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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: 七瀬トイ
4章 武闘祭編

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第75話 1年の月日

 マルタ砦防衛戦から、1年の月日が流れた。

 アストリア王国領内、南西のタルタ街道。


「思ったより数が多いですねっ‥‥‥!」


 黒髪少女が左手を前に伸ばすと、複数の立方体が勢いよく飛んでいく。正面から近付いていた魔物は抵抗できずに絶命するのみ。


「この天才騎士シレーナちゃんにかかれば、あなたたちなんて左手だけで充分ですからねぇー!!」


 彼女の名前はシレーナ。

 アストリア王国騎士団、五番隊所属の王国騎士。

 1年経っても、性格は少しも変わっていなかった。


「! これはちょっと数が多すぎますねー‥‥‥」


 シレーナが背後を振り返って遠くを見つめる。近づいてくる魔力の気配を、いち早く察知したのだ。


「この左手の餌食になりたいようですねぇ〜!」


 シレーナは左手に魔力を集めると、僅かに冷や汗を流す。だが彼女は目を丸くすると、無意識に声を漏らした。


「? 魔力反応がどんどん減っていく‥‥‥異質な魔力反応なんて全然無いのに、いったいどうして」


 それは突然起きた異変。まるで自然消滅するかのように、魔物たちの魔力反応だけが無くなっていく。


「あ、あなたはっ」


 黒髪が印象的な少年。背中に背負っている長剣は、明らかに彼の体格と合っていない。

 だが、どこか落ち着いた雰囲気を感じられる。


「久しぶり、シレーナさん」


 1年前から、かなり身長が伸びた‥‥‥王国騎士セレノアがいた。


「あなたから、魔力を全く感じない‥‥‥まさか、あ(・)の(・)時(・)の」


 シレーナが驚いた様子で呟くと、セレノアはあっけからんと答える。


「うん。シレーナさんに聞いた時から練習してきて、少し前に掴んだ。魔(・)力(・)を(・)表(・)に(・)出(・)さ(・)な(・)い(・)感覚を」


 それは1年前に遭遇した怨敵、大魔族グレイザーラが使っていた‥‥‥魔力反応消失技術。


「魔物たちの背後に回っても、俺(・)は全然気付かれなかっただろ? これ、かなり役に立つんだ」


 その技術を身に付けるため、セレノアが1年の間にどれほどの訓練を行ったかは、想像に難くない。


「‥‥‥ふっ。相変わらず、あなたは変わってないようですねー」


 強さへに愚直な姿勢を再認識し、シレーナはどこか懐かしむように微笑む。そして彼女は‥‥‥震わせながら右(・)手(・)を差し出す。


「任務の遂行、お疲れさまでした」

「っ!」


 セレノアは僅かに息を詰まらせながらも、彼女の右手を見つめる。1年前は少しも動かなかった彼女の右手。今はゆっくりではあるが、確実に動かせている。

 そしてその事から、どれほどの過酷なリハビリをこなしてきたのかを分からされる。


(シレーナさん‥‥‥やっぱり凄い人だ)


 この1年、戦ってきたのは自分だけではない。それが分かって、セレノアは勇気を貰う。


「シレーナさんこそ‥‥‥負けん気は全然変わってませんね。さすが天才騎士です」


 セレノアは嬉しそうに笑い、彼女と握手を交わした。


「あなたから言ってくれるのは珍しいですねー? ふふん、天才騎士シレーナちゃんの完全復活は近いですよー?」


 そう呟く彼女の言動を懐かしく思いながら、セシルは笑顔で見つめる。


「ーーー待ってくださいよセレノアさんっ、置いていかないでくださいぃ〜!!」


 すると遠くから聞こえてきた声に、セレノアは『しまった』と思いながら振り向く。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥あっ、シレーナさんっ!! ははは初めまして!!」


 息を振り乱しながら大声を出したのは、茶髪おさげの少女だった。


 ◆◇◆◇


 ルソス村。アストリア王国領内、南西のタルタ街道沿いにある小さな村。


「シレーナさん、さっきの魔物たちって依頼されてた任務ですか?」


 セレノアは椅子に座った状態で話しかける。当然、対面には先輩のシレーナが座っている。


「ええ。1年前にマルタ砦が壊された一件で、魔物の侵攻が活発になりましてね。この村の近くにも頻繁に魔物が現れるので、私のリ(・)ハ(・)ビ(・)リ(・)がてら討伐任務をこなしてるわけです」


 対面に座るシレーナが、足を組みながら答えた。話をする彼女は、どこか不機嫌そうに眉を顰めている。


「破壊されたマルタ砦を再建築してる間、周囲の村を見回りしながら魔物たちを討伐してるわけです。最近はこの村に滞在することが増えたので、こうやって宿を化してくれてるんです」


 セレノアたちは今、ルソス村にある宿の一室で話をしていた。そして、彼女は今も不機嫌そうだった。


「あの、何か嫌なことでも」

「さてと、そろそろ説明してもらいましょうか?」


 セレノアは率直に聞こうとしたが、シレーナが左手で一方向を指差した事で口を閉じた。


「あなたの隣で落ち着きのない子は、いったい誰なんですかね〜?」


 彼女の指先はセレノアの隣に座っている、どこか不安そうにチラチラと見つめる少女に向いていた。


「あ、この子は」

「あああああのっ! エマと申します!!」


 セレノアが紹介するよりも早く、少女は茶髪のおさげを振り乱しながら大声で名乗った。

 シレーナと目が合った瞬間に逸らし、顔を赤らめて両手の指をいじり始める。


「せ、セレノアさんに聞いたんですっ、お、王国騎士団の中に、平民でも入団試験を行ってくれる人がいるって」


「‥‥‥つまり、あなたは王国騎士になりたいということですか?」


 シレーナが目を細めて話しかけると、エマは勢いよく立ち上がる。椅子がガタガタと揺れるが、そんなことはお構いなしに両目を閉じて口を開く。


「は、はいっ! わたし、少しでもお側にいたいんですっ!」

「‥‥‥へぇ〜?」


 そして彼女の発言を聞いた瞬間‥‥‥シレーナの目がみるみると細くなっていき、やがて笑顔になる。


「ずいぶんと素直な子ですねぇ。そう思いませんかセレノアく〜ん?」

「え? ああ、そうですね」


 セレノアは急に話を振られて少し困惑した。

 シレーナの笑顔には、かなり圧力があるように感じた。


「はいっ、大好きですっ‥‥‥シレーナさん!!」

「ーーーはい???」


 シレーナは文字通り首を傾げた。まるで予想外と言わんばかりの反応を見せる。


「まあ、そうらしいです」


 そして、セレノアは特に驚いていない。

 最初からエマの気持ちがどこに向いているか、分かりきっていたのだ。


「綺麗な黒髪っ、凛とした表情っ、紛うことなき天才騎士!! わたし、ずっとシレーナさんに憧れて生きてきたんです!!」

「えぇ‥‥‥?」


 エマが目を輝かせながら早口で捲し立てたことで、シレーナは困惑を強めた。だがエマは止まらない。


「シレーナさんと同じ王国騎士になれるチャンスがあるならっ、ぜひ挑戦したいと思って!!!」


 次々と自分の気持ちを明かしていく彼女に、セレノアは苦笑いを浮かべていた。


「‥‥‥??」


 そしてシレーナは、完全に絶句している。


「入団試験ってどんな内容なんですか!? あ、いえ念の為に聞いてるだけで!! どれだけ過酷な試験でも絶対に合格します!! シレーナさんと同じ王国騎士になりたいのでッ!!」


 この後も、エマは色々な事を早口で話していた。自分の年齢や趣味、自分に関する事を赤裸々に。

 まるで、シレーナに何でも知ってもらいたいといわんばかりに。


「シレーナさん、とりあえず何か反応しないと」


 セレノアは助け舟を出した。というよりシレーナが黙り込んだままだと一向に話が進まないからだ。


「い、意気込みは分かりましたぁ‥‥‥」


 そしてシレーナがようやく声を出す。表情は完全に困惑一色だったが、話ができる程度には戻った。


「試験というのは筆記試験やそういうものではなく、私たちの隊長が面接を行い、独断で受験者の合否を決めます」


「えぇ!?」


 エマが数歩下がりながら驚く。シレーナは一息ついて話を続ける。


「つまり私やセレノアくんから、大した助言はできません。私たちに今できることは、あなたがどういう人間か事前に把握する事くらいですねー」


 シレーナは完全に落ち着きを取り戻したのか、いつもの口調に戻りつつあった。


「ハーティア隊長に認められるのが試験なら、ほぼ間違いなくエマは通ると思いますよ」


 セレノアはあっけからんとエマを後押しする。それを聞いたシレーナが少し眉を下げ、目を細めた。


「ずいぶん評価が高いですねー? 何かこの子を後押しする特別な感情があるのですかー?」


「感情‥‥‥? とにかく、エマの力を見てもらった方が早いですね」


 セレノアは短剣を手に持つと‥‥‥自分の腕を薄く切った。当然、血が溢れ出る。


「ちょっ、いったい何をーーー!?」


 シレーナが目を見開いて椅子を押して立とうとするが、次に視界に入ったものに意識を奪われていた。


「もうっ、突然なにしてるんですか」


 エマが翳した両手から魔力が溢れ、セレノアの傷口を瞬く間に治しているのだ。


「ち、治癒魔術!? まさかこの子はーーー」


 勢いよく立ち上がったシレーナに対し、セシルは嬉しそうに頷く。


「はい、聖属性魔力に適正があると思います。しかも殆ど魔術を教わったことがないそうで」


 そして、はっきりと呟いた。


「て、天才ッ!!?」


 シレーナは声を弾ませ、目を輝かせる。


「ひゃぁっ」


 その事でエマは激しく動揺したのか、顔を赤くして治癒魔術を乱れさせるのだった。

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