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勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜  作者: とい
2章 王国騎士の日々

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第36話 五番隊副隊長

「副隊長‥‥‥!」


 セレノアは目を見開く。

 アストリア王国騎士団、五番隊副隊長ヤミル・ヤロミールを凝視する。


「見ての通り、融通が効かない堅物ですね。あと26歳、独身〜」


「最後、言う必要ありましたか?」


 シレーナの言葉に対し、ヤミルが眉を顰めてピシャリと言い放つ。


「‥‥‥あの、ヤミルさん」


 セレノアは少し声を震わせつつ、副隊長の彼女に尋ねる。


「なんでしょうか」


「家名があるって事は、貴族ですよね‥‥‥?」


 淡々と反応するヤミルに対し、意を決して話を切り出す。


「ええ。ヤロミール家は、爵位で言うと子爵です。それが何か」


「‥‥‥僕たちは平民なのに、どうして」


 孤児院育ちの自分。

 先輩のシレーナ、隊長のハーティア。

 平民出身が多い部隊に、なぜ貴族の人がいるのか。


『せっかく貴族の世界に、片足だけでも踏み入れたんだ。騎士としての人生を、存分に謳歌してくれ』


 そんな言葉を思い出し、セレノアは眉を顰める。

 そして、貴族のヤミルに疑いの眼差しを向ける。


「‥‥‥なるほど。話が読めてきました。一番隊のルーベルあたりに、何か吹き込まれましたね?」


 するとヤミルがはっきりと呟き、真っ直ぐ見つめてくる。


「あんな傲慢貴族と一緒にしないでくれますか。他人を見下してる暇があるなら、走り込みでもしてます」


「っ‥‥‥」


 セレノアは目を見開き、腕を組んで佇む彼女を凝視する。


「体力ない人が言うと、あまり説得力が〜」


「黙りなさい」


 口を挟むシレーナに喝を入れ、ヤミルは咳払いして話を再開する。


「貴族が全員、平民を馬鹿にしていると思わないように。あなたまで無意味な身分差別に囚われますよ」


「ヤミルさん‥‥‥」


 セレノアは思わず彼女の名前を呟くとーーー勢いよく頭を下げた。


「ーーーごめんなさいっ!!」


 自分が思っていた、貴族の印象。

 全員がそうだと無意識に思い込んでいたからこそ、ヤミルに無礼な事を言ってしまった。


(僕はなんて失礼なことをっ‥‥‥!!)


 その失敗と後悔で胸を焼き、謝罪せずにはいられなかった。


「‥‥‥頭を上げなさい」


 だが、ヤミルは気にせず口にした。


「でもっ」


「いいから上げなさい」


 そう言われ続け、セレノアはゆっくり頭を上げる。


「過ちを認め、正す事。人生はその繰り返しです」


「っ‥‥‥!!」


 セレノアは感銘を受け、少し俯いて唇を噛む。

 さっきの自分の発言を、ますます恥じた。


「あと、敬語はやめてください。同じ部隊の仲間なんですから」


 続く彼女の言葉に、セレノアは思わず目を見開いて一歩前に出る。


「えっ、でもヤミルさんは副隊長でーーー」


「関係ありません。同じ部隊の同僚なんですから」


「同僚‥‥‥で、でもヤミルさんは敬語で話してるのに」


「私のは癖です。家庭環境の影響で」


「‥‥‥私も敬語で話してますけどね〜」


 またしてもシレーナが口を挟み、意地の悪い笑みを浮かべる。


「このように、生意気な態度を取る子もいるので気になさらず。毎回緊張されても困りますし」


 ヤミルが相手をせずに話を続ける。

 彼女の態度は、まさに動じない大人の姿。


「‥‥‥すいません。それはできません」


 セレノアは視線を下げ、慎重に言葉を返した。

 それを聞いた、ヤミルの眉が微かに下がる。


「副隊長のヤミルさんには、敬意を持ちたいと思ったんです」


 だが、セレノアは少しも引かずに意思を貫く。

 さっきの失言を戒めるために、自分自身を律する。


「‥‥‥会ったばかりで、よくそんな歯痒い事を言えますね。じゃあ、あなたの好きにしてください」


 するとヤミルは微かに目線を逸らしながら、ぶっきらぼうに呟く。


「シレーナ。教育係として、彼を五番隊の一員として育てなさい」


「言われなくても分かってますよ〜」

 

 シレーナへお灸を据えた後、彼女は踵を返して歩き始める。


「こう見えて、私は期待してるんです。隊長が認めた、最年少のあなたを」


 ヤミルはそう呟いて、歩いていく。


「ヤミルさん‥‥‥はい!」


 セレノアはしっかりと返事をして、彼女の背中を見つめる。すると、彼女の足が少しだけ止まった。


「あと、今晩は空けておいてください。シレーナ、夜7時にいつもの場所に。この子も連れてきなさい」


「ぇ‥‥‥マジですかー? あまり遅くなっちゃだめですよー?」


「あなたたちを夜更かしさせるわけがないでしょう?」


 シレーナの小言も跳ね返しながら、彼女は淡々と歩いて行った。今度こそ、彼女は去っていった。


(僕が所属する五番隊の副隊長は、大きい人だ‥‥‥すごく実直で信頼できるかもしれない)


 セレノアは彼女に向かって、頭を下げた。

 副隊長、ヤミル・ヤロミールへの敬意を示して。


「はぁ‥‥‥セレノアくん。あの人に畏まる必要は無いですよー?」


「なんでですか。副隊長は真面目で誠実そうな人じゃないですか」


「あ〜‥‥‥まぁ、そうですね。見た方が早いですね」


「?」


 その後。

 セレノアは彼女の発言に気になりながらも、普段通り訓練を再開する。



 そして、約束の時間が過ぎて‥‥‥夜8時。


「ーーーちょっとぉ、はなし聞いてますかぁ!!?」


 小さな個室で、大きな声が響き渡った。

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