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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
2章 王国騎士の日々

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第43話 生き残った理由

 私は、ユーリと両親に会えなかった。

 私を家族の元に送ってくれる存在は、いなくなった。


「うおっ、開口一番。最近の子は怖いな」


 ハーティアって胡散臭い男が、村に巣食う化け物たちを全て殺してしまったから。怯えてた私たちを嘲笑うかのように、化け物を秒殺した。


「近くで任務だったんだが、煙が上がってるのが見えてな」


 飄々と話しながら、剣を鞘に納める。


「だが、間に合わなかったようだな。生き残ったのは、お前含めて5人だけか」


 そして、私の前にしゃがみ込む。彼の視線は私ではなく、その少し下に向いていた。


「お前が抱き締めているのは‥‥‥弟か」


 私の肩に頭が乗って、動かないユーリに。


「っ、そうよッ!! もっと早く来てくれたらっ、ユーリは助かったかもしれないのにっ‥‥‥!!」


 心の琴線に触れられて、目の前の男を糾弾してました。


「なんでっ、そんなに強いのにっ!! 助けてくれなかったの!!?」


 とにかく、何かに感情をぶつけて楽になりたかった。


「‥‥‥お前さ。そうやって他人のせいにして済ませるつもりか?」


 息を吐いた瞬間、男の雰囲気がガラリと変わる。

 さっきまでの飄々とした態度から一転。

 凍てつくような視線と、全身から湧き上がる()()()()

 それが魔力という事を、当時の私は分からなかった。


「弟が死んだのは、お前のせいだろ。お前が守れなかった、それが全てだ」


「ッ‥‥‥!!」


 抉られる。心の中を、容赦無く抉り取ってくる。

 でも、正論だった。私自身が映った鏡を、頭を掴まれて無理やり見させられているようだった。


「他人のせいにした挙げ句、後を追って身勝手に死ぬんだな? ここまで卑怯な奴は、王国でもなかなかいないだろうな」


「ッ、そこまで言わなくたってッ‥‥‥」


 怒りで収まっていた涙が、とめどなく溢れ出す。息をするのも苦しくて、ただ座っているだけで胸が張り裂けそう。


「逃げんな、とは言わない。お前が死にたいなら、勝手に死ね」


 男は、本当に厳しかった。私を虐めたくて、責められているのかと思った。


「ーーーでもな。お前が生き残った理由くらい、ちゃんと理解してからにしろ。死ぬのは、いつだってできる」


 そう言って、男は鞘から剣を取り出して‥‥‥私の横に突き刺す。


「生き残った、理由‥‥‥?」


「お前は運が良くて生き残ったのか? 弟を見捨てたから生き残ったのか?」


「ち、違うっ」


「じゃあ何だ? 命欲しさに弟を差し出したのか?」


「違うッ!!! 私はユーリにーーーぁっ」


 つい言い返そうとして、言葉が詰まった。今、私がここにいる理由が分かってしまった。


『ねえ、さん‥‥‥ぶ、じ‥‥‥?』


 私は‥‥‥ユーリに助けられて、生き残ったんだ。

 その事から、自分勝手に目を背き続けてたんだ。


「‥‥‥どうやら分かったみたいだな。俺が見つけた時の状況からして、答えは一つに決まっている」


 なぜか男の声が、少しだけ優しく聞こえた。


「弟の後を追って‥‥‥誰にも分からない道を歩き出すのも、別に良いだろう」


 私の右肩に、大きな手のひらが乗る。


「それか弟の気持ちを汲んで、これから必死に生きていくのも‥‥‥お前の道だ」


「ぁーーー」


 死ぬか生きるか、決めるのは私。

 そして、私の心に残っているのは。


『だから、元気、に‥‥‥‥‥‥』


 私の道は、定まった。

 ユーリの想いを、背負っていくと決めた。


「ユーリっ‥‥‥ぁああああああァッッ!!!」


 それでも、今だけは泣いていいかな‥‥‥?

 ごめんね、ユーリ。

 ありがとう、ユーリ。


「お姉ちゃんっ、がんばるからっ‥‥‥がんばるからねっ、ユーリっ‥‥‥!!」


 私の道は、これからも弟が導いてくれている。

 どれだけ泣いていたか分からない。でも、やがて感情の発露にも終わりを迎える。


「それで? どうするんだ、少女」


「‥‥‥私を、連れて行ってください」


 まずは自分が生きるために、彼を頼る。化け物たちを皆殺しにした、この男に。

 想像が付かないほどの力を持ち、何かを滲み出しているハーティアという男に。


「使えない奴を置いておく気は無い。今から1年で結果を出せ。出来ないなら出て行ってもらう」


 ハーティアという男は、厳しかった。

 でも今の私は、厳しくされるのが丁度いい。


「望むところです」


 自分の力で生きる術を、すぐにでも身に付けたかった。


「まずは死者の埋葬だ。手伝え」


「っ、はい」


 ユーリの想いを、背負い続けるために。



 ◆◇◆◇



「ーーーその後は隊長が保護してくれて、必死に力を身に付けました。寝る時間すら惜しかったような1年でした」


 シレーナが小さく息を吐き、微かに微笑む。


「それから、1年後の入団試験に合格。晴れてアストリア王国騎士団の一員になって、今があるというわけです」


「‥‥‥すごい」


 セレノアは無意識に声を漏らしていた。

 彼女に感じた本音を、口に出さずにはいられなかった。6歳の自分と状況が似ていた。


(弟の気持ちを背負うために生きて、しかも1年で騎士になるほどの力を‥‥‥壮絶という言葉すら生温いほど、辛い1年間だったはずなのに)


 だが、彼女の苦労は想像が付かなかった。

 魔力や戦いを知らない10歳の少女が、1年で王国の精鋭と認められた事。それを笑って話す彼女。

 だから声に漏れてしまうほど、敬意を称した。


「ふっふっふ」


 その反応に、シレーナが目を細めて口角を上げる。


「今さら私の凄さに気付いたんですか。この天才騎士シレーナの後輩なんて、あなたはーーー」


「本当にすごいです」


 セレノアは素直に肯定し、シレーナをまっすぐ見つめる。ちなみに、今も2人はベッドの中である。


「へっ?」


 シレーナは目を見開き、素っ頓狂な声を漏らしていた。


「シレーナさんは本当にすごいです。僕も先輩みたいに、もっと強くなりたいです」


 セレノアの言葉は止まらなかった。

 天才という言葉で片付けるのは、彼女の努力に失礼だと感じた。

 そして以前よりも尊敬の念を抱く。


「ぁ、ぇ‥‥‥そう、ですか‥‥‥」


 するとシレーナが目を逸らして、ゆっくり顔を下げてしまった。夜遅くても、顔が紅潮しているのが分かる。


「‥‥‥僕の怪我に対して、あんなに慌てた理由も理解しました」


 セレノアは彼女の問題を直視する。壮絶な過去を聞いて、分からないわけが無い。


「っ‥‥‥そう、ですよね。そのために話したんですから」


 シレーナが息を詰まらせ、深呼吸して顔を上げる。


「私‥‥‥怖いんです。歳下の男の子が、魔物に傷つけられるのが‥‥‥」


 そして、心の中を曝け出した。


「‥‥‥今まで散々、僕を痛めつけてきたのに?」


 セレノアは話の腰を折るような、素直な感情を口にした。正直、言わずにはいられなかった。

 だが、決して彼女に虐められているという事ではない。


 それは普段の訓練、そして牢屋での試験の話。

 シレーナは容赦無く攻撃してきた。


「うっ」


 あまりの正論に、シレーナが呻いて目を逸らす。今回ばかりは、強気に言い返すことも出来ない。


「わ、私が攻撃するのは良いんですっ。ユーリとも、よく戯れあってましたから」


「いや、牢屋での試験なんて完全に楽しんでたような気がーーー」


「だ、だから私はいいんです! あなたのような年下の男の子が、化け物に傷付けられるのをっ、見るのがダメなんですっ!!」


 まるで駄々っ子のように、自分の意見を押し通そうとするシレーナ。

 実際、ゴブリンにやられた傷に狼狽していたし、彼女の発言は本当であることは分かっている。


(牢屋の時は、鉄格子に頭ぶつけられたんだけどな‥‥‥?)


 これはセレノア自身の、個人的な恨みだった。

 全てが嘘で作られ、手のひらで踊らされていた牢屋での試験。

 それを、ただ今も根に持っているだけである。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥だから、今度からは私の前では怪我をしないように」


 大声を出して疲れたのか、息を切らしたシレーナが命令する。


「‥‥‥あの、それはさすがに」


「それにもう夜も遅いです。早く寝ましょう、おやすみなさい」


 セレノアの言葉を聞き流して、背を向けて布団を被る。当然、彼女の背中は見えなくなった。

 だがセレノアは、布団の奥にいる彼女を見つめる。


(‥‥‥‥‥‥明日話そう)


 思うところがあったが、もう今は遅い。

 

「おやすみなさい‥‥‥」


 無意識に背を向けながら、小声で呟いて目を閉じる。そして、返事は返って来なかった。



 ◆◇◆◇



「すぅ‥‥‥すぅ‥‥‥」


 疲れと怪我が響いていたのか、セレノアはすぐに眠ってしまう。彼が眠り始めて、数分が経つ。


「‥‥‥ほんとに、生意気」


 シレーナは身体を起こして、隣を見下ろす。


「‥‥‥ユーリ」


 セレノアの寝顔を見つめ、別の名前を漏らす。

 一定の間隔で刻まれる、寝息しか聞こえない。


「私って‥‥‥」


 何かを言いかけて、口をギュッと閉じる。

 眠っているセレノアを、ただ見つめ続ける。



        ーーーガツンッ!!!



 何かが勢いよく衝突したような、騒々しい物音。


「今の音はっ‥‥‥!」


 シレーナは即座にベッドから降り、机に置いている短剣を掴む。


「怪我人は、大人しく寝ていてね‥‥‥?」


 その後‥‥‥優しく布団を掛ける。

 眠っている黒髪少年を、お世話するように。


「‥‥‥もう、傷付かないでね」


 そして静かに扉を開けて、暗闇へと消えていく。

 守りたいと思ったものを、守るために。

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