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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
3章 運命の分かれ道

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第59話 分かれ道

「‥‥‥‥‥‥」


 セレノアは緊張しながら、相手の顔を見ずに空を見続ける。雲一つない夜空は、無数の星が輝いていた。


「ふぅ‥‥‥綺麗だね」


 隣のノールが突然、そう呟いた。

 セレノアは「そ、そうですね」と小声で反応する。


「セレノアくん、さっきはすまなかった。フィーアに悪気は無いんだ。どうか許してほしい」


 するとノールが正面を向き、礼儀正しく頭を下げた。セシルは慌てながら「だ、大丈夫ですから」と返事をする。


「‥‥‥フィーアが君に興味を示してるのは、理由があるんだ」


 顔を上げたノールの言葉に、セレノアは固唾を飲む。彼女の言動から、なんとなく察してしまう。


「今から2年前に死んだ少年の面影が、君と少し重なるからだ」


「ーーーっ」


 セレノアは文字通り、息を呑んだ。核心を突いてくる彼の発言に、自然と身体が硬直する。


「とはいっても、髪色は全然違うから他人の空似なんだけどね。ただ顔付きと雰囲気が似てるから、フィーアも君を知りたくて仕方がないんだ」


「‥‥‥」


 セレノアは何も言えなかった。ノールの目を見つめ、黙り込んでしまう。


「真面目で優しく、心の強い少年だったんだ。特に気にかけてたのがフィーアでね。弟のように可愛がっていたんだ」


 彼の言葉は、セレノアの心を大きく揺さぶる。果てしない嬉しさと、息苦しさが交わる。


「‥‥‥だから言わせてもらう。今なら君の教育係というシレーナという女騎士もいないし、誤魔化さなくていい」


 ノールがはっきりと見据えて、一呼吸置いてから呟いた。



        「君は、アベルなのか」



 それは‥‥‥人生における、3度目の大きな岐路。

 セレノア‥‥‥いや、アベルは俯いた。

 また数年で、自分の運命を決めかねない選択を強いられている。今、自分の進む道に分かれ道が出現する。


(今、本当のことを言えば‥‥‥僕は)


 突如現れた、透き通った道。

 ここを辿れば‥‥‥ノールたちの元へ戻り、冒険者としての日々を過ごす事ができるかもしれない。少なくとも、幸せだと感じていた時間を。

 そんな考えが、頭をよぎる。


(‥‥‥でも)


 だが、アストリア王国騎士団には居られなくなる。

 当然、シレーナやハーティアとは敵対を余儀なくされる。しかも相手は、王国内でも相当の実力者たち。


(違う。そんなのは言い訳だ)


 いや、アベルにはそれすらも選択の()()()()()()()

 平穏だった過去か、過酷な今か。


(僕が望むのはーーー)


 アベルは、やがて顔を上げて口を開いていた。



      「‥‥‥アベルって、誰ですか」



 自分の道を、逸らさない。本当の事を話さない。

 それがアベル‥‥‥いやセレノアの選択だった。

 セレノア自身が、もう迂闊に過去アベルへ引き返さないことを意味していた。


「‥‥‥そうか」


 ノールが苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうに前を向く。


「僕に似てる人がいるんですね」


 セレノアは淡々と呟くが、胸中はぐらぐらと揺れ動いていた。何かを話すたびに、心臓を鷲掴みされているような感覚に陥り、息が乱れそうになる。


「‥‥‥そっか。意味分からない事を聞いて、悪かった」


 ノールの顔が、一瞬だけ悲しく見えた。

 そう見えたのは罪悪感によるものか、それともーーー。


「じゃあ、今回の任務は共に頑張ろう。今は互いに休んで、戦いの準備をしておこうか」


 ノールが穏やかに微笑みながら立ち上がると、踵を返して歩いていく。


「‥‥‥ただ。何かあったら、いつでも頼ってくれ」


 そして、最後にそう言い残して。

 そんな彼の背中を、セレノアは直視できない。無意識に俯き、唇を噛む。


(‥‥‥ごめん、ノールさん。今の日々を過ごす方が、セリカと会う近道だって思ったんだ)


 セレノアは満点の夜空から目を背け、地面を見つめていた。


(結局、僕は自分本位な人間なんだ‥‥‥こんな僕に、ノールさんたちと一緒にいる資格は無いんだ)


 湧き上がる罪悪感と、底のない自己嫌悪。

 だが‥‥‥自分の中で最も大切なものが何か、再認識する事となる。


(セリカに会うために‥‥‥僕は前に進むしかないんだ)


 そして‥‥‥このまま茨の道を突き進む覚悟も。



「‥‥‥12歳の少年には、あまりに辛い選択ですよね。でも、今を選んでくれて良かった‥‥‥」


 遠くで眺めていたシレーナが、僅かに目を細めて独り言を呟いた。




 翌朝、マルタ砦。


「ほら、セレノアくん。今回の任務はこれからです。食べないと身体に毒ですよー」


 即席で用意された長机と椅子。

 そこに腰を下ろしたシレーナが、嗜めるように隣を見つめる。


「‥‥‥」


 セレノアは食欲が湧かなかった。

 昨晩の出来事が、完全に尾を引いている。覚悟した事でも、簡単に割り切る事など出来なかった。


「体調が悪いなら、任務を降りたらどうだ」


 偶然にも隣で手を動かしていたカインは、反比例するように食べまくる。その姿は、育ち盛りの男子そのもの。


「いちいち突っかからないでくださいねー。嫌いなら話しかけないでくださいます??」


 シレーナが笑顔で呟く。僅かに眉を顰め、普段よりも低い声で。


「過保護だな。それに最年少の座を奪った奴と仲良くできるなんてな」


「‥‥‥どの口が言ってるんですかね? あなたも同じ最年少なのに、ずいぶん他人事ですねぇ??」


 だが、カインの口は止まらない。シレーナの笑顔が崩れていく。


「何年も先輩である私にその言葉遣い、いったいどんな教育受けてきたんでしょうねぇ??」


「敬語って言うのは相手を敬う時に使うものだ」


 2人の応戦は次第に激しさを増し始める。

 天才と呼ばれる騎士シレーナと、最年少の騎士カイン。


「ーーーはいはい落ち着きましょうか、2人とも」


 そんな2人を制したのは、今回の指揮を務める王国騎士‥‥‥名前はローダン。

 柔らかそうな黒髪と糸目が特徴的。そんな彼が笑顔で近づきながら、座る2人を見つめる。


「カイン、無駄口叩かない。余計な騒ぎを作り出すのは王国騎士失格ですよ?」


「‥‥‥ちっ」


 彼に注意されたカインが舌打ちすると、顔を背けて黙々と食べ始める。


「申し訳ありませんね、シレーナさん。どうか、私の顔を立てていただけると助かります」


「三番隊の隊長にそう言われたら、ここは引くしかありませんねー」


 シレーナは小さく息を吐いて両目を閉じた。


「まあ、そこの生意気少年はしっかりと教育してほしいですけどね。本当に名門の貴族なんでしょうかー?」


 そしてカインを一瞥し、躊躇せずに言い切る。

 カインが歯を噛み締めながら立ちあがろうとするが、ローダンに制された。


「報告によると、魔王軍がこの砦に近づくのは昼ごろ。そして、昨晩とは比べ物にならない物量らしいです」


 ローダンの言葉に、周囲に沈黙が訪れる。

 気づけば作戦会議が始まったかのように、ローダンの言動に全員が耳を傾けていた。


「そこで、今回は3人1組で行動してもらいます。互いに知っている者同士で組み、少しでも連携を駆使して戦場で孤立しないように心がけてください」


「ーーー」


 彼の言葉を聞き、セレノアは僅かに身体を上下させた。冷静さを欠き、孤立した昨日を思い出す。


「今から1時間は、戦闘準備と組決めに当ててください。全員で120人ですので、漏れることは無いはずです」


 ローダンがそう言って砦を出ていくと、張り詰めた緊張が一気に解けた。


「‥‥‥ちっ。3人1組だと」


 カインが恨めしそうに独り言を呟く。近くに座っていたシレーナは、目を細めてニヤリと笑う。


「三番隊所属の王国騎士が、組決めで余ったら恥ずかしいですよねぇ〜」


「‥‥‥」


「セレノアくん、あと1人どうしましょうかー?」


 彼女はそんな言葉を言いながら、隣のセレノアに微笑みかける。その間で、カインが息を漏らす。


「ーーーカイン。もしよかったら一緒に組もう」


 するとセレノアは直球で、カインに話しかけた。

 シレーナが笑顔をやめて2人を見つめる。

 だが、セレノアは止まらない。


「カインの剣筋は昨晩見たし、上手く合わせられると思う。だから、一緒に戦わないか?」


 そう、何の躊躇も無く彼を誘ったのだ。カインが目を見開き、両手を握り締める。


「‥‥‥あと、これは僕個人の話なんだけど。カインが近くにいたら、張り合いがでると言うか‥‥‥やっぱり同い年の騎士がいると、心持ちが違うんだ」


 そしてセレノアは、少し照れ笑いを浮かべて呟く。


「まったく、敵いませんね」


 隣のシレーナが微笑みながら呟いていた。


「‥‥‥よくそんな事が言えるな。そういう所が気に食わないんだよ」


 するとカインが少し身じろぎしながら、セレノアに指を差す。

 やがて自身の短い茶髪をガシガシと掻きながら、両腕を組んで口を開いた。


「‥‥‥お前の目の前で俺が活躍して、大手柄を挙げてやる」


 そして彼は、セレノアの誘いを引き受けた。


「それじゃあ、よろしく」


 セレノアは笑顔で右手を差し出す。だが、カインは視線を逸らして腕を組んだまま。


「そもそも断る選択肢は与えませんけどねぇ〜?」


「こいつ‥‥‥」


 そして、シレーナとカインが睨み合った。

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