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勇者の隣は、茨道。〜最愛の少女の隣に立つために、弱肉強食の異世界で必死に足掻く少年〜  作者: とい
1章 孤独からの始まり

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第23話 汚い奴が勝つ世界

「ふっはぁぁッ!!!」


 プージが勢いよく大剣を振り下ろす。

 かなりの重量であるはずの大剣を、彼はいとも簡単に操っている。


「っ!!」


 アベルは臆する事なくギリギリで躱し、一歩踏み込んで彼の懐に入り込む。


「それはさっき見せただろ!?」


 だがプージが、大剣を手放した。そして右の回し蹴りを繰り出した。


「っ!?」


 アベルは側面からの鋭い蹴りを左腕で防御するが、勢いを殺せずに後方へ吹き飛ぶ。


「ちッ」


 アベルは背中から壁に激突し、思わず舌打ちする。そして顔を上げた瞬間にはーーープージの前蹴りが眼前に迫っていた。


「ッ!?」


 アベルは身体を横に倒しながら転がることで、迫り来る右足を回避。直後、プージの前蹴りが壁の一部を粉々に破壊する。


「やべっ、抜けねえ!?」


 するとプージは右足が壁に嵌ったのか。

 慌てた様子で声を出す。


(今だ!!)


 すぐに立ち上がったアベルは、すかさずその隙を突こうと駆け出す。


「ーーーなんてなぁ!?」


 だがアベルの死角からーーー落ちていたはずの大剣が、勢いよく投げられる。

 プージが右足を簡単に引き抜き、右手で大剣を投擲物のように投げたのだ。


「っ!?」


 虚を突かれたアベルは、足元に飛んでくる大剣を反射的に飛び越えて躱す。


「素直でいいガキだ!!!」


 だが行動が読まれていたのか、プージが勢いよく手を伸ばす。跳躍したアベルは、手を伸ばしてくる彼の右腕が迫る。まるで、引き寄せられているように。


「ゔっ!!」


 そして、乱雑に首を掴まれてしまった。


「ぐっ!?」


 直後、アベルの口から声が漏れる。

 プージが右手首を絞めながら、左手で何度も何度も殴り付けてきた。

 9歳のアベルと大男のプージでは、あまりにも体格差が大きすぎた。首を掴まれて持ち上げられては、子どものアベルは何もできない。


「がっ!!? ぐっ、!?」


 それでもアベルは懸命に両手を胸の前に寄せ、プージの殴打を防ごうとする。だがプージがそれを嘲笑うかのように、アベルの首を締め上げた。


「う、ぐ‥‥‥ぎぃ‥‥‥!!」


 アベルは苦悶で顔を歪ませながら、口から血や唾液が垂れ落ちる。その様子を、プージが息を吐きながら見つめていた。


「いくら強いといっても、所詮ガキだ。俺とお前じゃ、力の差が余りにも違う。努力だけじゃあ、どうしようもねえ事もあるんだよ」


 魔力による身体強化術が相当な練度だとしても、アベルの元の身体能力は9歳の少年である。

 まだ成長期を迎えていない身体で、大男のプージと戦うのは限界があった。


「戦いってのはタマの取り合いだ。どんな事をしても生き残った方が偉い。心の汚ねえ奴が勝つ世界なんだよ」


 まるでプージが、誰かに授業でもしているかのように呟いた。それは、9歳のアベルを評価しているようにも見えた。


「アベルくんッッ!!!!」


 アリシアの悲痛な声が、室内に響き渡る。

 身長も違う、体重も違う、手足の長さも違う‥‥‥あまりにも、2人には力の差がありすぎる。


「‥‥‥」


 アベルは次第に、身体を脱力させる。

 それはもう、生命の危機であることを示しているかのようだった。


「9歳で傭兵を数人倒したんだ。無鉄砲に突っ込んでこなかったら、輝かしい未来が待ってただろうに。結局、バカは早死にするわけだ」


 プージが溜め息を吐き、首を絞める右手に力を加え始める。


「アベルくんっ!!」


「死ね死ねっ!! 首を折られて死ねっ!!」


「死体の処理も任せていいか? 報酬は上乗せしよう」


 その光景を見ているアリシアが泣き叫び、リパルとルバリは嬉しそうに笑う。

 彼らはまるで貴族の遊戯かのように、アベルを見て楽しんでいた。


「ったく、気分悪いぜ」


 そんな空気に、プージが目を細めて愚痴をこぼす。



        「‥‥‥【氷の球(アイスボール)】ッ!!!」


 次の瞬間。

 アベルは目を見開き、両手を前に突き出す。


「ーーーごぁッ!!?」


 そして魔術式から放出した小さな氷が‥‥‥プージの左目に命中した。


「ガァァァァッ!!? このガキがぁぁぁッ!!!」


 プージが絶叫しながら両手で目を押さえる。

 アベルの首を絞めていた右手も、無意識に解放していた。


「ゴホッ!! ゲホっ‥‥‥!!」


 アベルは辛うじて床に着地すると、何度も咳き込みながら両手に魔力を集める。


「僕だって‥‥‥目的の為には手段を選ばない人間だ!!!」


 そしてアベルは堂々と言い放ち、迷いなくプージヘと突っ込んでいく。


「上等だぁぁ!!! これくらいのハンデはやってやるよ!!?」


 プージが大声を出して顔を上げると、左目を閉じたまま身構える。だが、アベルの姿は無い。


「ーーーッ!!!」


 アベルは彼の左目の方へ飛び込み、死角に入り込んでいた。

 そして間近の壁を勢いよく蹴り、三角跳びの要領で‥‥‥プージの頬に右拳をめり込ませる。


「ぐぉッ!?」


 呻き声と共に、プージの身体がよろめく。

 アベルはその隙を見逃さず、距離を詰めて鳩尾に左拳を潜らせる。


 ドンッと鈍い音が、室内に響き渡った。


「このッ、クソガキが!!!」


 怒り狂ったプージが両手を広げ、掴み掛かろうとした。


「ーーーらッ!!!」


 アベルは臆せず跳躍し、膝蹴りをぶち込む。


「ガッ!?」


 魔力で強化した膝がプージの顎を穿ち、彼を後方へ浮かせる。


「がッ!?」


 仰向けに倒れたプージが上体を起こした瞬間、アベルは前蹴りを放つ。まるで、プージの動きを読んでいたかのように。



「クソがっ!!!」


 背中から壁に激突し、声を荒げるプージ。


「ーーー!!」


 そして顔を上げた彼の視界にはーーー剣が映っていた。それは最初に倒された傭兵の剣。

 まさに、彼自身がやった事が、返ってきている。


「舐めるなっ、クソガキが!!!」


 プージが声を荒げ、顔の前に左手を割り込ませる。手のひらから血が溢れ出すが、気にせずに剣を受け止めた。


「ーーーぐぁぁぁッ!!!!?」


 だがその直後、大量の出血と共にプージが叫ぶ。


「ぁぁぁぁぁッ!!!!」


 アベルは大声を出しながら、落ちていた槍を手に持ち‥‥‥彼の左肩に突き刺したのだ。

 まるでその場に固定するかのように、プージの肩を貫いた槍は、壁をも貫いていく。

 これでプージは、槍を抜かない限り動けない。


「汚い奴が勝つんだろ!?」


 アベルは勢いよく飛びかかり、右拳を振り下ろす。

 そして、動けないプージを一方的に殴り始めた。

 魔力で強化した両手で、何度も何度も殴り続ける。


「ガっ、この、ガキっ‥‥‥」


 肩からの大量の出血と激痛、そして精神の消耗。


「ふざ、け‥‥‥」


 やがてプージは自分の意志とは関係なく‥‥‥意識を手放した。



「ハアッ。ハアッ。ハァッ、ハァッ‥‥‥」


 激闘を制したアベルは、座り込んで呼吸を整える。

 だが、その時間はごく僅かなものだった。


「‥‥‥‥‥‥あと、2人」


 そしてアベルは満身創痍の身体を奮い立たせて、残る2人を睨みつける。


「ひ、ひいッ!!」


「あ、悪魔の子だ‥‥‥」


 嫡子のリパル、当主のルバリ。

 2人の親子は全身を震わせ、淡々と歩いてくる金髪少年に怯えていた。

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