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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
3章 運命の分かれ道

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第61話 虚構立方体

 マルタ砦付近の平原。


「あ、この陣の指揮は六番隊所属のクーガーさん。あなたに任せますね」


「ーーーはぁ!?」


 シレーナの発言は、1人の男に大声を上げさせた。短い灰色髪が特徴的な男、クーガーである。

 彼はアストリア王国騎士団、六番隊に所属している。今回招集された、数少ない王国騎士の1人。


「守りの技術は王国騎士の中でも屈指の実力者。今回のマルタ砦防衛は、あなたの指揮が適しているかと」


 シレーナは淡々と理由を説明する。まるで、もう指揮は委ねたと言わんばかりに。


「だ、だが騎士団内での立場と総合的な実力は、君の方が数段上だ!! だからローダン殿も君に指揮をーーー」


「あーうるさいですね。思考まで守り重視ですか?」


 シレーナは眉を顰めて一蹴する。クーガーの提言が自分には合っていない事を態度で示していた。ちなみに、シレーナの方が遥かに歳下である。


(やっぱりシレーナさんって凄い人なんだな‥‥‥)


 セレノアは改めて、彼女の実力に敬意を称した。他者と接している姿を見る事で、新たに分かることもある。


「いいですか? 戦いを制するのは地位じゃなく、実力です。身体を肥やした貴族より、畑作業をしていた農民の方が生き残るのと同じ」


「お、おい。ちょっと言い過ぎではーーー」


 クーガーが困惑しながら口を挟もうとするが、シレーナは手で制する。邪魔をするなと言わんばかりに。


「防衛戦に於いては、この中だとあなたが最も適しています。それは能力的な話だけじゃない。上下関係に従順で、保守的な考えも考慮した結果です」


(それって褒めてないような‥‥‥)


「口の悪い奴だ」


 セレノアとカインが呆れながらも、彼女の話は続く。


「それでは、こうしましょう。指揮官として命じます。私、セレノアくん、カインくんを除いた全員は砦の防衛に尽力を。彼らをまとめるのは、クーガーさんに一任します」


「え? き、君たちはどうするつもりなんだ!?」


 クーガーの質問は至って当然だった。名を挙げられたセレノアとカインすら、ついていけずに硬直する。


「私たち3人はーーー」


 シレーナの発言に、周囲からは凄まじいどよめきが起こった。




 10分後。


「魔術を扱える者は後方から攻撃を!! 前衛は押し返すんだ!!」


 王国騎士クーガーの声が、マルタ砦付近に響き渡る。既に彼らは、魔王軍と激しい防衛戦を繰り広げていた。


「いったい何を考えてんだ!? あの自称天才騎士様はよぉ!?」


 B級冒険者、盾役タンクのバンギネスが縦で魔物を押し返しながら愚痴をこぼす。



『ーーー中で準備を進めます。皆さんは防衛をお願いします』


 開戦直前、シレーナは騎士の少年2人を連れてマルタ砦に入っていった。それ以降、今まで一度も姿を現していなかったのだ。


「王国騎士のエリートってのは大層良いご身分なんだろうなぁ!? 冒険者に命を張らせて立て籠もりとはなぁ!!」


「無駄口を叩く暇があるなら身体を動かせ!!」


 愚痴が止まらないバンギネスに対し、注意をしたのはA級冒険者のノールだった。後方のフィーアの無事を確認しながら、目の前のゴブリンを斬り伏せていく。


「どう見ても彼女は拘りが強いタイプだ。そういう人間は、絶対にこの状況で逃げたりしない」


「でもよぉ!? このままだとジリ貧もいいとこでーーー」


 バンギネスの声が、無意識に止まる。とてつもない魔力の気配を感じ取った。呆然と眺めると‥‥‥そこには魔王軍の精鋭らしきオーガたちがいた。特に、2本の角が生えた少年は別格の気配を醸し出す。


「おいマジかよっ‥‥‥!! 魔族じゃねえか!! それに奴を囲むオーガたちも只者じゃねえ!!」


 バンギネスの声を聞き、ノールは目を合わせて警戒を強める。昨晩は隙だらけだったため魔族の少女を倒せたが、今の状況では相当難しいと実感した。


「ーーーぁ?」


 すると突然、自分たちを覆うような()()()()()()。当然、何事かとバンギネスは上を向く。


「!? なんじゃありゃあ!?」


 バンギネスは大声を出した。マルタ砦の頂上から、まるで()()()のようなものが伸びていた。


「あれは明らかに誰かの魔術によるものだ」


「あんな魔術聞いた事ねえぞ!?」


 いや‥‥‥それは魔力で作られた立方体の集合体だった。


 ◆◇◆◇


「ーーー皆さんが防衛を頑張ってくれたお陰で、敵軍の中枢を担う者たちが出てきました。覚悟はいいですか、2人とも」


 砦の頂上に立っていたシレーナが、風で黒髪を靡かせながら淡々と呟く。


「はい!」


「無駄な事を聞くな」


 セレノアとカインは同時に言葉を返した。

 シレーナは不敵に微笑み、先導するように魔力で()()()の上を走り出す。


(これはシレーナさんの固有魔術オリジナル!)


 セレノアは内心で驚きながら後を追う。


「よく分からない魔術を」


 その後ろで、カインが声を漏らしながら足を動かし始めた。


「一気に指揮官らしき者に奇襲をかけます。最優先は魔族、全力で仕留めにかかります!」


 そして、前を走るシレーナの声は真剣そのものだった。

 普段の飄々とした姿はどこにもない。全力で任務を遂行する王国騎士の顔だった。


「行きますよ!」


 声を出した彼女を筆頭に、セレノアは勢いよく最後の立方体から跳躍した。魔族の少年が佇む地点へと、空から急降下していく。


「すぅ‥‥‥『虚構立方体キューブ』!!」


 シレーナは息を吸って、大声で詠唱した。

 右手から魔術式が展開され、直径数mの大きな立方体をーーー真下の魔王軍へ叩き付ける。

 その直後、凄まじい断末魔と黒い血の飛沫。かなりの数が押し潰され、絶命した。


「グァァァァァァァァっ!!!」


 彼女の固有魔術『虚構立方体キューブ』は魔王軍の精鋭らしきオーガたちすら、一網打尽にした。


「やっぱり凄いっ‥‥‥!」


「奇妙な魔術だな」


 シレーナを筆頭に、セレノアとカインも後に続いて立方体の上へ着地する。


「‥‥‥っ」


 立方体と地面から滲み出す黒い血と、込み上げる魔物の死臭。セレノアは思わず息を呑む。

 今まで魔物の討伐は経験しているが、数えられないほどの死骸を見るのは初めてだった。


「これは‥‥‥堪らない臭いだな」


 隣のカインが眉を顰めて呟く。


「素直にキツいって言えばいいのに。私でも未だに慣れませんからね〜」


 その反応にシレーナが目を細めてニヤリと笑った後、1人の少年を見つめる。


「部下らしきオーガたちを見殺し、自分は生き残る。それって恥ずかしくないんですかー?」


 迫り来る『虚構立方体』を躱した、魔族の少年へと。魔力が滲み出している。


「‥‥‥人間如きが。ここまで同胞を皆殺しにするとは」


 彼は外見に似合わない口ぶりで怒りを吐く。その態度と表情から、明らかに想定外であることが丸分かりである。


「ここからが本番ですよ、2人とも?」


 シレーナは煽るように口角を上げて微笑んでいた。魔王軍への完璧な奇襲に、もはや彼女に異議を唱える者はいなかった。


「ーーーはい」


 セレノアはしっかりと返事する。自分の先輩で、教育係である彼女の存在が心強かった。


「他の魔物の群れは私1人で難なく処理しますので、あなたたちは魔族の首を落としてください。おそらくあの魔族、私から距離を取ろうとするでしょうから」


 シレーナの読みは正しかった。


「くそがっ」


 魔族の少年は明らかに彼女への警戒心が強くなっている。精鋭のオーガたちをまとめて倒された事が響いている。


「正直、さっきのオーガたちと一緒に始末したかったですが。やっぱり魔族はめんどくさいですね」


 彼に攻撃を躱されたのは、シレーナにとって唯一の誤算だった。


「さあ2人とも、手柄が目の前にありますよ? 失敗したらどうなるか分かってますよねぇ〜」


 すると彼女はあえて誤算を利用し、2人を煽るような言葉を投げかける。


「シレーナさん‥‥‥」


「言われるまでもない」


 セレノアは名前を呼んで、剣を鞘から取り出して構える。

 カインは意外にも、それ以上の言葉は口に出さない。魔力が全身から満ち溢れていて、強い意志が感じられる。


「手柄の取り合い合戦ですよ? セレノアくん、がんばりましょー」


「はい!」


「俺が全部いただく」


 こうしてセレノアたちは、魔王軍の勢いを挫くべく一斉に動き出した。

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