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勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜  作者: とい
2章 王国騎士の日々

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第37話 対処法

 五番隊の副隊長、ヤミル・ヤロミール。

 彼女が指定した場所は‥‥‥仕切りで分けられた、落ち着いた雰囲気の酒場。


「ちゃんと聞いてるぅ〜? 私のはなしぃ〜!?」


 そんな中、顔を真っ赤にして手元のグラスを豪快に煽る‥‥‥副隊長ヤミル


「隊長のお供をして早3年、迅速に仕事をこなし隊員への気遣いも忘れない理想の女っ‥‥‥それが私、ヤミル・ヤロミールぅぅ〜!!!」


 そして彼女の対面に座っている、セレノアは。


「‥‥‥‥‥‥」


 何も言わず、ただ一点を見つめて硬直していた。


(なに‥‥‥これ‥‥‥ゆめ?)


 もはや対面にある現実を認識せず、完全に逃げようとしていた。いや、すでに逃げている。


「そんな私が、気を利かせてセレノアくんの歓迎会を開いたのにぃ‥‥‥なんであの2人は来ないのぉ〜!!!」


 突然大声を出して涙ぐむ、酔っ払いの女から。


「ルルカの馬鹿っ、レインの一匹狼ッ!! だから『不可思議』の五番隊って言われるんだぁぁぁッ!!」


「‥‥‥ね、セレノアくん。畏まる必要、少しも無かったでしょ?」


 隣のシレーナから、無慈悲な追い打ちをかけられる。目の前の光景が、夢ではないと理解させられる。


(大人の女性って、みんなお酒好き‥‥‥なのか??)


 呆然とするセレノアの脳裏に、新たな先入観が形成されそうになる。

 貴族への思い込みは良くないと学んだ、その夜に。


「聞いてますかぁ〜!? 今夜の主役が何ぼんやりしてるんですぅ〜!!?」


 身を乗り出したヤミルの息。

 その匂いを、セレノアは覚えていた。


(ああ、酔っ払ったフィーアさんと同じなんだ‥‥‥)


 知りたくも無かった、嫌な事実。

 泥酔した人の息は、どう足掻いても酒臭くなる。


(このウザ絡みも、コロコロ変わる表情も‥‥‥全てお酒のせいだ)


 セレノアは10歳でありながら、泥酔した女性を見慣れてしまっていた。当然、少しも嬉しくない。


「‥‥‥はいはい、ちゃんと聞いてますよ。ヤミルさんは本当に凄いですよね」


「! でしょ〜!? セレノアくんは、やっぱり見る目がある〜!!」


 そしてセレノアは、酔っ払いへの対応も心得ていた。


「誰の目から見ても、ヤミルさんは素敵です」


 心にも無いことを並べて、相手を褒める。

 これが酔っ払いに対して行う、セレノア流の世渡り術。冒険者時代に学んだ、いや勝手に身に付いた意識。


「尊敬してます、副隊長。これからよろしくおねがいします」


 相手が気持ち良くなるような事を、何度か呟くだけの簡単な仕事‥‥‥これを11歳の黒髪少年が考えているのだ。


「っ‥‥‥セレノアくんに乾杯っ!!」


 涙目で更にグラスを煽る彼女を見つめ、セレノアは乾いた笑みを浮かべる。


「うわ、えげつな〜。これは中々の天然ジゴロですね」


 シレーナが目を細めながら小さく呟く。そして机の中央にある肉を食べようと手を伸ばす。


「はい、どうぞ。味付けの好みは分からないので、これを」


 するとセレノアは先に手を伸ばして、肉を皿に取り分けて差し出す。しかも、端に置かれていた複数の調味料まで手渡して。


「あ、ありがとうございますー」


「僕の方が近かったんで。次からも取るんで言ってください」


 セレノアは淡々と話す。

 皿を受け取ったシレーナが、目を細めて息を吐く。


「‥‥‥これはなかなか。本格的に将来が怖いですよ」


「え? 将来?」


 セレノアは首を傾げて聞き返す。その反応に、彼女がますます息を吐く。


「セレノアくんって本当に良い子ぉ〜!!! 私と歳が離れてるのが惜しいわぁ〜!!」


「その発言は酔ってても気持ち悪いですよ、ロ○コン」


 身体をゆらゆら揺らすヤミルに対し、軽蔑の視線を向けるシレーナ。


「ロ○コンじゃないしぃ〜!!」


 拗ねたように口を尖らせる、26歳の独身。


(‥‥‥ロ○コンって、なんだ‥‥‥?)


 そして、貪欲に知識を吸収しようとするセレノア。


「だってぇ〜、私はぁ〜!!」


 ヤミルが身を乗り出して、不機嫌そうに口を開く。彼女が一方的に話して、セレノアとシレーナが空返事。それが何度も行われている。


「ーーー相変わらず悪絡みが凄いな」


 だが、今回は違った。男の声が場を包む。

 声の主は個室の仕切りを僅かに動かし、セレノアたちの前に現れる。


「ぁ〜! 遅いですよ隊長ぉ〜!!」


「あ、お父さん〜!」


「お前ら黙ろうか。特に後ろ」


 ヤミルとシレーナが漏らした言葉に、冷たく言い放つ男。無造作に乱れた茶髪と顎の無精髭、そして活力が無さそうな目が印象的。

 彼の登場に、セレノアは姿勢を正して口を開く。


「ーーーハーティアさん」


「おう、元気そうだな。ヤミルと仲良くなってるみたいで良かったよ、セレノア」


 アストリア王国騎士団、五番隊隊長ハーティア。


 10歳のセレノアを、アストリア王国騎士団に推薦した男‥‥‥というのが表向きの理由。


「あの、少し疲れてるみたいですね」


「ああ、色々やる事が多くてな」


 本当は‥‥‥刑を受けそうになった金髪少年を、別人へ偽装した張本人。



「なんで早く来てくれなかったんですかぁ〜!?」


「悪い悪い。ちょっと雑務がな」


 彼は飄々と話しながら、頬を膨らませるヤミルの隣に腰を下ろした。

 セレノアの隣にはシレーナ、対面にヤミル。


「さてと、久々に俺も飲もうかな」


 そして対角線の位置に座る、ハーティア。


(隊長と副隊長が揃った‥‥‥)


 セレノアは2人を見つめて、少し身体を硬直させる。自分が所属する部隊の、隊長と副隊長が初めて同じ場所にいる。


「さぁ、ここは私の奢りなので好きなだけ飲んでくださいね〜!!」


「お前はもう少し抑えろよ。ていうか奢りでいいのか?」


「もっちろ〜ん!! ほら隊長もグイッとイッちゃって〜!!」


 だが‥‥‥片方が泥酔している状態で。

 隣のシレーナは右手を口に当てて笑っている。


「‥‥‥とまぁ、セレノア。王国騎士の生活には慣れてきたか」


「あ、はい。シレーナさんが丁寧に教えてくれるので」


 話しかけてくるハーティアに対し、セレノアは気兼ね無く返事する。その時、店員がハーティアの前にグラスを置いた。


「そうか。それなら良かったよ。正直、こいつを教育係にして不安だったんだ」


 軽く手を上げて微笑んだハーティアが、赤く満たされたグラスを手に持つ。


「それは聞き捨てなりませんね〜お父さん? この私のどこに不安があるんですか〜?」


「そういう所だよ‥‥‥ふぅ、美味いな」


 目を細めるシレーナに軽く返しながら、彼は静かに笑う。名残惜しそうに、グラスを見つめて息を吐く。


「こらっ、お父さんって言わないの!!」


「しつこいですね〜副隊長。私の勝手でしょ〜?」


「しつこいのはどっち!?」


 するとヤミルとシレーナの小言が絡み合い、やがて言い合いに勃発。

 しかし、2人は斜めの位置で座っているため、対面はしていない。


「‥‥‥隊長っ!! 私と代わってくださいっ!」


 ヤミルは無理やりハーティアの前を通り、どっしりと座り込んでシレーナと対峙。


「どうします‥‥‥?」


「ほっとけ。こいつらにとっては日常茶飯事だ」


 セレノアは呆れて目を細める。

 それは、仕方なく場所を変わったハーティアも同じだった。


「その舐めた態度、いい加減やめなさい!!」


「いい加減酒をやめたらどうですぅ〜!?」


 セレノアは小さく息を吐いた。

 隣の喧騒が、嫌でも耳に入ってくる。


「‥‥‥まあ年齢的に考えて、お前の教育はシレーナに任せたんだ。10歳のお前に、26のヤミルはなぁ」


「シレーナさんって、確か14歳でしたよね」


 セレノアは呟き、ハーティアを見つめる。隊長の彼と話す機会は、あまり無かったため新鮮だった。


「まあ、年齢だけが理由じゃねえけどな。シレーナにとっても、お前といる必要があると思ってよ」


「? あの、それってどういうことですか」


 セレノアは思わず聞き返してしまう。


「んんぅ‥‥‥それはだなぁ」


 すると、両腕を組んで唸り始めたハーティア。

 セレノアは気になって、彼の言葉を待ち続ける。


「うっ!?」


「がっ!?」


 だが突然。

 セレノアとハーティアは同時に目を見開いて呻き、机を凝視する事になる。


「聞こえましたよぉ〜?」

「隊長のバカっ!!」


 2人は同時に、後頭部を勢いよく叩かれたのだ。それも、精鋭である王国騎士の彼女たちに容赦無く。


「一昨日が誕生日で15になりましたけどぉ〜!?」

「ね、年齢を声に出さないでくださいっ!!」


 それぞれ、シレーナとヤミルによる怒りの一撃だった。失言を聞き取った2人の行動は、まさに阿吽の呼吸といえる。さっきまでの口喧嘩は幻だったように。


「‥‥‥ごめんなさい???」


 そしてセレノアは訳が分からないまま、謝る事になる。だが語尾が疑問系になるほど、納得は当然していない。突然殴られて、何も思わないわけがない。


「おい‥‥‥勝手に喧嘩始めといて、勝手に割り込んで来るなよ」


 だが、ハーティアは一段違った。頭を掻きながらゆっくりと顔を上げ、無表情で小さく呟く。


「分かってんのか‥‥‥お前ら?」


 見開いた彼の両目は、まるで漆黒。全てを飲み込んでしまいそうなほど、黒く澄んだ瞳。


「ぇっ、あ、あのっ、別に私はセレノアくんに対してで〜!」


「た、隊長っ‥‥‥私はっ、えっとそのっ」


 すると、シレーナと泥酔のヤミルが慌て出す。どちらも不自然に声が弾み、上擦っていた。


「‥‥‥次は。ねえからな」


 ハーティアの簡潔な言葉が、決定的だった。



「隊長って本当に優し〜! お、男前〜!!」


「は、はひッ!! ありがとうございまふッ!!」


 彼女たちが姿勢よく座り始め、膝に置いた両手を震わせる。

 セレノアは生唾を呑んだ。


(この2人がこんなに怯えて‥‥‥ハーティア隊長って、やっぱり凄い人なんだ)


 そしてハーティアという男を、特殊な一面から納得してしまう。


(それに、こんな場の収め方もあるんだ‥‥‥)


 そしてセレノアの中で、なぜか酔っ払った人の対処法が1つ増えた。

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