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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
2章 王国騎士の日々

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第47話 天才騎士

「シレーナさんっ‥‥‥!!」


 セレノアは目を見開き、歩き出す彼女の名を叫んでいた。


「あなたの罵倒のおかげで、吹っ切れました。なんかもう、どうでもよくなりました」


 短剣を握る天才騎士シレーナの全身から、肌がヒリつくほどの魔力が溢れ出している。それは雑念が無く、集中状態の証明。


「あなたとユーリ、全然似てませんでした。ユーリの方が何百倍も素直で可愛かったですもん」


 彼女の小言すら、今は頼もしく聞こえてしまう。

 セレノアは微かに笑うと、突然両膝の力が抜けて地面に座り込んだ。いや、意思に反して脱力した。


「ぁっ、力が‥‥‥」


 疲労困憊と安心感から、身体が限界を訴えていた。


「そこで見てなさい。動けないあなたを守りながら、この雑魚の命を消してあげます」


 淡々と大胆な宣言をしながら、ゆっくりと歩いていくシレーナ。短剣をくるくると回す彼女は、鉈を持ち上げて歯を噛み締める、雑魚オーガを見上げる。


「さっきの情けない姿、もう一度見せてみろヨォ!!!」


 目を迸らせて唸るオーガが、何度目か分からない鉈を振り下ろす。シレーナは見上げたまま、微動だにしない。


「シレーナさんッ!!!」


 セレノアは叫ぶ。鉈の威力を分かっているからこその、最悪の展開を想像してしまう。


「馬鹿の1つ覚えですね」


 小声で呟いたシレーナが、右手を僅かに横へ動かす。


「!?」


 その瞬間、セレノアが想像していた展開は土台から崩れ落ちた。


「なァッ!!!?」


 オーガの鉈が()()()()ように横へ逸れ、シレーナから大きく外れる。先ほどと同じように、地面が粉微塵になる。


「私が天才と言われる所以、その目に焼き付けなさい」


 そう言ったシレーナが跳躍する。

 オーガが咄嗟に左腕を薙ぎ払って迎え撃つ。


「あの新人と一緒にしないでくれます?」


 するとシレーナの身体がーーー空中で更に()()()。まるで空を足場にして、跳躍したように。

 2段跳躍をした彼女は、オーガの左腕を軽々と飛び越える。


「遅いですね」


 そして身体を捻りながらオーガの頭上に迫るとーーー躊躇なく左手の短剣を、容赦無く突き刺した。

 脳天から、黒い血が飛び散る。


「ぐぁぁぁぁッ!!?」


 呻き声と共に、オーガの巨体が仰向けに倒れ込む。その衝撃と風圧が周囲を巻き込んでいく。


「‥‥‥‥‥‥!?」


 セレノアは目を見開いたまま絶句していた。

 軽やかに着地して淡々と見下ろす彼女から、目が離せない。何かをしたのか、何が起こっているのか分からない。


固有魔術オリジナル‥‥‥前に話しましたが、覚えていますか?」


 シレーナが横目で話しかけてきた。

 セレノアは目を合わせて驚きつつも、辛うじて首を縦に振る。


「魔導書に記録が残っている属性魔術とは全くの別物、自分の思考や意志で作り上げた、その人だけの魔術。ここまで言ったら、あとは分かりますよね」


 セレノアは絶句した。

 それは初めて見る固有魔術に驚いているから、ではない。


「でも、それは各貴族が尊厳のために編み出して、代々受け継ぐものだって‥‥‥」


 平民出身のシレーナが、固有魔術を有している事に驚いていた。


「私、昔はユーリと土いじりしてたんです」


 すると、全く別の話題を振ってくるシレーナ。


「綺麗な立方体を作るの、好きだったんですよね。水で濡らして、程よく固めて」


 それは意味不明で、どこか胸騒ぎを覚える言葉。

 セレノアは結末を察して、鳥肌が立つ。


「私は天才なので、そのイメージから作り上げてしまったんです。体内の魔力で、綺麗な形に」


 不敵に微笑む彼女の右手に‥‥‥半透明な立方体が浮かび上がる。それは間違いなく、彼女の独自魔術の全容だった。


「私の固有魔術オリジナル‥‥‥『虚構立方体キューブ』。私が1年で王国騎士になれた理由です」


 セレノアは終始、目を限界まで見開いて絶句していた。

 体内の魔力を扱うのは、無属性魔術に近い。だが無属性魔術は身体強化や、魔力そのものを放出するもの。


(どんな感覚で魔力をあんなにっ‥‥‥)


 彼女のように、精巧な立方体を形作って実現させるのは‥‥‥想像すら出来ない未知の世界だった。


「ーーー何がオリジナルだア!!? 初見殺しに引っ掛けやがってェェ!!!」


 話をぶった斬るように、立ち上がったオーガの声が響き渡る。振り向いたシレーナが、目を細めて肩をすくめる。


「まだ生きてたんですか。やけに硬いと思いましたが、どうやら筋肉に阻まれたようですね」


 短剣を懐に収めたシレーナが、小さく息を吐く。両手を軽く振りながら、ジロリとオーガを見つめる。


「さてと、セレノアくんも体力の限界でしょうし、話の続きは後にしましょう」


 そんな彼女の言葉に、セレノアは目を細めて口を開く。


「誰のせいだと‥‥‥」


「私のせいですね。だから私が責任を取ります」


 その小言は彼女に聞こえていた。

 セレノアは微かに視線を逸らすが、すぐに引き戻す事になる。


「死ネェェェェ!!!」


 叫び声と巨大な鉈が、シレーナに襲いかかったからだ。当たれば間違いなく、彼女の身体が縦断される重い一撃。


「うるさい」


 目を細めたシレーナが右手を振る。



 ーーーバチンッ。



「ハ????」


 巨大な鉈が、ゴトリと地面に落ちた。

 素っ頓狂な声を出したオーガの右手は、突然発生した半透明の立方体に弾かれたのだ。

 その刹那、シレーナが左手を地面に付けて力を込める。右手は無造作に何度も振り続けながら。


「やり方を変えましょう」


 ーーーオーガの脳天に、巨大な立方体が落ちていた。


「ガっ!!!?」


 鉈が弾かれるほどの硬度を持つ立方体は、まさに鈍器。頭から黒い血を撒き散らしながら、オーガの巨体が仰向けに倒れ込む。


「ナッ、動けなイッ!!!?」


 その直後、オーガの手足を立方体が覆った。


「これは重そうですね」


 そして、左手で地面を撫でるシレーナが淡々と呟く。

 魔力が滲む左手から飛び出した‥‥‥小さな立方体。

 数え切れないほどの群れが、()()()()()()()



 ーーーギギギ、ガガガ。


 柄の部分が立方体で覆われた時、鉈が不規則に動き始める。


「あなたの首を落とすのに最適ですね」


 鉈が垂直に立ち、ゆっくりと宙に浮き始める。そして、仰向けのオーガの首元に留まる。


「ナッ、なにが起こっているんダァ!!!?」


 オーガの絶叫が森中に響き渡る中、セレノアは目を見開いて絶句していた。


(作った立方体を自由に操って、普通なら持てないような重い物まで持ち上げるなんてっ‥‥‥!!)


 シレーナの固有魔術オリジナル‥‥‥『虚構立方体キューブ』。

 その一端を目の当たりにし、驚愕に包まれていた。


「私を馬鹿にした報い、今から払ってもらいますからね〜♪」


 口角を上げて呟いたシレーナ。


「まっ、てッ、はなしヲーーーー!!!」



 その後に響いた断末魔の声は‥‥‥聞くに堪えないおぞましいものだった。


「‥‥‥ふぅ、うるさかった」


 無造作に地面に落ちた巨大な鉈が、迫り来る黒い液体によって、軽く流されていく。辺り一面、黒い血の池と化す。


「‥‥‥‥‥‥」


 セレノアは何も言わず、ただ目前の光景を見つめ続ける。長かった夜は明け始め、微かに陽が滲み出ている。


「セレノアくん」


 振り向いたシレーナが、膝を曲げて左手を伸ばしてくる。

 微かな陽を背にした彼女は、少し幻想的に見えた。


「こんな天才が、あなたの教育係なんですよ?」


 ニィ〜と口を横に広げて笑う彼女は、どこまでも憎たらしかった。

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