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勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜  作者: とい
2章 王国騎士の日々

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第41話 少し前の話

「‥‥‥‥‥‥」


 セレノアは天井を眺め、目を見開いている。

 仰向けの状態でベッドに寝ているのだが、瞼が閉じる気配は無い。

 隣で、息遣いを感じる。


「‥‥‥なに、緊張してるんですか」


 セレノアの心臓が跳ね上がる。

 耳元に澄んだ声で囁かれたのだ。


「ーーーヅっ!!?」


 そして、なぜか左肩に鋭い痛みが走る。

 セレノアは思わず横向きになり、必死に歯を食いしばる。


「ふふ、わざわざ私の方を向くほどですか」


 痛みに堪える中、聞こえた声にハッとする。


「え‥‥‥ぁ」


 セレノアの視界には、微笑む黒髪少女がいた。

 小柄な身体が、ベッドの中で少し丸まっている。

 普段は強気で生意気な彼女の、小動物のような姿。


「す、すいませんっ」


 セレノアは痛みを堪える中でも、妙に気まずくなって視線を逸らす。やがて、左肩の痛みが薄くなっていき、意識がはっきりし始める。

 激痛で身体を向けた事には、どうやら気付かれなかった。


「まあ天才で可愛い私と一つ屋根の下なら、仕方ないですよね」


「あーそうですね」


 突然の小言に、セレノアは適当に返す。

 普段のやり取りで、少しだけ平常心を取り戻した。


「む、失礼な反応。あ〜傷付きます」


「あーそうですか」


 セレノアは今‥‥‥教育係のシレーナと、一夜を過ごそうとしていた。


「‥‥‥」


「‥‥‥」


 やがて、2人の間に訪れる沈黙。

 彼女の小言は、普段よりも少なかった。

 セレノアはともかく、お喋りなシレーナが率先して口を開かない。


(たぶん‥‥‥シレーナさんがここにいるのは、昼の事が関係してるんだろうな)


 その空白の中で、セレノアは現状の理解に意識を向ける。思い当たる事が、それ以外には思いつかなかった。


『セレノアくんっ、大丈夫ですかっ!!?』


 ゴブリンたちとの戦闘で負傷した自分。

 その事に対し、度が超えた不安と焦りを見せ‥‥‥涙すら浮かんだ彼女。

 それはまるで傷付いたセレノアを見ているようで、見ていないようなーーー。



「‥‥‥聞かないんですね、あの時のこと」


 耳に届いたのは、か細い声。

 セレノアは思考を中断し、どう返事するか迷ってしまう。それで、またしても静寂が訪れる。


「あなたが優しい事は、既に知ってます。深く追及したら、私が傷付くと思ったんでしょ?」


「‥‥‥それは」


 見透かしているような、彼女の言葉。

 セレノアは困惑し、その後が何も出てこない。

 話を聞く側の方が、緊張してしまっている。


「でも‥‥‥これ以上、傷付くことはないので大丈夫です」


 そんな彼女の言葉は、まるで自虐しているように聞こえた。


「私には‥‥‥弟が、いたんです」


 続く彼女の声は、少し上擦っている。

 セレノアは微かに目を見開きながらも、何も言わず話を聞く。彼女の過去は、今まで知らなかった。


「両親が早く亡くなってしまい、私と弟は村の人たちに助けてもらいながら生活してたんです」


 そう言ったシレーナは小さく息を吐き、やがて深呼吸をする。


「不自由なく、とは言えなかったですけど‥‥‥幸せでした。私には、弟がいたから」


「その子の、名前は」


 セレノアは思わず、訪ねてしまう。


「‥‥‥ユーリ、です。3歳下の、素直で可愛い弟でした。私とユーリは、王国の南にあるリルル村で暮らしてました」


 次々と出てくる彼女の話に、セレノアは耳を傾けてーーー。



 ◆◇◆◇


 それは、少し前の話です。


 リルル村は、どこにでもあるような普通の村でした。まあ、少しだけ寒い時期が多かったくらい。


「村一番の力を持つ俺と、屈強な奴らで全部守ってやるからよ!」


 それと村の中にある自警団の人が、自分たちの立場に酔って調子に乗ってたくらいです。


「おうシレーナっ、お前が大きくなったら俺が貰ってやるからよ! 強い子たくさん欲しいだろっ?」


 特に、団長だったダルガンという男は群を抜いて腹が立ちました。冗談か本気か分かりませんが、気持ち悪いのは確かです。


「なんだその目はっ? 自警団の団長に何か言いたい事でもあるのか? えぇ??」


 井の中の蛙って、この人のために作られた言葉だと思ったほどです。20歳の蛙ですね。


「お構いなく。行くわよユーリ」


「んー!!」


 私とユーリが生まれる前も、こんな感じだったんだと思います。村特有の、狭い世界です。



「ゴホっ、ゴホッ‥‥‥シレーナ、ユーリ」


「ごほっ、ごめんね‥‥‥心配させて」


 両親は流行り病に罹って、亡くなってしまいました。私が8歳、ユーリが5歳の時です。


「ねえね。おとうとおかあは?」


 幼かったユーリは、分からなかったんでしょうね。

 そんな弟に、事実を伝えることは出来ませんでした。


「‥‥‥2人はね、神様に選ばれて旅立ったの。でも子どもは大変だから、そこへは連れていけないって。私たちが大きくなってから、迎えに来るの」


 私はユーリに、そんな説明をしました。

 正直、かなり支離滅裂な嘘だったと思います。

 両親が亡くなって、私も考える余裕が無くなってました。自分でも、何を言ってるか分かりませんでした。


「え、すごい! 神様に選ばれるなんて! ぼくたちも大きくなって、会いに行かないとね!」


 でも、ユーリは笑顔でした。

 何の憂いもない弟の笑顔は、あまりにも眩しかった。


「っ‥‥‥そうだね、ユーリっ」


「ねえね‥‥‥どこか痛いのっ?」


 泣き始めてしまう私に、ユーリは心配そうに抱き着いて来ました。


「ううんっ、大丈夫。これからは、私たちが神様に選ばれるように大きくならないとねっ!」


「ーーーうん!」


 私に残った家族は、弟のユーリだけ。

 何よりも大切でした。

 私は姉として、絶対にユーリだけは幸せにするんだって。


「ーーーぇ」


 そう、思ってました。

 あの日が来るまでは‥‥‥何も疑わずに。

注目度ランキングに入った記念です!

これからも精進していきますので、どうかよろしくおねがいします!!

次回の更新は、普段通り土曜日に行う予定です!

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