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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
3章 運命の分かれ道

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第53話 第二王子

 リースランド王国の第二王子、ユーリス。


「王子と言っても、継承権は兄にある。そんなに気にしなくていい」


 ユーリスは飄々と手を振りながら、大した事ないと誇張する。


「一応、これが証拠。お前に嘘は付いてない」


 彼の手のひらには、懐から取り出した小さな紋章が握られていた。それは間違いなく、リースランド王家のもの。


「こ、これは失礼をーーー」


 手合わせした青年ユーリスは、隣国の王子。

 セレノアは不自然に身構え、膝を着こうとする。

 だがユーリスに肩を掴まれて阻止される。


「頼む、さっきのように接してくれないか? 俺の周りには堅苦しい奴しかいなくて、気疲れするんだ」


 セレノアは困惑する。他の王族は見た事無いが、彼のような王子は珍しいと感じていた。


「ちなみにお前の足元に投げたのは、音が周囲に聞こえなくなる魔導具な。その空間をわざわざ作ったことから、色々察してくれ」


 気付けば肩を組んできて、ニカッと笑いながら話しかけてくる。まるで気兼ねない友人のような態度。


「生まれなんて関係ない、結局は本人次第だろ?」


 そして彼のさっぱりとした性格は、セレノアは嫌いじゃなかった。


「‥‥‥分かった」


 とりあえず了承し、自己紹介を始める。


「僕はセレノア。アストリア王国騎士団のーーー」


「『不可思議』の五番隊所属。2人の最年少の内の1人だろ?」


 だが先を言われた事で、セレノアの口は止まった。彼の口振りは、明らかに自分の詳細を知っている。


「しかも平民出身なんだって? マジで凄いよな、周囲の特別な手助けも無く強くなったわけだろ?」


 その間も、ユーリスが一方的に話して肩をバシバシ叩いてくる。


「最年少の王国騎士を見てみたくてな。まず、どんな奴か‥‥‥そして、どれだけ強いのか」


「‥‥‥変わってるな」


 セレノアは思わず、素直な感想が口から漏れてしまった。目を見開いて失言を反省していると、隣のユーリスが勢いよく吹き出す。


「ぷっ、ははっ! いいねセレノア! お前みたいな奴を、俺は待ってたんだ」


 だがユーリスは嬉しそうに笑い、肩をバシバシ叩いてくるのみ。

 とりあえずセレノアは、彼に害意が無いことに安堵する。


「ーーーここにいたんですか!!! 探しましたぞユーリス様ッ!!」


 すると、背後から別の声が響き渡る。

 声の主は魔導具が生成した空間の中に入り込んできている。だから声が聞こえる。

 セレノアは振り向きつつ確認していると、肩を組むのをやめたユーリスが、苦虫を噛んだような顔を見せる。


「げっ、見つかった」


「何が見つかった、でございますか!? また勝手に1人で行動してっ、王子に何かあったら王国の危機なんですぞ!?」


 大声を出して駆け寄ってきたのは、壮年の男性。

 髪をオールバックに纏めていて、黒の燕尾服を着ている。背は高いが身体の線は細く、燕尾服がよく似合っている。


「わかってるって。そんな大声出すなよ」


「いつも使用している魔導具の中でございましょう!!? それに今回も1人で先に行ってしまうし、少しは御身を大切になさってくだされ!!」


「あーあーわかった。セレノアが見てるのに説教はやめてくれ」


 ユーリスが両手で耳を塞いで駄々を捏ねる。

 すると燕尾服の男が、セレノアの方を一瞥した。


「これは失礼を‥‥‥私はリースランド王国の執事長、ハーゼンでございます。以後、お見知り置きを」


 その男の名は、ハーゼン。

 流暢な所作で右手を曲げて前に出し、少し腰を曲げて頭を下げる。まさに執事の中の執事だった。


「あなたが、ユーリス様が言っていたアストリア王国の‥‥‥」


「セレノアです。どうか僕の事は気になさらず、話があるなら外してますので」


 セレノアは軽く自己紹介し、会釈する。

 独特な雰囲気を持つハーゼンを前に、少し緊張しながら2人を見つめる。


「ユーリス様が勝手な理由で呼び出しておいて、邪険になど出来るはずがありません」


 するとハーゼンが深々と頭を下げた。

 ユーリスが目を逸らして口笛を吹く間も、話は続く。


「どうやら私がお邪魔のようですので、後ろに控えております。ユーリス様、くれぐれも単独行動は控えてくだされ」


 そして淡々と呟いた後、ハーゼンが少し距離を取って行儀良く佇んだ。


「わかってるよ」


 ユーリスが頭を掻きながら前に出て、セレノアに右手を差し出す。


「俺は決めたぞ」


 それは、握手を望む形だった。

 セレノアは目を丸くし、何も言わずに困惑する。


「ったく、そんな畏まるなって」


 その態度を勘違いしたユーリスが、更に一歩前に出てセレノアの右手を掴んで握る。

 セレノアの意思に関係無く、2人の右手は力強く握手を交わしていた。


「次の大会にお前を招待する! 今度は互いに正々堂々、全力で戦おう!」


 そして一方的に話したユーリスが屈託の無い笑顔を見せる。


「‥‥‥大会?」


 セレノアは更に困惑を強めて聞き返す。

 だが既に握手は解かれ、ユーリスは背中を向けて歩き出していた。後ろに控えていたハーゼンが頭を下げ、彼の後ろを歩いていく。


「じゃあな、セレノア!! アストリア王国の最年少騎士として、存分に力を付けろよ!」


 そして一瞬だけ後ろを向いたユーリスが手を振り、今度こそ足を止めずに歩いていく。


「あ、うん。言われなくても」


 その空気に押され、セレノアは空返事をして見送るしか無かった。

 やがて2人の姿は人混みの中に紛れていき、セレノアが取り残される。


(‥‥‥え? これで任務終わり??)


 単独での初任務は、隣国の王子によって不完全燃焼で幕を下ろした。



 そして後日。


「ーーーこんなに!?」


 セレノアは目を白黒させる。

 依頼者のユーリスから、報酬と迷惑料が上乗せされていた。


『俺の貯金から出した。遠慮なく貰ってくれ』


 また彼の直筆である、小さな紙も添えられて。


「‥‥‥すごく貰いづらい」


 セレノアは暫くの間、困惑した。

 隣国の第二王子と、妙な関係が生まれたのだった。

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