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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
3章 運命の分かれ道

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第56話 再会

「A級冒険者のノールです」


 大きなマルタ砦に、1人の声が響き渡る。

 声の主は、背の高い茶髪の好青年。


「ッ‥‥‥!!」


 セレノアは頭で殴られたような衝撃を覚え、目を見開いて絶句した。青年の後ろから、別の2人が姿を現す。


「B級冒険者のフィーアです。ノールとは同じパーティー仲間で、魔術師です」


「‥‥‥B級冒険者のバンギネス。こいつらのパーティーで、盾役タンクをやってる」


 それはセレノアにとって、見間違えるはずが無い2人の冒険者。

 セレノアは砦の入り口から、足が動かない。まるで石化してしまったかのように、両足が固まっていた。


(ノールさん、フィーアさん、バンギネスさん‥‥‥なんで、こんな所にっ‥‥‥)


 セレノア、いや()()()にとって‥‥‥彼らは冒険者時代の仲間で、かけがえのない恩人。3年前までは、彼らと幾つもの依頼をこなしてきた。


『やったなアベル!』


『偉いわアベル!!』


『ま、いいんじゃねえか?』


 3人との思い出が、走馬灯のように頭を駆け巡る。


 ーーージク、ジク、ジクっ!!


「づッ‥‥‥!」


 そして、なぜか左肩が猛烈に痛み出した。針を刺されたような痛みがじんわりと広がる。



「ーーーあ! もしかしてあなたたち、アストリア王国騎士団の年少組?」


 突然、とんがり帽子を付けた女性フィーアが声を弾ませて歩み寄ってくる。


「! ぁ、ぁっ‥‥‥」


 セレノアは左肩の痛みに意識が散漫となっていて、迫ってくるフィーアに気付くのが遅れた。


(フィーアさんっ‥‥‥)


 息をする事を忘れ、焦りが生まれていく。左肩の痛みも合わさって、考えがまとまらない。

 そしてフィーアが自分の顔を把握するのに、もう一刻の猶予も無い。


「ーーーはい、天才騎士シレーナちゃんです」


 すると、シレーナが咄嗟に引っ張ってきた。

 セレノアを咄嗟に背中へ隠し、彼女は自然な笑顔で自己紹介した。

 その一連の動作は、非常に滑らかなものだった。


「‥‥‥確か、あなたって」


「3年前の事件で顔を合わせましたよね。お久しぶりですー」


 そして言葉をすらすらと並べ、フィーアとの会話を繋ぐ。


「‥‥‥あの時の騎士さんね。大きくなったわね」


「ぴちぴちの16歳ですからー。あ、もう少しで17歳になりますけどー」


 少し眉を顰めるフィーアに対し、シレーナは顔色を変えずに相槌を打つ。フィーアが息を吐き、彼女の胸あたりを見つめた。


「それで、あなたの後ろに隠れてる子の名前は? あなたと一緒に来たなら、王国騎士ってことでしょ?」


 フィーアの視線は、後ろにいる黒髪少年へと注がれている。


「っ‥‥‥」


 セレノアは心臓が張り裂けそうなほど緊張し、シレーナの背中を強く掴んでいた。左肩は今も痛むが、それよりも緊張の方が勝っていた。


「申し訳ありませんが、この子はとっても人見知りで〜。名前はセレノアと言います。ぜひお見知りおきを」


 すると、シレーナが簡潔に紹介する。代わりに話してくれた事で、セレノアは少しだけ安堵する。


「ーーーその黒髪の子、何歳くらいかしら? もっと詳しく教えてくれない?」


 だが、フィーアは引かなかった。

 その場で両手を膝に付いて中腰になり、セレノアと目線を合わせようとする。


「あれぇ、もしかして年下が好きなんですか〜? さすがにフィーアさんは、歳が離れすぎてて色々危ないかと」


 シレーナが咄嗟に後ろ手で肩を触りながら、セレノアを半歩下がらせる。彼女の顔は笑っているが、後ろで聞いていたセレノアは少し怯えていた。


「茶化さないで。この子を紹介してって言ってるの。人見知りでも、せめて顔くらいは見ておかないと」


 フィーアが負けじと近寄ろうとする。

 下がろうとするシレーナ、詰めようとするフィーア。もはや自己紹介の空気ではない。


「おい、どうしたんだよ」


 その雰囲気を察したのか、坊主頭の大男バンギネスが歩いて近づく。


「まだ召集された人が全員集まってないし、時間はある。俺も君たちの事を知っておきたいな」


 そして、ノールも駆け寄っていた。フィーアの意見に賛同する。


「ーーー魔王軍襲来です!!! ゴブリンやオークが多数!! 大群の魔物が接近中!!」


 すると突然、事態の一変を知らせる急報が届く。砦内にいた者たちは、出撃を余儀なくされた。


「‥‥‥話は後にするわ。どうやら指揮官はまだ来てないようだし、がんばらないとね」


 そう言ったフィーアが眉を顰めながら、シレーナの横を通り過ぎる。


「‥‥‥」


 彼女の背中に隠れていた、黒髪少年を一瞥しながら。


「行くぞ!!」


 その後、ノールたちは踵を返して砦を出ていく。

 残ったのはシレーナと、彼女の背中から離れたセレノアのみ。


「‥‥‥狼狽えてしまって、ごめんなさい」


 セレノアは頭を下げて謝った。彼らに気付かれずに安堵したが、どこかで寂しさも感じていた。


(もう、2年も経ってるし‥‥‥)


 以前のように、冒険者の彼らと接する事ができないことに‥‥‥虚しさまで覚える。


「気持ちは分かりますが、ダメです。これからも生きていくためには、耐えてください」


 そう嗜めたシレーナが、優しく頭を撫で始める。


「‥‥‥大丈夫です。僕たちも早く行きましょう」


 そしてセレノアは、彼女の腕から逃れるように一歩下がり、踵を返して走り出した。


「この私の包容力を拒否するとは、後でお仕置きですね」


 唇を尖らせたシレーナも、すぐに後を追った。




「セレノアくん、あれを」


 数分後、マルタ砦近くの平原。

 シレーナの指先は、前方に向いている‥‥‥目では数えられないほどの、大量の魔物たちへ。


「! なんて数っ‥‥‥!!」


 セレノアは僅かに眉を顰めながらも、足を止めずに魔物の集団へと突っ込んでいく。衝突する直前、左腰の剣の柄を握る。


「はぁッ!!」


 そして勢いよく鞘から抜き取り、剣を横一文字に振り抜いた。セレノアの剣に、黒い血が付着する。

 王国騎士に支給される鉄製の剣を、ゴブリンたちにぶつけていく。


「もう、張り切りすぎですよー」


 背後で淡々と呟いたシレーナが、流れるようにオークたちを討伐していく。綺麗な結晶が装飾された彼女の短剣は、魔物の肌を紙のように切り裂く。


(僕は絶対、ここで活躍して王立学院に‥‥‥!!)


 セレノアは鬼気迫る表情で剣を振るい、近くの魔物を手当たり次第に切り刻んでいく。今までの任務の中でも、稀に見る魔物の多さだった。

 つまり、大きな手柄を立てられる。セレノアは意気込んでいた。


「ちょっと、単独で突っ込まない!! 周りをよく見て冷静に立ち回れって教えましたよね〜!?」


 それは、先輩であるシレーナの注意すら全く届かないほどに。彼女も大量の魔物に囲まれれば、自由に行動できるわけではない。

 徐々に、2人の間に距離が生まれていく。


「っ!?」


 背後から振り下ろされた棍棒。セレノアは咄嗟に転がるようにして躱す。

 当然、剣を振るっていれば自分の背後は隙だらけ。全方位を囲まれた状態では、いくら低級の魔物でも脅威になりうる。

 そして魔王軍として編成された魔物たちは、そのような戦闘知識を叩き込まれた精鋭集団。矜持など存在せず、数の利を容赦なく利用してくる。


「くっ」


 セレノアは次第に、攻撃の手数が減っていく。

 やがて防戦一方となり、ゴブリンたちの棍棒を剣で受け止め、硬直状態に陥る。


「くそッ」


 声を荒げたセレノアは、両手に魔力を集中させ、力強く棍棒を押し返した。無属性魔術に分類される、魔力による身体強化である。


(ここで魔力を消費すると後に響くかもしれない‥‥‥でも贅沢は言ってられない。こうなったら無属性魔術をーーー)


 セレノアが覚悟した瞬間。

 背後を囲んでいた魔物たちが、勢いよく吹き飛んでいく。


「ーーー誰だ!?」


 セレノアは声を張りながら振り向く。


「ちっ‥‥‥お前か」


 視界に映ったのは‥‥‥小言を漏らす少年。茶髪と切れ長の目が特徴的で、セレノアと背は殆ど変わらない。

 隊服の右肩には、セレノアと同じ王国騎士の紋章が刻まれている。だが左肩には、セレノアとは違う色の剣の紋章。


「ーーーカイン・フェリクス!」


 セレノアは思わず叫んでいた。

 自分と同じ、最年少の王国騎士を見つめて。

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