこそ、我が国はノーディレイ王国に攻め入る隙を与えることなく、内政を充実させられたのですよ」


 ルーベントへの皮肉ともとれる宰相の言葉に、議会の場は水を打ったように静まった。しかし、湖面に落ちた一滴の水が次々と波紋を呼ぶように、あちらこちらでヒソヒソと囁きが漏れ始める。


「そういえば、妃殿下が提案された西部灌漑事業のおかげで、水害が減ったと」

「ああ、なるほど。どうりであそこ一帯の農作物の収穫量が増えたわけですね」


 もはやヒソヒソと隠せない、リナフィアへの感嘆の声が場を占めていた。

 バルバリード公爵達正聖女派は唇を噛むしかなく、伯爵はその様子を、仕返しとばかりに顎を上げて眺めた。


「私の補佐官が言うには、今回の地震で民の避難誘導が滞りなく済んだのは、妃殿下が真っ先に王宮前庭の解放と、近隣の貴族邸の解放を命令したからだと。それに対し、同じ場所にいた正聖女様は、妃殿下の助力を求める声を断って、王宮へ逃げ帰られたのだとか?」


 伯爵の言葉で、一斉に視線がルーベントへと集まる。

 その目は『あなたは、そんな女の方をとるのですか』と言っていた。


「――っ黙れ! マリアはまだ幼いのだぞ! あんな光景を見て怖いと思うのは仕方ないことだろう!」


 言うと同時に机へと振り下ろされたルーベントの拳は、耳に煩い轟音を奏でた。

 痺れたような残響が部屋にこだまし、その間、誰も口を開くことはなかったが、ルーベントを見る目は、ひどく煩いものと化してしまう。


「陛下……もし民が全員亡くなったとして、その時も『仕方がなかった』で済まされるのですか」

「このっ……! 腕力しか取り柄のない田舎者風情が、陛下に向かってなんたる口の利き方を――」


「失礼いたしますっ!」


 静かに問いかけた伯爵の言葉に、公爵が腰を上げて激怒を飛ばしたのだが、それは突如、部屋の扉を無遠慮に開けた者の声によって遮られた。

 皆が何事かと、入り口で肩で息をしている衛兵に注目する。


「ひ……っ妃殿下が! お目覚めになりました!」





        ◆




「妃殿下!」


 リナフィアの部屋に、一番に飛び込んだのはベルハイク伯爵だった。

 部屋には目元を赤くしたミレーネと、自分の補佐官であるレイス、そして待ち望んだ彼女がいた。


「あら、ごきげよう伯爵。三ヶ月ぶりね」


 三ヶ月前とちっとも変わらない淡い笑みを、にこりと向けられれば、伯爵の目頭も熱くなる。

 天蓋が掛かるベッドの上で座る、真っ白な夜着姿のリナフィアは、部屋中が花に満たされていることもあり、まるで本物の女神が目覚めたような神々しさがあった。

 伯爵は、花を踏み潰さぬようにかき分け、ベッドの前に到着すると、片膝を折って頭を下げる。


「妃殿下のおかげで、サウザード王国は救われました。感謝申し上げます」


 気がつけば、入り口に議員や大臣がわらわらと集まってきていた。そして、彼らは伯爵が膝を折ると一緒に跪き、リナフィアに頭を垂れていた。


「妃殿下……よくぞご無事で……っ」


 財務大臣の声を皮切りに、皆が口々に「妃殿下」と呟く。

 顔を伏せた下で発せられる彼らの「妃殿下」という言葉は、明らかにそれまでの呼びかけの響きとは違った。本当の意味での敬称としてリナフィアを『妃殿下』と呼んでいた。


「伯爵様、皆様。申し訳ありませんが、妃殿下はお目覚めになられたばかり。お話がある方は、日を改めてくださいますようお願いいたします」


 確かに、と入り口にいた貴族達は一礼してゾロゾロと去って行く。


「それもそうですな。色々お聞かせしたい話はあるのですが、後日といたしましょう」


 伯爵は立ち上がると、ミレーネを呼んだ。


「はい、何でしょうか。伯爵様?」

「我々も行こうか」

「え、わ、私もでしょうか!?」


「まだ妃殿下の傍にいたいのに」と全身で訴えるミレーネに、伯爵は顎をしゃくって、『見ろ』とリナフィアとその後ろに立つレイスを示す。

 レイスは片時もリナフィアから視線を外さず、リナフィアもチラチラとレイスを気にする素振りを見せていた。

 今、誰がここに残るべきか察せられ、ミレーネはぐぬぬと悔しそうに口角を下げる。


「……レイス卿」

「――っあ、はい! なんでしょうか、侍女殿」


 ミレーネはわざとらしく咳払いをして、本人に向かって言うというより、周囲にも聞かせるかのように大きな声を出す。


「私は妃殿下の目覚めのお茶の準備をしてきます。久しぶりに妃殿下に召し上がっていただくものですから、入念に丁寧に丹精を込めて準備をしたいと思います。きっと、結構時間が掛かると思うので、それまで妃殿下の護衛をお願いしますね」


 言い終わると一緒に、レイスの返事も聞かずに扉はパタンと閉められた。


「ふっ……どこを向いて言ってるのよ、ミレーネったら」


 リナフィアは笑うばかりだったが、ミレーネの言わんとした意味を察し、レイスは決まりが悪い顔をして首後ろ掻いていた。

 しばし、リナフィアのクスクスとした軽やかな笑い声と、相槌を静かに打つレイスの声で、部屋には穏やかな時間が流れる。

 しかし、せっかく時間も貰えたのだし色々と話さなければならない、とレイスが意を決したとき、再び扉がキィと開いた。


「あら、ミレーネ? どうしたの、何か忘れ物でも?」


 二人して扉の隙間に視線を送れば、しかしそこから現れたのはミレーネではなく。


「――っ陛下」


 入り口に立っていたのはルーベントだった。




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