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勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜  作者: とい
1章 孤独からの始まり

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第22話 後悔なく

「‥‥‥アリシアのお母さん。もしかしたら、アリシアを見つけ出せるかもしれません」


「ほ、本当ですかっ!?」


 アベルの提案に、アリシアの母親が目を見開いて詰め寄る。


「魔力の身体強化術で、嗅覚を可能な限り引き上げるんです。以前に少しだけ試したことがあるので、それよりも強化すれば‥‥‥」


 その後。

 アベルはアリシアの母に連れられ、彼女たちが暮らす家に足を運ぶ。

 そしてアリシアの部屋に招かれ、ベッドに置いている小さな熊のぬいぐるみを差し出される。


「これ、娘がいつも抱いて寝ているものなんです。どうでしょうか‥‥‥」


「お借りします。後で彼女には謝りますので、どうかお母さんも許してください」


「そんな、とんでもありませんっ。娘を見つけてくれるならっ‥‥‥」


 そんな言葉にアベルは穏やかに笑う。

 そして意識を集中させ、体内の魔力を鼻だけに集めていく。魔力による身体強化を、鼻だけに施す。


「はぁぁぁぁ‥‥‥」


 そして息を限界まで吐き‥‥‥ぬいぐるみに鼻を押し付けて勢いよく匂いを嗅ぐ。


「ぐっ!? うぐっ‥‥‥」


 アベルは強烈な匂いを感じ取り、一瞬だけ呻き声を出す。これは、アベルの今の嗅覚が鋭敏になっているだけで、普通なら匂いなんて感じない。


「スンっ‥‥‥スン‥‥‥」


 その後、落ち着いた様子で数回嗅ぐと‥‥‥アベルはぬいぐるみを離した。


「‥‥‥こっちです」


 アベルは家の外に出て、何度も鼻を鳴らし始めた。


「あ、あの。大丈夫ですか‥‥‥?」


 彼女もその後について行く。

 時折、アベルが頭を抑える姿を見つめながら。


「‥‥‥近い」


「えっ」


 やがて、街中を歩き始めて数分。

 アベルは前を見据えて、足を止めた。


「‥‥‥ここだ。間違いない、この屋敷の中にいます」


 アベルは前方を指差す。

 その指先を見たアリシアの母が、突然目を見開いて手で口を押さえた。


「そんなっ‥‥‥!! この街の有力貴族がっ、アリシアをっ‥‥‥!!」


 彼女の反応から怒りではなく、不安や恐怖を感じられた。


「有力貴族‥‥‥?」


 アベルは気になって目を合わせると、彼女が話し出す。


「‥‥‥貴族は、エルフを奴隷にする事が多いんです。権力と財力がある事から、まるで所有物のように‥‥‥ああ、どうやって助ければいいんでしょう‥‥‥」


 彼女の顔は青ざめており、呼吸を不安定になっている。そんな彼女に対し、アベルは眉を顰めて話しかけた。


「‥‥‥アリシアのお母さん。1番信用できそうな人に、助けを求めてください」


「えっ‥‥‥?」


「助けてくれそうな人に、心当たりは?」


 アベルは念押しして尋ねた。


「それだと、アストリア王国軍です‥‥‥でも時間がかかります」


「大丈夫です。僕が絶対に、アリシアを助け出しますから」


 アベルは意識して優しく笑う。少しでも、彼女の不安を取り除くために。

 そしてアベルは‥‥‥屋敷前の門へと歩いていく。


「ま、待って!! 相手は名門貴族なんですよ!? あなたが行けば、大きな罪を背負う事になります!!」


「‥‥‥だから?」


「娘のためとはいえ、あなたにそんな事はっ‥‥‥!」


 アリシアの母が、大声を出して呼び止める。

 自然と涙が溢れ出し、アベルを見つめていた。


「‥‥‥アリシアは、初めての友達なんです。彼女を奴隷になんて、絶対にさせない。貴族の権力なんて、僕には全然分かりませんし」


 アベルは淡々と話して振り返ると、膨大な魔力を身体から湧き上がらせた。

 アリシアの母が、目を見開いて息を呑む。


「だから、アリシアのお母さん‥‥‥僕が欲しい言葉は謝罪じゃなくて、もっと別の言葉です。それが、僕の力になります」


 アベルは少し寂しげに笑い、前を見て歩き出す。


(セリカなら、絶対に友達を見捨てない。彼女と会う時に、恥ずかしくない自分でいたい)


 屋敷に乗り込む決断を、アベルは後悔なく選ぶ。


「ーーーアベルさんっ!!」


 背後から聞こえる声に、アベルは足を止めた。


「娘をっ、どうかよろしくおねがいしますっ‥‥‥!!!」


 アベルは彼女の意思を受け止め、気持ちを振り立たせる。そして、前を向いて門を見つめる。


「‥‥‥力が沸いてきた。応援って、こんなに嬉しいものなんだ」


 アベルは無意識に声を垂らしていた。

 自身の感情の高揚を自覚しながら、ふと鼻を押さえた。


「っ‥‥‥やっぱり、こうなるか」


 そして溢れ出る鼻血を抑えつつ、アベルは勢いよく走り出した。



 ◆◇◆◇



「‥‥‥ごめん、遅くなった」


 屋敷の室内へ足を踏み入れ、アベルは謝罪の言葉を呟く。椅子に縛られ、拘束されているアリシアを見つめて。


「アベル、くん‥‥‥その血っ」


 アリシアの顔が青ざめ、涙を溢れさせる。

 そんな彼女の視線は、アベルの額と鼻に向いている。


「そ、そいつはもう満身創痍だ!! 早くやれ!!」


 すると、貴族の少年リパルが指を差して息巻いた。

 傭兵の1人が腰の剣を抜き取って、勢いよくアベルに襲いかかる。


(まさかこんな形で、人を殴る経験をするなんて)


 アベルは少し自虐気味に一瞬微笑む。

 迫り来る相手の剣を、距離を詰めながら躱す。


「はあっ!!」


 自分の右手を勢いよく前に突き出し、高出力の魔力で強化した。


 ドンッ、と低く籠った音が室内に響く。


「グッ!? が、は‥‥‥」


 やがて鳩尾を抑えた男が、胃液を吐いて昏倒した。


「はぁ!? 子供相手にやられて恥ずかしくないのか!? 殺せ!! 殺した奴には報酬を上乗せしてやる!!」


 当主ルバリの言葉を聞き、2人の傭兵が息巻く。

 我先にと動き出し、それぞれ槍と斧を振り下ろす。


(とりあえず、様子見)


 アベルは後ろへ跳躍して距離を取り、振り下ろされた槍と斧を躱す。


「ッ!!」


 そして魔力で強化した両足で床を蹴り、高速で距離を詰める。

 2人の傭兵が武器を振り下ろした直後に生まれた隙を突き、懐へ入り込む。


「らッ!!」


 そしてアベルは右拳を、上に勢いよく突き出しながら跳躍する。


「ぐごっ!?」


 鋭く繰り出した右拳のアッパーが、傭兵の顎に直撃。彼は衝撃で、天井を見つめながら身体が浮く。

 その光景を目の前で見た、もう1人が硬直する。


「シッ!!!」


 アベルは空中で身体を捻って‥‥‥反動を付けた回し蹴りを、もう1人の傭兵の頭に直撃させた。


「ぶぐッ!?」


 男が呻き声を出しながら、後方へ身体が浮く。

 アベルは軽やかに身体を捻り、空中で体勢を立て直す。


「うごっ」


「ぅがっ」


 そして‥‥‥アベルの着地と、2人の呻き声が重なった。


「ひ、ひぃ!!!」


 リパルが顔を引き攣らせながら、必死に壁際へ下がる。


「お、おい!! なんとかしろプージ!!!」


 当主ルバリは更に焦った様子で、最後の1人となった傭兵に指示を出す。


「ハッ、焦んなって。俺をこんな雑魚3人と同じに思われてるなら、心外だねぇ」


 プージと呼ばれた傭兵は、自分の坊主頭に手を置いて不敵に笑う。そして、背中の大剣を右手に持つ。


「さあボウズ‥‥‥この俺を倒せるか!!?」


 プージが意気揚々と床を蹴り、距離を詰めていく。その速度は、さっきの3人とは比べものにならない。


「アベルくんッ!!!」


 アリシアが椅子に身体を軋ませながら、必死に声を出していた。


「ーーー倒す」


 アベルは睨みながら、滲み出す額と鼻の血を拭い‥‥‥臆さず突進していった。

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