第74話 想いを背負って
アストリア王国、最北端の街ベールバーナ。
「‥‥‥」
3人の墓の前で、両手を合わせて目を閉じる少年。
風で靡く柔らかい金髪は、本人すら違和感があった。これは、恩師3人への誠意。
「‥‥‥ノールさん。フィーアさん。バンギネスさん」
王国騎士セレノア‥‥‥いやアベルは、3人の名前を呼んで目を開けた。
「ごめん‥‥‥本当のことを話せなくて。セリカと再会を果たすために、過去から逃げようとしてた」
胸中の目標を他者に話したことは、今まで無い。自身の教育係のシレーナや、隊長のハーティアにすら。
アベルは少し俯いて唇を噛む。そして背中に背負っていた剣を、鞘ごと彼らの前に見せる。
「なのにノールさんは‥‥‥僕に剣を託してくれた。自分のことしか考えてなかった僕にっ‥‥‥本当にごめんなさい」
ノールの相棒だった、黒鋼の剣。
その重みを力強く掴み、アベルは一筋の涙を流す。誠心誠意の謝罪を、3人の墓の前で行う。
「ノールさんたちと過ごした日々は、毎日が新鮮で楽しくて、宝石のように輝いてた。絶対に忘れない。みんなは‥‥‥俺にとって大切な恩人です」
アベルは穏やかに微笑む。まるで彼らを安心させるように。
「だからどうか‥‥‥安らかに眠ってください」
そして、アベルはもう一度目を閉じて両手を合わせた。彼らの事を想い、深く深く祈りを捧げる。
「‥‥‥また来るよ。これから大変な任務らしいけど、絶対に戻ってくる」
アベルは3人の墓にそう呟くと、名残惜しそうに踵を返して歩いていく。
(セリカに会えたら、ノールさんたちの事を話そう)
そして懐から取り出した魔結晶を握り締めると、みるみる黒髪へと変わっていった。
(アベルとセレノア‥‥‥どっちも俺なんだから)
少年は彼らの想いを背負って、前へ進む。
過去と今の自分、その両方を受け入れて。
◆◇◆◇
金髪、いや黒髪少年が去ってから‥‥‥数時間後。
墓の前に、花を持った人物が現れる。
「やっぱり人望あったんですね‥‥‥皆さん」
私は墓前で足を止め、小声で呟く。3人の墓には既に、誰かが花を添えていた。納得は出来る。あの日の後、彼らは私と母を色々助けてくれた。
「これ、お母さんの故郷の花です。こっちでは咲かない、特別な花だそうです」
私たちにとっては安全の地である、母の故郷。そこへ無事に辿り着けたのも、彼らのおかげだ。
「彼だけでなく、あなたたちまで亡くなって‥‥‥私はもう、踏み留まる理由が無くなりました」
なぜ、良い人ばかりが辛い目に遭うんだろう。
そう思うと、無意識に魔力が溢れ出てしまった。周囲を冷たくしてしまい、魔力を抑えてしゃがみ込む。
「アベルくんや、あなたたちの事は絶対に忘れません‥‥‥人間の中で、優しかったあなたたちだけは」
何かが溢れ出して、声が上擦りそうになった。意識的に深呼吸して、立ち上がる。
「まだ時間は掛かりますけど‥‥‥必ず償わせます。愚かで醜い貴族どもに」
この凍り付いた意志は、溶けることは無い。
目的を成し遂げる、その瞬間まで。




