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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
3章 運命の分かれ道

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第57話 魔族という生物

 マルタ砦近くの平原。


「‥‥‥来るんじゃなかった」


「さっきは助かった。ありがとう」


「助けた覚えは無い」


 少年2人の声は、互いの剣の音で掻き消される。

 周囲の魔物を切りながら、世間話のように会話しているのだ。


「そうだったとしても、ありがとう」


「お前に感謝される筋合いは無い」


 セレノアとカイン・フェリクス。

 現在、最年少のアストリア王国騎士。

 一方は平民で、もう一方は名家の三男。境遇がまるで異なる。

 そして2人の仲は‥‥‥語るまでもない。


(いつも突っかかってくるな‥‥‥嫌われるほど、話した事ないんだけどな)


 セレノアは正直、頭を悩ませるほどカインが苦手だった。


「ぁーーー後ろ!!」


 するとセレノアは大声を出し、カインへと飛び込む。カインが「は?」と声を漏らす。


「しッ!!」


 セレノアは彼の隣を通り過ぎると、大きく一歩を踏み出して剣を振った。


「ガ‥‥‥」


 その直後‥‥‥オークの胸に穴が空き、黒い血を噴き出して仰向けに倒れる。

 セレノアは「ふう」と息を吐き、剣に付いた血を振って落とし始めた。


「お前‥‥‥」


 カインが訝しげに目を細める。少なくとも、感謝の気持ちは見えてこない。


「大丈夫だった?」


 セレノアは淡々と呟く。カインの視線を受け流すように、背中を向けて剣を握る。


「‥‥‥余計なお世話だ」


「そっか。でも間に合ってよかった」


「っ、お前のそういう所がーーー」


 目を見開くカインだったが、不意に口が止まり一点を見つめる。

 その先には‥‥‥小柄な少女がいた。


「‥‥‥♪」


 赤い髪が目を惹く、可愛らしい少女。

 だが、彼女の頭には‥‥‥禍々しい2本の黒い角が生えている。


「話に聞いてた魔族か‥‥‥」


 カインが目を見開いて声を漏らした。

 セレノアは咄嗟に振り返り、彼の隣に立って様子を伺う。


「あれが魔族‥‥‥初めて見た」



 魔族。

 魔物の生態系の中で、上位に君臨する上級生物。

 類稀なる生命力と修復能力を持ち、1匹だけで大きな街を滅亡させると言われている危険生物。

 そして強靭な身体と長寿を併せ持つ彼らの戦闘力は、語るまでもない。


(シレーナさんの言ってた通り‥‥‥本当に人間みたいだ)


 また厄介なのが彼らの外見で、人間と殆ど区別が付かない。魔族特有の身体的特徴である、2本の角で見分けるしかない。

 魔力が滲み出す禍々しい角は、人外である事を充分に示している。


「今回の魔王軍の中でも選りすぐりだ‥‥‥まさかこんな手柄が俺の前に現れるとは」


 カインが不敵な笑みを浮かべると、剣を強く握って歩き出す。


「カイン!」


 セレノアは名前を呼んで声を掛ける。


「魔族は生きるためなら手段を問わない、狡猾な種族だと聞いた! 迂闊に突っ込むのは危険すぎる!」


 そして早口で危険を知らせて説得を試みる。

 だが、カインは話を聞かずに駆け出していた。


「すぐに首を落としてやる」


 彼は声を弾ませ、魔族との距離を縮めていく。

 魔族を倒す方法は2つ。

 1つは、首を切り落とすこと。

 もう1つは、修復不可能な損傷を与えること。

 剣を使うカインが選ぶのはーーー。


「‥‥‥♪」


 すると魔族の少女は、口を開いて嘲笑を浮かべた。


「上等だ。俺は女だからって手加減はしない」


 カインの意欲がますます加熱され、躊躇う事なく一歩を踏み出し、剣を振りかぶる。


「!?」


 すると突然、カインの右足が地面に埋まる。

 彼は目を見開いて足元を見つめる。

 突拍子も無く、右足首が地面にのめり込んでいた。

 そして、後に続くように左足首も地面に埋まる。

 その光景を見て、セレノアは驚きを隠せない。


(魔術‥‥‥!? でもあんな魔術、見た事も聞いた事も無い!!)


 分からない事象を前に、セレノアの中に不安と恐怖が滲み出ていく。


「小癪なマネをっ」


 するとカインは剣を地面に叩き付けて粉砕し、強引に右足を引き抜いた。

 そして跳躍し、両手に握った剣を勢いよく振り下ろす。


「驚きが隠せてないね〜。ほんと人間って馬鹿ばっかだね〜♪」


 魔族が口に手を当てて笑った瞬間ーーーカインの身体が急激に落下する。


「!? ちッ!!」


 カインは舌打ちしながら両手を突き出し、地面に激突する。その間に駆け出していたセレノアは、目を見開いて困惑する。


(カインの身体が勢いよく落下した!? あの魔族の意識が僕に向く前にーーー)


 セレノアは状況把握と分析を脳内で処理しながら、起き上がれないカインの横を通り過ぎる。

 そして、彼に嘲笑を浮かべる魔族へ近づく。


(最短距離を詰めて、首を刎ねる!!)


 セレノアは距離を詰め、臨戦体勢へ入る。

 不安と緊張のせいか、少し身体が怠く感じるが構わず突っ込む。

 自身の魔力を全身に流して強化し、右手の剣を強く握る。


「‥‥‥あはっ♪」


 だが魔族が目を合わせて笑った事で、セレノアの身体に悪寒が走る。


「ーーーっ」


 ()()()()、魔力を離散させようとした。


「ぐッ!!?」


 だが、遅かった。

 セレノアの身体が鉛のように重くなり、その場で両膝を突いて倒れ込む。辛うじて両手を前に出して地面に触れる事で、寝転がる事にはならなかった。


「きゃははっ♪」


 だが、魔族から見れば爆笑必至の四つん這い状態になっていた。セレノアは必死に両手足を動かすが、殆ど動かない。


「あたしの魔術はどう? あたしの視界に入って近付けば近付くほど、魔力が重くなる魔術は」


 セレノアは歯を食いしばりながら絶句した。

 戦いに於いて、魔力を扱う事は基本中の基本。その価値観すら覆す、魔族の異端さ。


(どんな魔術だよっ‥‥‥そんなの初見で分かるわけないっ!!)


 セレノアは四つん這いの姿勢で歯を食いしばり、必死に両手足に力を込める。だが、まるで鉛のように重い。

 魔族の足音が、耳元にまで近付いてくる。


「さあ、どうしよっかな〜?」


 そして、悪意に満ちた言葉が聞こえる。


「く、そっ‥‥‥!!」


「ふざけ、やがって‥‥‥!!」


 セレノアとカイン。

 最年少の王国騎士で2人は、嘲笑を浮かべる1匹の魔族に制圧された。どう足掻いても、目の前の魔族に敵わない。


(考えろっ‥‥‥この状況を破る事だけを考えろ!!)


 だが、セレノアは諦めていなかった。歯を食いしばりながら魔族を見上げて、迷いなく睨み付ける。


「調子に、乗るなっ‥‥‥」


 それは少し離れた場所で蹲る、カインも同じだった。振り絞るように声を漏らす。


「あは、置かれている状況が分かってないの? こんなお馬鹿さんが戦場に来て、自殺志願者のようだね♪」


 魔族が嘲笑を浮かべ、尖った八重歯を露出させる。振り上げた彼女の右手の爪が、急激に伸びる。


「幼い人間にくは甘くて美味しいんだよね。まずはあなたから味見させてもらうね〜♪」


 その狩人の手は、足元の獲物セレノアに向けられていた。


「いただきま〜す!!!」


 無慈悲に振り下ろされる右爪。

 セレノアは睨み付けたまま、見届ける事になる。


「ーーーぁ?」


 魔族の首が、宙を舞う光景を。素っ頓狂な声を漏らし、目を見開く彼女の声。

 首無しとなった魔族の身体は、不気味にガタガタと蠢きながら仰向けに倒れ込んだ。


「ぇ‥‥‥」


 セレノアは目を見開き、呆然としている。

 それは魔族の首が刎ねられたからでも、魔族の身体が不気味だったからでも無い。


「‥‥‥ふう、間に合って良かった」


 黒く澄んだ長剣‥‥‥黒鋼くろはがねの剣。

 セレノアがその剣を見たのは数年ぶりだった。だが、他の剣と見間違えようが無かった。

 そして、その剣を握るのは‥‥‥ただ1人。


「2人とも、怪我は無いか」


 冒険者時代の恩師‥‥‥A級冒険者ノールだった。

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