幕間 茨道の隣
アストリア王国の中心、アストリア城。
部外者は決して入る事の出来ない、落ち着けるのは高貴な者だけの聖域。
「王国騎士団に最年少の騎士が2人‥‥‥ずいぶん有望らしいなぁ」
豪華な椅子に座り、両手に広げた新聞記事を見つめる少年。足を組んで座っていて、近くの紅茶カップへ右手を伸ばす。
「って、紅茶切れてるぞ! 早く持ってこい!」
すると数人のメイドへ怒鳴り、舌打ちしながら新聞に目を通す。
「ったく、最近は気の利かない奴が多すぎるな」
第三王子、ジーク・アストリア。
14歳となった彼は、王立学院の入学が残り1年後に迫っている。
「おい菓子も切れたぞ!! 早く持ってこい!!」
その傍若無人な言動は、身分という壁によって殆どの人間が拒めない。
「ったく‥‥‥って、あの女」
ジークは悪態をついた直後、無意識に声を漏らしていた。
「‥‥‥ふぅ」
彼の目に映ったのは、廊下を歩いている少女。ただ呼吸して歩いているだけで、周囲を虜にしかねない可憐な容貌と眩い銀髪。そして、どこか儚さもある。
ジークが眉を顰めて新聞を机に置き、通り過ぎようとする銀髪の美少女を睨み付ける。
「おいセリカっ!! 兄への挨拶すら出来ないのか、礼儀知らずが!!」
そして立ち上がりながら右手を伸ばし、唾が飛ぶほど大声で怒鳴っていた。異母兄妹である、妹に。
すると彼女の足がピタリと止まり、身体を僅かにジークの方へ向ける。
「‥‥‥話しかけないでくれる?」
そう呟いた言葉は、氷のように冷たい。視線は醜い化け物でも見ているかのようだった。
その態度にジークが睨み付けながら、歯軋りし始める。
「私の事、嫌いなんでしょ? 私もあなたの事が死ぬほど嫌い。だから関わらないでくれる?」
少女の全身から溢れ出す、底無しの魔力。
彼女の身体を流動している魔力は、まるで生き物のように暴れている。
周囲を一瞬で消し飛ばしかねない。そんな威圧感が今の彼女にはあった。
「っ、なんだその口は!? おいセリカぁッ!!!」
「ーーーだから、気安く呼ばないでくれる? 気持ち悪いから」
第三王女、セリカ・アストリア。
兄であるジークを一蹴し、彼女は前を向いて淡々と歩いていく。
「〜〜〜本当にお前と、半分でも血が繋がってるのか!? 孤児院なんてゴミ溜め暮らし、俺なら耐えられないなぁ!!?」
直後に響く、ジークの容赦無い罵倒。
セリカは何も言い返さない。ただ唇を噛んで、廊下を歩き去るのみ。
このような嫌がらせは、セリカにとって眼中に無い。
「‥‥‥」
セリカは自室に入り、無意識に息を吐く。
まるで居間と勘違いしそうなほど広い空間。だが最低限の家具とベッドのみで、あまりにも殺風景な室内。とても一国の王女とは思えない。
「何があっても‥‥‥心は、ずっと一緒だよね」
小声で呟き、右手を胸に当てて目を閉じた。手のひらで胸のポケットを押さえ、微かに力を込める。
「一緒だよね‥‥‥アベルっ」
その場で崩れ落ちて、床に座り込む。顔が自然と俯き、涙が溢れる。
「もう会えないけど、側にいるよね‥‥‥?」
孤児院で過ごしてきた金髪少年は、もういない。
セリカの認識では、もうこの世にすらーーー。
「私たちは、ずっと一緒だよねっ‥‥‥?」
セリカは泣いた。最年少の冒険者が死刑になった事を知ってから、時折悲しみに押しつぶされそうになる。1年以上経った今でも、それは変わらなかった。
「そうじゃないと私、こんな世界で生きられない‥‥‥!!」
そして駄々を捏ねる子どものように、嗚咽を漏らして泣きじゃくる。
「もう一回だけでも、あなたに会いたかったよぉ‥‥‥!!」
勇者と称される王女の道が、生易しいはずがなかった。




