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勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜  作者: とい
2章 王国騎士の日々

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第45話 宝の持ち腐れ

「っ、ぁぁぁぁぁァッ!!!」


 セレノアは声と力を振り絞り、魔力で強化した()()を地面に付く。勢いと反動で、身体が前方へと飛び上がる。


「ちッ!!」


 オーガが舌打ちする。

 振り下ろされた鉈が、地面を深々と抉っていた。


「ーーーらッ!!」


 セレノアは飛び上がった体勢のまま、隙だらけのオーガの頬に右フックを放つ。右拳が減り込んだ後、振り抜いた勢いでオーガが微かに仰け反る。


「がッ、、このクソ雄ガッ!!!」


 だが当然、致命傷にはならない。

 腕の力だけで振り抜いた拳は、たとえ魔力で強化しても軽かった。

 目を迸らせたオーガが、左腕を水平に振り払う。それはまるで、大木が薙ぎ払われたような一撃。


「くッ!?」


 空中のセレノアは、両腕を胸の前で交差して力を込める。魔力を集中させた両腕で、オーガのラリアットに立ち向かう。


「グぁッ!!!?」


 セレノアは瞬く間に、オーガの左腕に薙ぎ払われた。上下左右が分からなくなるほど身体が回転し、視界が揺れる。


「セレノアくんッ!!!」


 すると後ろから、甲高い悲鳴がセレノアの背中に響く。吹き飛んでいく身体に微かにぶつかり、背中に巻き付かれるような感触。

 セレノアは目を見開いて、グニャグニャ回る視界の中に映る‥‥‥確認する。


「ぁーーー!?」


 それは、シレーナだった。

 衝撃を少しでも和らげようと、セレノアの身体に飛び付いて来たのだ。

 だが少女の身体1つで、衝撃を止められるはずが無い。


「ッ、ぁぁアッ!!!?」


 背中に抱き着いてきたシレーナもろとも、木々の枝を折りながら吹き飛んでいく。


「ぐはッ!!!」


「あぐッ!!!」


 そしてセレノアとシレーナは、太い枝に身体をぶつけて地面に突っ込む。だが、まだ勢いは止まらない。


「あぁッ!!?」


 数えられないほど地面を転がる間に、シレーナが背中から離れていった。彼女の悲鳴を後ろに感じながら、セレノアは地面を転がり続ける。


「うぅッ‥‥‥!!? ぁ、ぐ‥‥‥」


 ようやく、猪突猛進の旅が終わりを迎えた。


(いま、は)


 仰向けに倒れたセレノアは、意識を保つだけで精一杯の状態だった。


「セレノア、くんっ‥‥‥!!」


 斜め後ろから聞こえる声だけが、今のセレノアに感覚だった。何度も聞こえてくる声によって頭がガンガンと痛む事で、辛うじて意識を保っている。


「ぁ、ぅっ‥‥‥」


 だが当然、限界を迎えていた。

 立つ事は愚か、起き上がる事すら出来ない。

 できるのは、両手の指を動かす事のみ。


(け、けん、は‥‥‥まだ、あるっ‥‥‥)


 それはセレノアの意地か。

 剣だけは、今も右手でしっかり握り締めていた。


「しぶとい雄だナァ。ヒトの幼体で初めてみタゾ」


 そして、不規則な発音が聞こえてくる。

 ドシンドシンと、巨体に応じた足音がにじり寄ってくる。


「く、そッ‥‥‥!!」


 セレノアは右手を必死に折り曲げ、剣を身体に引っ張る。だが、右手の挙動は亀のように遅かった。


「せ、セレノアくんッ‥‥‥!!」


 シレーナの声が、すぐ後ろから聞こえてくる。どうやら彼女も、必死に近付いてきたようだった。


「にげ、てッ‥‥‥」


「馬鹿なのっ、逃げるべきはあなたっ、でしょッ‥‥‥」


 張り裂けるような声が、耳元で響く。

 必死に歩いてきたシレーナの身体が、不自然に折れ曲がる。力が抜けたのか、両膝を地面に付けて上体が倒れ込む。


「ごめん、なさいっ‥‥‥」


 そして仰向けに倒れるセレノアの腹に、頭から覆い被さって声を漏らしていた。


「ナニ始めようとしてんダ、お前ラ。死ぬ前ってのハ、やっぱり繁殖したくなるのカァ?」


 ゆっくりと近づいて来るオーガは明らかに嘲笑していた。仰向けのセレノアとうつ伏せのシレーナには、お互いの顔と身体しか視界に入っていない。


「あなたが戦ってる姿を、無意識に追ってしまった‥‥‥傷付かないか、心配でっ‥‥‥」


 セレノアの服が、ジワジワと濡れていく。腹の部分から、少しずつ浸透していく。


「ごめんなさいっ‥‥‥ユーリ」


 彼女の声は、全てを諦めていた。

 だが‥‥‥それが始まりだった。



「‥‥‥ふざ、けんなッ」


 セレノアは歯を食いしばり、震える両手でシレーナの両肩を掴む。目を見開いて驚く彼女を、容赦無く横へずらす。


「うっ、セレノアくんっ‥‥‥?」


 地面に頭を付けたシレーナが声を漏らす。

 セレノアは左手を必死に掲げる。魔力を全身から手繰り寄せ、滲ませる。


「僕はっ‥‥‥あんたの弟じゃないッ!!」


 そしてーーー左手を勢いよく額にぶつけた。

 魔力で強化した左手と、強化しなかった額。


「セレノアくんッ!!」


 当然、血飛沫が地面に滴り落ちる。

 その一撃は、まさに自傷行為だった。


「ッ‥‥‥うそッ」


 その行動に、シレーナが声を震わせる。


「なに勝手に‥‥‥心中させようとしてんだよ‥‥‥」


 セレノアの身体が、ゆっくりと動き出している。

 燃料を補充して、動き出す機械のように。


「あんたの過去に、付き合うつもりは無い‥‥‥」


 だが、その両眼には‥‥‥今を生きている者にしか宿せない、眩い意志の光があった。


「僕は死ねない‥‥‥まだセリカに会うまでは死ねないんだよッ!!!!!」


 それはセレノア‥‥‥いや、アベル。

 茨の道を突き進む少年の、魂の咆哮だった。



「お前、イカれてるのカァ??」


 新たな衝撃を頭にぶつける事で、さっきまで感じていた脳の衝撃を、無理やりに相殺したのだ。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥イカれてるのは、お前の図体だよ化け物がっ」


 ノーガードの頭への自傷行為。元々側頭部を負傷していた事もあるため、その影響は計り知れない。

 ーーー頭が燃えるように熱い。

 ーーー左肩がズキズキと痛み出す。


 だが、意識は普段以上にはっきりしていた。


「羨ましいカ?」


「ああ、羨ましいね‥‥‥そんな宝の持ち腐れには、心底を腹が立つ」


 その一言で、空気が張り詰める。僅かばかりの静寂が訪れ、微動だにしない。


「遺言はそれでいいカァ!!!?」


 オーガの怒り狂った一撃が、地面を大きく揺らす。

 だが、振り下ろした鉈の先には誰もいない。


 黒髪少年は軽やかに跳躍していて、オーガの首元へ迫る。


「そんな言葉も知ってるんだなーーー化け物なのに」


 そして勢いよく斜めに振り下ろした剣が、オーガの首元に突き刺さった。

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