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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
2章 王国騎士の日々

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第35話 新たな生活

 黒髪少年‥‥‥セレノアの新たな生活が始まる。

 最年少の新人騎士として、少なからず注目を集めながら。


「若干気づいてるとは思いますが、左肩の紋様にある剣の色は、隊によって違います。私たち五番隊は灰色の剣ですね」


 王国騎士の規則や慣わしを、最初に学ぶ。

 セレノアの教育係は、先輩であり元最年少の14歳、シレーナ。


「あなたや私が来てるジャケットは、必要最低限の制服です。当然、上に鎧を身に付ける王国騎士もいます。ですがその場合、外側に身に付けるものにはジャケットと同じ紋様を刻んでおく必要があります」


 右肩と左肩を交互に指差ししながら、彼女は淡々と話す。


「あ、ちなみに女性はスカートかズボンか選べます。私は見ての通りスカートです。私の可愛さが更に引き立ちますからね〜」


 時折、あまり知る意味が無さそうな話をドヤ顔で加えながら。黒のスカートを両手で摘んで、ニヤァと笑っている。


「そうなんですね」


 セレノアはどんな事でも、真面目に聞き付けた。


「まず騎士は最低限、1つの武器は扱えるようになる必要がありますー。それは標的を仕留める殺傷能力を、少しでも高めることが必要だからです」


 そして時間の大半は、教育係シレーナの講義。


 セレノアは一般や魔術など、貴族なら既に身についているような部分が当然欠けていた。

 そして、彼女は意外にも丁寧に教えてくれる。


「剣、槍、斧、短剣など武器の種類は問いません。自分で好きなのを選んでーーー」


「剣がいいです」


 セレノアは即答した。少しも迷わなかった。


『まずはいつも通り、素振りから始めよう。正しい動作で一回一回、丁寧に振ることが大切だ』


 脳裏に思い浮かぶ‥‥‥ノールとの剣術修行。

 まだ、知ったばかりである剣の道。

 セレノアは他の武器を選ぶ事を、躊躇った。


「‥‥‥まあ、それでいいと思いますよ〜。まあ、カイン・フェリクスに押し負ける程度だと、全く足りませんが」


「う‥‥‥」


 セレノアは正論に呻きながらも、彼女の話を熱心に聞き続ける。


「はいその気持ちを前へ進めましょう〜。騎士なんて上手くいかないことの方が多いですから〜」


「‥‥‥はい」


 拘りの強いシレーナの講義に、セレノアは毎回相当な疲労を残す事になる。



「はい詰めるのが遅いー」


「づッ!?」


 そして時折、シレーナとの武術訓練も行われた。

 シレーナは短剣を扱う。彼女は主に実戦形式で、身体に技術を叩き込もうとしていた。


(距離感が掴めない‥‥‥!!)


 剣の自分に対し、短剣の彼女。当然、武器のリーチが異なる。セレノアは短剣の対処に困惑していた。

 セレノアの剣撃を、いとも簡単に捌くシレーナ。


「そもそも同じ武器種相手に、戦うことは多くありませんよー? 短剣相手でこれほど動きが硬いなら、まだあなたの剣は、実戦では通用しないですね〜?」


 彼女はそう言いながら剣筋を全て見切り、床を蹴って距離を詰める。


「はい、おしまい〜」


「っ!」


 やがてセレノアは、首に短剣を向けられて動けなくなった。


「短剣やナイフ使いに、懐に入られたら全ての終わりです。最悪の場合は、剣を捨てて素手で戦ってください。


 シレーナが短剣を戻しながら、淡々と話を続ける。


「自分が最も得意な戦闘術を、状況に応じて扱う。それが戦いの常識です」


「え、素手でもいいんですか? だったら、この訓練は素手でィっ!?」


 セレノアは続きを言おうとしたが、短剣の柄部分で額を殴られる。


「まずは使い分け出来るくらい、剣の腕を磨きなさい。あなたのような人間は、他の馬鹿騎士みたいに型に嵌ってはいけませんよ?」


「‥‥‥」


 彼女の諭すような発言に、セレノアは何も言わずに俯く。拗ねているわけではない。


『でも剣だけに囚われるな。選択肢を増やしても、それを有効に使えなかったら雑念になる』


 剣士ノールの言葉を、無意識に思い出していた。

 何も言えずに別れる事になってしまった、恩師である冒険者3人の顔がーーー。


「はい甘い」


「っ!?」


 すると突然、セレノアは胸ぐらを掴まれる。そして、勢いよく投げ飛ばされた。


「痛っ!?」


 床に叩き付けられて、声が漏れる。


「なに隙だらけで話を聞いてるんですか。あなたは敵に話しかけられたら棒立ちになるんですか? どんな時でも決して油断しないように」


「だ、だってシレーナさんだからっ‥‥‥!?」


 セレノアは背中を摩りながら、必死に上体を起こす。

 するとシレーナが目を丸くし、息を吐いた。


「はぁ〜‥‥‥なんですか口説いてるんですか? はっきり言っておきますが、無駄ですよ。私の目に適う男なんてーーー」


「え、何の話ですか。シレーナさんは先輩だから警戒してなくて‥‥‥」


 セレノアも目を丸くして声を漏らす。彼女の言っている事が、よく分かっていなかった。


「‥‥‥は???」


 その後、静寂が訪れる。


「‥‥‥あはははは、私の動揺を誘おうとしても無駄ですからぁ〜!!?」


「だから何がーーーぶっ!?」


 セレノアは今も分かってなかった。そして勢いよく殴りかかってくる、笑顔のシレーナ。

 そんな彼女に恐怖しながら、セレノアは反射的に迫り来る拳を躱す。


「はい隙だらけ〜!!」


「ぐぉぁっ!?」


 そして、セレノアは背中を勢いよく蹴飛ばされた。




 そんな生活が、1ヶ月を過ぎた。


「ーーーこんなに!?」


 セレノアは声を出してプルプルと震える。

 その右手には、金貨が入った袋。


「んふふ。新人といっても王国騎士。実はエリート集団なんですよ〜?」


 自信満々に笑うシレーナ。


(これならっ‥‥‥王立学院の学費、なんとか貯められるかもっ!!)


 セレノアは更にやる気を漲らせる。金貨150枚は今も遠い道。だが、決して不可能な距離じゃない。


「ちなみに、実績を認められたら給料も増えますよ〜? 守銭奴のセレノアく〜ん?」


「ほんとですかっ!?」


「いや少しはツッコミなさいよー」


 彼女の言葉に、セレノアは首を傾げながらも日々を過ごしていく。



「はぁっ、はぁっ‥‥‥あの、シレーナさん」


「何でしょう。無駄口叩く余裕があるなら休憩しなくてもいいですかね?」


「五番隊って、僕とシレーナさんとハーティアさんの3人だけ、ですか?」


 訓練の間。

 仰向けに倒れるセレノアは、休憩しながら質問する。


「まさか、そんなわけ。あと3人いますよ?」


「3人‥‥‥どんな人ですか?」


「ぁ〜‥‥‥まあ会ってからのお楽しみです。口で説明するより早いでしょうし」


「‥‥‥」


 彼女の返答に、納得がいかない。

 もはやシレーナの言葉の半分は、聞かなくてもいい事がセレノアの中での認識になっている。

 気になる事は何でも質問し、教育係の彼女に小言を言われるのが習慣になっていた。


「ーーー2人とも、何をやっているのですか」


 すると、はっきりと別の声が聞こえる。

 現れたのは‥‥‥どこか緊張感を漂わせる、高身長の女性。


「!」


「げっ」


 セレノアは咄嗟に起き上がり、シレーナは眉を顰めて声を漏らす。

 そんな2人に対し、女性は目を細めて一瞥した。


「シレーナ、何をのんびりしているのですか。早く彼を一人前に育て上げなさい」


「‥‥‥はーい。申し訳ありませ〜ん」


 シレーナが両手を振り、目を閉じて肩をすくめる。その態度は、相手をどう思っているか透けて見えた。


「あ、あの‥‥‥あなたはいったい」


 セレノアは立ち上がり、初対面の女性を上から下まで確認する。


 茶髪のポニーテールと、眼鏡の奥に見える切れ長の目が印象的。

 背は170近くあり、細身でスラッとした綺麗な体型。そして何より、王国騎士の制服を身に付けている。左肩の紋様は、灰色の剣。


(大人の女性だ‥‥‥)


 セレノアは端的に、そう感じていた。

 それで思い浮かぶのは、かつて仲間だった冒険者フィーア。彼女も綺麗で、何より明るい女性だった。


「‥‥‥シレーナ。私の事を伝えていなかったのですか?」


 だが、目の前の女性は‥‥‥雰囲気が全く違う。

 冷たく凛として、落ち着いている。

 淡々と、シレーナを詰問している。


「だって、忙しいですし〜」


「あなたが教育係なんて、やはり隊長の人選ミスでしたね」


「お父さんのこと悪く言わないでください〜」


「‥‥‥その戯言、いい加減にやめたらどうです?」


 仕事がデキる、大人の女性。そんな印象を受けた。

 セレノアは緊張のあまり、身体が硬直する。


「‥‥‥こほん」


 その視線に気付いたのか。

 女性が咳払いして、まっすぐ目を合わせる。


「初めまして、私はヤミル・ヤロミール。五番隊の副隊長です」


 ヤミル・ヤロミール。

 アストリア王国騎士団、五番隊の副隊長が現れた。

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