第49話 初任務の後
「ーーー動きが遅い!! もっと踏み込んで圧を掛けないと切り込まれますよ!!?」
新人の王国騎士セレノアは、自己研鑽を積む普段の日常に戻った。
教育係のシレーナは、相変わらず手厳しい。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥」
「いつまで寝そべってるんです? 辛いなら、もう終わりにしますか?」
「っ、まだまだッ!!」
だがセレノアは、彼女の修練を苦しいと思った事は無い。むしろ感謝しているくらいだった。
強くなりたいと、心の底から求めているから。
「はぁッーーーゔっ!?」
だが、セレノアは眉を顰めて足を止める。左手で無意識に、頭を押さえていた。
「大丈夫ですか!?」
するとシレーナは短剣を収め、声を出しながら近付いてくる。セレノアはそれを左手を前に出して制止しながら、意識して息を吸う。
(急に痛みが来て‥‥‥思考が乱されるっ)
これが初任務の後から不定期に起こる‥‥‥突発的な頭痛。意識が散漫になってしまうほど、無視できない痛み。
「今回は2日連続で、ですか‥‥‥大丈夫ですか?」
彼女の右手が肩に乗り、優しく撫ででくる。
存在を主張してくる頭痛は、時間が経つにつれて次第に薄くなっていった。
「‥‥‥大丈夫です。心配させました」
やがてセレノアは深く息を吐き、目前の彼女を見つめる。
だがシレーナは、顎に左手を当てて物思いに耽っていた。
「あの、シレーナさん?」
「‥‥‥やっぱり、一度診てもらいましょうか」
顔を上げた彼女が、強い意志を持った目付きで話しかけてくる。
セレノアは一瞬だけ口を曲げ、咄嗟に視線を逸らす。
「いや、そのうち治りますって」
発言の通り、あまり乗り気では無かった。
王国騎士の任務を受けられるよう、もっと強くなりたかった。
(もう4年弱しか無い‥‥‥王立学院の学費、その4割も届いてないのに、余計な時間は掛けられない)
セリカに会いたいという自分の気持ち。
セレノアにとって、それが何よりも最優先事項だった。
「それよりもまだ今日の修練をーーー」
「おだまり」
早まる気持ちを言葉に乗せると、続きを遮られた。
シレーナが眉を顰め、睨み付けてくる。
「自分の身体を大事に出来ない馬鹿に、教える事は何もありませんから」
その言葉に、何も言い返せなかった。
セレノアは俯いて下唇を噛む。
「頭だけでなく、左肩もです。なんとか明日に診てもらえるように、頼んできます。今日の修練は終わりです」
「そんなっ」
セレノアは目を見開いて、声に出して抗議する。
だがシレーナは聞き入れず、踵を返して歩き始める。
「言っておきますが自主練も絶対ダメです」
「そんなッ!!」
セレノアの声が更に大きくなる。
心を見透かされたような発言に驚き、悔しがる。
「あ、あのっ、日課の素振りだけはさせてください!! おねがいしますッ!!」
そして、せめてもの反抗を行う。
駄々を捏ねる子どものように、懇願の目で彼女を見つめる。
「‥‥‥わかりましたよ。ただし今から50回だけ、夜は絶対にしない事。見ててあげますから、丁寧に振りなさい」
その意志に免じて、シレーナは少しだけ折れた。
セレノアは勢いよく返事をすると、右手に持った王国騎士の剣を‥‥‥意識して振り始める。
「ッ、ッ! ふッ!!」
空を切る音が、シレーナの耳に届く。
素振り50回は、あっという間に終わった。
「はいじゃあ明日まで没収ですー」
するとシレーナがむんずと近寄り、セレノアの手から剣を奪い取っていく。
「ぁ」
セレノアは一瞬反抗しそうになったが、約束を思い出して微動だにせず受け入れた。
「じゃあ明日の朝、ぇ〜っと11時にここへ集合。そのまま頭と左肩を診てもらいに行きます」
手に持った剣を下ろしたシレーナが、翌日の予定を一方的に話す。
「‥‥‥あの、診てもらうって誰にですか」
セレノアは気になった事を質問する。
彼女の話を受け入れた事で、詳細を知りたくなった。
「そういえば、まだ会ってませんでしたね。ついでに挨拶も済ませましょうか」
シレーナが目を丸くして呟くと、ニィ〜っと口を横に広げて笑みを浮かべる。
「人体に詳しい人が、五番隊にいるんですよ」
彼女の言葉は、あまり答えになっていなかった。




