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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
3章 運命の分かれ道

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第54話 本当の理由

 アストリア王国領内、中央南。

 アストリア王国軍駐屯基地。


「おかえりなさい‥‥‥お父さん♪」


「誰がお父さんだ!!」


 アストリア王国騎士団、第五番隊隊長ハーティア。

 彼はいきなり声を荒げることになる。


「ぶー」


 部下、シレーナの一言によって。


「私からすれば父親同然ですよー? 今の私があるのもお父さんのおかげでーーー」


「だからしれっと呼ぶな!!」


 2人にとっては、これが普段通りの会話だった。彼女が間借りしている個室で行われている。


「‥‥‥セレノアはどうだ。ちゃんとやってるか?」


 するとハーティアが唐突に話題を振る。

 シレーナは少し拗ねた様子で口を曲げ、目を合わせずに言葉を返した。


「誰が教育してると思ってるんですかー? この天才騎士シレーナちゃんが、手塩を掛けて育ててるんですよ?」


「いや、ある意味不安なんだが‥‥‥」


 ハーティアが小声で呟く。

 そんな言葉に、シレーナは口を尖らせて目を細める。

 だが、彼女はふと目を閉じる。


「‥‥‥2年ほど前の誕生日、セレノアくんは泣いてましたよ。嬉しそうに、どこか悲しそうに」


 そう言って、彼の横顔を見つめる。


「名前と髪色を変えさせた本当の理由。なんで、あの子に話さないんですか?」


「‥‥‥」


 ハーティアが両目を閉じるが、彼女の質問には応えない。シレーナは眉を顰めて話し出す。


「アベルという孤児院出身の少年は‥‥‥()()()()()にとって、最大の弱みとなる‥‥‥そうですよね?」


 シレーナは再度問いかけるが、ハーティアは口を閉じたままだった。


「王国騎士団の上層部は、勇者セリカを()()してるんでしょ?」


 シレーナの口は止まらない。まるで答え合わせをするかのように、話を続ける。


「突然現れた、強大な力を持つ少女。それをよく思ってない人は必ず存在します。もしかしたら、王族の中にすら」


「‥‥‥それで?」


 ハーティアが続きを促すように聞き返す。


「いずれ‥‥‥彼らは勇者セリカが育った孤児院、そして共に暮らしていた少年に目を付ける」


 その態度に、シレーナは眉を顰めて話す。そして間髪入れず距離を詰め、睨み付ける。


「ーーー彼は遠くない未来、王家の権力に握り潰されていたんでしょう!?」


 シレーナは両手を振り乱し、大声を出した。


「何の関係もないあの子が、勇者の人質として利用されるかもしれなかった。自分の力で懸命に生きようとしてるあの子が‥‥‥そうですよね!?」


「‥‥‥珍しく感情的だな。教育係は楽しいようだ」


 ハーティアが淡々と呟いた。

 シレーナはキッと睨みながら、彼の肩を掴む。


「だからあなたはっ‥‥‥あの子を死んだことにして、別人として生きる選択肢を与えた!! 違いますか!?」


 そして至近距離で問い詰めた。彼の態度に、冷静ではいられない。


「私の知ってるハーティア隊長は‥‥‥手段を選ばない人間です。でもっ‥‥‥不幸な未来を辿ると分かってる人を、放っておけない人間である事も知ってます!!」


 シレーナは彼の両肩を掴み、正面を向かせる。何も言わないハーティアを、睨み付ける。


「あの子のことを考えてるならっ‥‥‥せめて別人として生きなければならない理由を、ちゃんと本人に話してあげてください!!」


 普段は飄々としているシレーナが、感情的に言葉をぶつけている。上官に言い詰めるほどに。


「‥‥‥だからこそ、言えないんだよ」


 ハーティアが、ついに声を漏らす。


「何の後ろ盾もない、碌な環境で育ってなかった少年が‥‥‥どうしてあれほど力を付けたと思う?」


「っ‥‥‥まさか」


 シレーナは目を見開いて、動揺の声を漏らす。


「セリカ・アストリアに近づきたい‥‥‥その一心だろう。ただの子どもがあそこまで強さを求めるなんて、他に考えられない」


「た、たしかに‥‥‥あの子の魔力総量と強化術は、12歳の領域を遥かに超えています。でも、勇者に追いつこうなんて、あまりにも‥‥‥」


「無謀だな。現実が見えてない子どもの夢物語だ」


 ハーティアが躊躇せず一蹴した。シレーナが息を呑んで固まる。


「‥‥‥でも」


 ハーティアが言葉を付け足す。


「あいつは本気だ。少しも諦めずに積み重ねた結果、最年少で王国騎士にまで上り詰めた。同じ境遇で、あそこまで愚直に努力できる奴が‥‥‥国内で何人いるだろうな」


「‥‥‥何事も理由を付けて諦める方が、はるかに楽ですもんね」


 シレーナは少し寂しそうに顔を下げた。ハーティアが「ああ」と呟きながら、前を向く。


「今も諦めてないあいつに、『お前は勇者の弱みになり得るから死んだことにした』なんて言ったらどうなる?」


「ぁ‥‥‥」


 シレーナは目を見開き、声を漏らす。顔が青ざめていく。


「どう転んでも、大きな影響を与えることになる。最悪の場合、今の向上心は跡形も無く消え去るかもしれない。そして、生きる意味すらもな」


「っ‥‥‥!!」


 ハーティアが小さく息を吐き、目を逸らす。唇を噛み、両手に力を込める。


「あいつは年齢以上に強いと言っても、まだ12歳の子どもだ。わざわざ心に負荷を掛ける必要は無い」


 ハーティアの言葉は、どこか優しさを感じられた。


「隊長‥‥‥」


「まあ、お前があいつを気にかけてるのはよく伝わったよ」


 ハーティアが僅かに微笑む。まるで、子供の成長を喜ぶ保護者のように。


「申し訳、ありませんでしたっ‥‥‥」


 すると、シレーナは勢いよく頭を下げて全身を震わせる。唇を噛み、赤く濡らす。


「ハーティア隊長の意図を察する事ができず、感情的に問い詰めるなんてっ‥‥‥どんな処罰でも謹んでお受けいたしますッ!!」


「そんな気にするなって。どっちみち、お前には話すつもりだったから。まあ、お前から聞いてきたのは予想外で、嬉しい限りだ」


 ハーティアは穏やかに笑い、頭を下げているシレーナの肩を叩く。シレーナは頭を上げて目元を袖で拭い、凛とした態度で前を向く。


「天才騎士シレーナは、これからも新人騎士セレノアの教育係を所望します」


 そして、彼女は自分の思いを口にした。


「だから、そんな畏まるなって。これからもよろしくな。頼りにしてるよ‥‥‥天才騎士シレーナ」


「ーーーはい!」


 こうして、シレーナとハーティアの間にあったわだかまりは‥‥‥暖かく溶けた。


「それで早速だが、本題に入るぞ」


 だが突然、ハーティアから笑顔が消えた。シレーナも身構え、礼儀よく立ち尽くす。


「ーーー緊急招集が掛かった。うちの隊は、お前とセレノアに」


 ハーティアが真顔で話す。シレーナもその空気を感じ、僅かに息を呑んだ。


「緊急招集‥‥‥ですか」


「ああ。今から3日後‥‥‥最南西の国境沿い。この駐屯基地から馬で約半日。セレノアが、今の任務からこの基地へ戻ってくるのは2日後‥‥‥絶対に何かある」


「まるで、セレノアくんを誘い出しているようですね」


 シレーナは素直な感想を口にした。不満そうに眉を顰めている。


「だが俺は王都からの招集が掛かってる。何か重大な話があるらしい。一緒に行ってやれない」


 ハーティアは真剣な目で見つめ、彼女の肩に手を置いた。


「だからシレーナ‥‥‥ セレノアを頼む」


「言われるまでもありません。私はあの子の教育係です」


 シレーナは、穏やかに微笑んで頭を下げた。

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― 新着の感想 ―
ハーティア隊長がセレノアの正体を隠した理由が明かされ、とても納得できる内容でした。ただ秘密を抱えているのではなく、勇者の弱みとして利用されないよう守るためだったという事実に胸を打たれました。シレーナが…
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