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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
2章 王国騎士の日々

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第40話 狼狽

「すぐに止血しないとっ!!」


 シレーナは目を白黒させ、明らかに狼狽えている。それも、普段の彼女からは考えられないほど焦っていた。


「し、シレーナさん?」


「まずは傷口を消毒してっ、あっでも近くに水が無いしっ」


 そして、セレノアの声は届いていない。

 彼女は慌てふためき、頭の傷口を見て‥‥‥ついには涙すら浮かび始める。


「えっ、ちょっと大げさですって!」


 セレノアは驚きのあまり、シレーナの両肩を掴んで目を合わせた。


「ぇ、でもっ、魔物にやられて血がっ」


 涙を溜めて震えている彼女は、どこか儚い。

 ただ負傷した相手への反応とは思えない。


「確かに棍棒くらったけど、魔力で身体強化してたから致命傷にはなってないから!」


 セレノアは目を見つめて、不安げな彼女に言い聞かせる。


「ぇ、あ‥‥‥本当に、大丈夫ですかっ?」


 上目遣いで慎重に尋ねてくる彼女は、普段とは全くの別人に見える。


「大丈夫です。安心してください」


 その事を茶化さずに、セレノアは優しく微笑む。彼女の不安を、少しでも取り除きたかった。

 すると、シレーナに両腕を掴まれる。彼女の両肩から、ゆっくりと離されていく。


「‥‥‥もう、大丈夫です。村へ報告に行って、ついでに治療してもらいましょう」


 そして、シレーナは踵を返して歩き始めた。

 先ほどの錯乱と、物静かな彼女の後ろ姿。

 とても普段のような会話ができる状況では無かった。


「う、うん」


 セレノアが今出来るのは、彼女の後をついて行く事だけだった。

 



 そして、討伐依頼があった村に着く。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


 セレノアの頭を見て、村人が救急箱を用意する。用意された椅子に座らせてもらい、セレノアは治療を受ける。

 その隣で、シレーナは何も言わずに佇んでいる。


「魔物を倒していただき、本当にありがとうございます!!」


 村長が頭を下げ、感謝を伝える。


「いえ、感謝されることじゃないです。それに、牛を助けられなかったのは私の落ち度です」


 シレーナは自分の過ちを認め、頭を下げる。


「そ、そんなっ! 決して謝られるようなことでは無いですっ! この村を守っていただき、改めてありがとうございました!!」


 村長は負けじと頭を下げる。

 やがて2人は、穏やかに微笑み合った。


「あの、今晩はぜひ泊まっていってくだされ。お連れの方も休まれた方が‥‥‥」


「そう、ですね。周囲の安全も確認したいですし。では、お言葉に甘えます」


 シレーナの言葉に、村人たちが湧く。

 若くて可愛い王国騎士という話題性に、村人たちは興味津々だった。


(シレーナさんって、やっぱり人気者だ)


 側頭部に包帯を巻かれながら、セレノアは微かに笑う。


「シレーナさんって平民出身の王国騎士なんですよ。だから私たちも尊敬してるんです。五番隊の皆さんは、私たちの希望なんです」


 包帯を巻いてくれる女性が、穏やかに微笑みながら教えてくれた。


「もちろん、セレノアさんの事も尊敬してます! 10歳で王国騎士になって、五番隊に入ったあなたの事も!!」


 すると女性が前のめりに顔を寄せ、目を輝かせて声を弾ませる。若干、鼻息も荒くなっていた。


「あ、ありがとうございます。でも『さん』付けは勘弁してください‥‥‥僕の方が明らかに年下なので」


 セレノアは少し困惑しつつ、手当してくれた彼女に感謝を伝える。


「ーーー大丈夫ですか、セレノアくん」


 すると、人だかりを抜けてきたシレーナが淡々と話しかけてくる。


「あっ、私はこれで失礼しますね!」


「ぇ、あっ。手当ありがとうございました〜!」


 女性は顔を赤らめて去っていき、包帯を巻かれたセレノアだけが残る。


「それで、頭の具合は?」


「うん、大した事ないらしいです。無理はするなと言われましたけど」


 セレノアは右側頭部に手を添える。

 すると、シレーナの右手が肩に置かれる。


「そうですよね。ではあなたの怪我が良くなるまで、この村で休みましょう」


「え。シレーナさんが優しぃ‥‥‥!?」


「ぁ???」


 こうして、セレノアたちは村に一泊することになった。


「お二人とも若いのに、王国騎士だなんて凄いですなぁ!! さ、こちらへ。お口に合うか分かりませんが」


 2人は村長の家で、温かい食事をいただく。


「これはーーー」


「美味しそうですね」


 焼きたての牛肉切り身、人参のシチュー、柔らかいロールパン。


「うまっ!」


「美味しい‥‥‥おかわりお願いしますっ」


 村の食事は、舌鼓を鳴らすほど美味しかった。

 セレノアは目を輝かせて頬張り、シレーナは笑顔で皿を差し出した。


「それじゃあ、また明日」


「‥‥‥はい。おやすみなさい、セレノアくん‥‥‥」


 その後。

 2人はそれぞれ一室を借りて、宿泊することに。

 ちなみに、2人ともランタンを借りていた。既に夜も暗い中、その火の光が周囲を照らしている。

 セレノアは部屋に入ると、小さなランタンを机に置いて‥‥‥火を消す。


(王国騎士の任務も、悪くないな‥‥‥)


 仰向けで寝転がり、天井を見上げる。

 馬での移動と魔物の討伐、そして側頭部と背中の負傷。心身共に疲れていた。

 数分の暗闇と静寂で、自然と欠伸が零れる。


 ーーーコンコン。


「?」


 ふと、外から扉がノックされる。

 セレノアは起き上がり、机に置いたランタンに火を付け、左手に持って扉を開ける。


「あ、シレーナさん。何か言い忘れた事でもありましたか?」


 扉の先には、シレーナがいた。両手を後ろに回し、少し俯いている。

 白いシャツと黒のズボンは、村で貸してもらった服。普段の騎士制服ではないパジャマ姿の彼女は、年相応の少女に見える。

 11歳のセレノアからすれば、15歳の彼女の方が大人に近いが。


「‥‥‥あ、あの」


 シレーナは重い口を開けると、両手を前に持ってくる。大きめの枕が、大事そうに握られている。


「あのっ、一緒に‥‥‥寝てくれませんか‥‥‥」


 闇夜に消えてしまいそうな、か細い声。


「え」


 突然の懇願に、セレノアは思考が停止した。

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