第53話 第二王子
リースランド王国の第二王子、ユーリス。
「王子と言っても、継承権は兄にある。そんなに気にしなくていい」
ユーリスは飄々と手を振りながら、大した事ないと誇張する。
「一応、これが証拠。お前に嘘は付いてない」
彼の手のひらには、懐から取り出した小さな紋章が握られていた。それは間違いなく、リースランド王家のもの。
「こ、これは失礼をーーー」
手合わせした青年は、隣国の王子。
セレノアは不自然に身構え、膝を着こうとする。
だがユーリスに肩を掴まれて阻止される。
「頼む、さっきのように接してくれないか? 俺の周りには堅苦しい奴しかいなくて、気疲れするんだ」
セレノアは困惑する。他の王族は見た事無いが、彼のような王子は珍しいと感じていた。
「ちなみにお前の足元に投げたのは、音が周囲に聞こえなくなる魔導具な。その空間をわざわざ作ったことから、色々察してくれ」
気付けば肩を組んできて、ニカッと笑いながら話しかけてくる。まるで気兼ねない友人のような態度。
「生まれなんて関係ない、結局は本人次第だろ?」
そして彼のさっぱりとした性格は、セレノアは嫌いじゃなかった。
「‥‥‥分かった」
とりあえず了承し、自己紹介を始める。
「僕はセレノア。アストリア王国騎士団のーーー」
「『不可思議』の五番隊所属。2人の最年少の内の1人だろ?」
だが先を言われた事で、セレノアの口は止まった。彼の口振りは、明らかに自分の詳細を知っている。
「しかも平民出身なんだって? マジで凄いよな、周囲の特別な手助けも無く強くなったわけだろ?」
その間も、ユーリスが一方的に話して肩をバシバシ叩いてくる。
「最年少の王国騎士を見てみたくてな。まず、どんな奴か‥‥‥そして、どれだけ強いのか」
「‥‥‥変わってるな」
セレノアは思わず、素直な感想が口から漏れてしまった。目を見開いて失言を反省していると、隣のユーリスが勢いよく吹き出す。
「ぷっ、ははっ! いいねセレノア! お前みたいな奴を、俺は待ってたんだ」
だがユーリスは嬉しそうに笑い、肩をバシバシ叩いてくるのみ。
とりあえずセレノアは、彼に害意が無いことに安堵する。
「ーーーここにいたんですか!!! 探しましたぞユーリス様ッ!!」
すると、背後から別の声が響き渡る。
声の主は魔導具が生成した空間の中に入り込んできている。だから声が聞こえる。
セレノアは振り向きつつ確認していると、肩を組むのをやめたユーリスが、苦虫を噛んだような顔を見せる。
「げっ、見つかった」
「何が見つかった、でございますか!? また勝手に1人で行動してっ、王子に何かあったら王国の危機なんですぞ!?」
大声を出して駆け寄ってきたのは、壮年の男性。
髪をオールバックに纏めていて、黒の燕尾服を着ている。背は高いが身体の線は細く、燕尾服がよく似合っている。
「わかってるって。そんな大声出すなよ」
「いつも使用している魔導具の中でございましょう!!? それに今回も1人で先に行ってしまうし、少しは御身を大切になさってくだされ!!」
「あーあーわかった。セレノアが見てるのに説教はやめてくれ」
ユーリスが両手で耳を塞いで駄々を捏ねる。
すると燕尾服の男が、セレノアの方を一瞥した。
「これは失礼を‥‥‥私はリースランド王国の執事長、ハーゼンでございます。以後、お見知り置きを」
その男の名は、ハーゼン。
流暢な所作で右手を曲げて前に出し、少し腰を曲げて頭を下げる。まさに執事の中の執事だった。
「あなたが、ユーリス様が言っていたアストリア王国の‥‥‥」
「セレノアです。どうか僕の事は気になさらず、話があるなら外してますので」
セレノアは軽く自己紹介し、会釈する。
独特な雰囲気を持つハーゼンを前に、少し緊張しながら2人を見つめる。
「ユーリス様が勝手な理由で呼び出しておいて、邪険になど出来るはずがありません」
するとハーゼンが深々と頭を下げた。
ユーリスが目を逸らして口笛を吹く間も、話は続く。
「どうやら私がお邪魔のようですので、後ろに控えております。ユーリス様、くれぐれも単独行動は控えてくだされ」
そして淡々と呟いた後、ハーゼンが少し距離を取って行儀良く佇んだ。
「わかってるよ」
ユーリスが頭を掻きながら前に出て、セレノアに右手を差し出す。
「俺は決めたぞ」
それは、握手を望む形だった。
セレノアは目を丸くし、何も言わずに困惑する。
「ったく、そんな畏まるなって」
その態度を勘違いしたユーリスが、更に一歩前に出てセレノアの右手を掴んで握る。
セレノアの意思に関係無く、2人の右手は力強く握手を交わしていた。
「次の大会にお前を招待する! 今度は互いに正々堂々、全力で戦おう!」
そして一方的に話したユーリスが屈託の無い笑顔を見せる。
「‥‥‥大会?」
セレノアは更に困惑を強めて聞き返す。
だが既に握手は解かれ、ユーリスは背中を向けて歩き出していた。後ろに控えていたハーゼンが頭を下げ、彼の後ろを歩いていく。
「じゃあな、セレノア!! アストリア王国の最年少騎士として、存分に力を付けろよ!」
そして一瞬だけ後ろを向いたユーリスが手を振り、今度こそ足を止めずに歩いていく。
「あ、うん。言われなくても」
その空気に押され、セレノアは空返事をして見送るしか無かった。
やがて2人の姿は人混みの中に紛れていき、セレノアが取り残される。
(‥‥‥え? これで任務終わり??)
単独での初任務は、隣国の王子によって不完全燃焼で幕を下ろした。
そして後日。
「ーーーこんなに!?」
セレノアは目を白黒させる。
依頼者のユーリスから、報酬と迷惑料が上乗せされていた。
『俺の貯金から出した。遠慮なく貰ってくれ』
また彼の直筆である、小さな紙も添えられて。
「‥‥‥すごく貰いづらい」
セレノアは暫くの間、困惑した。
隣国の第二王子と、妙な関係が生まれたのだった。




