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勇者の隣は、茨道。〜能力無しから、自分の力で望んだ未来を切り拓く〜  作者: とい
序章 茨の道

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第1話 アベルとセリカ

 小さな孤児院で暮らす、二人の子どもがいた。


「待ってよセリカ〜!!」


「早くしないと日が暮れちゃうよ〜!?」


 金髪の少年が、笑顔で走る銀髪少女を追いかける。生い茂った草を掻き分け、走り続ける。


「遅いよアベル〜!」


「せ、セリカが早いんだって〜!」


 懸命に後を追う6歳の金髪少年、アベル。

 先を走る彼女と身長が殆ど変わらない。


「だらしないわよ〜!?」


 軽やかに走る6歳の銀髪少女、セリカ。

 表情と言動の通り、天真爛漫。


「おねがいだから、足を止めて〜!」


「い〜や! 風が気持ち良いんだもんっ!」


 アベルにとって、セリカだけが唯一の家族。

 こうやって、息が切れても追いかけたいと思うのは、彼女のみ。


「それに追いかけられるの、なんか楽しい〜!」


「ぼくは楽しくないんだけど〜!?」


 何事でも率先して動くセリカに、置いていかれないようについていく。

 それが、アベルにとっての日常だった。



「あ、見えたよアベル!」


 やがて先を行っていたセリカが足を止め、笑顔で指を差す。

 アベルは肩を上下させ、ゆっくり息を整えながら、彼女の指先を目で追う。


「はぁ、はぁ‥‥‥ほんとだ。いつもより早く着いた」


 そこには‥‥‥辺り一面が花で覆い尽くされている、小さな花畑があった。


 チューリップ、バラ、ラベンダー、ネモフィラなど‥‥‥多種多様な花が、美しく咲き誇っている。

 ピンク、赤、薄紫、水色と言った様々な色が互いに存在を主張して、交差している。

 太陽の日差しで照らされた花たちは‥‥‥色を閉じ込めた宝石箱。


「やっぱりきれい‥‥‥! 孤児院がもっと近かったらいいのにっ」


 その光景に、セリカは目を見開いて両手を口に当てる。満開の花畑を、一心に見続けている。


「ここって、もう何度も見てるじゃん」


 だが、アベルは満開の花畑をあまり意識していなかった。彼女の隣で、空気を読まずに話を続ける。


「たまには騎士ごっこでもーーーうわっ」


 そう続きを言おうとした瞬間、天罰が落ちた。

 隣のセリカに、ぐいっと距離を詰められる。


「むぅ〜」


「え、どうしたんだよっ」


 アベルは仰け反って困惑する。

 眉を顰め、頬を膨らませているセリカ。

 不機嫌な気持ちが、顔いっぱいに溢れていた。


「生き物の命は有限なの! この花畑もいつ見れなくなるか、分からないんだから!」


 そして額を付けかねない距離で嗜める。まさに怒り心頭といった様子だ。

 その勢いに押され、アベルは一歩下がりながら口を開く。


「そ、そんなの分かってるよ。でも見た感じ、この花畑はまだまだ枯れなさそうだしーーー」


「何かを想う気持ちだって、ずっと変わらないとは限らないんだよ?」


 視線を下げて呟かれた、彼女の言葉。

 ひゅうひゅうと、冷たい風が通っていく。

 アベルは目を見開いて息を呑む。


「ど、どういうこと‥‥‥?」


 そしてアベルが無意識に自分の腕を掴む間も、セリカの言葉は続く。


「わたしたちがずっと一緒にいられるか‥‥‥分からないんだよ? 急に離れ離れになるかもしれない、何が起こるか分からないんだから」


 セリカが眉を下げて呟いた。風が少しずつ強くなる中、彼女の表情は少し暗い。


「‥‥‥嫌だ」


 無意識に、気持ちが口から溢れていた。

 アベルは彼女の両肩に手を置き、まっすぐ見つめる。


「ぼくは、セリカとずっと一緒にいたい。生まれた時から一緒に過ごしてきたのに、セリカがいない生活なんて‥‥‥ぼくには考えられない」


「っ、アベル‥‥‥」


 セリカが目を潤ませる。何かを待ち望むように、彼女の目が訴えてきている。

 アベルは溢れ出る気持ちを、抑えられなかった。


「たとえ離れ離れになっても、ぼくが必ずセリカを探して会いに行く!」


 目を見開く彼女を、まっすぐ見つめ返す。

 彼女の潤んだ大きな瞳に、緊張して口に力を入れた自分アベルが映る。


「セリカが嫌じゃなかったら、だけど‥‥‥」


 だが言い切る直前、アベルの声は次第に声が小さくなっていた。顔が熱くなるのを感じ、目を合わせられない。


「嫌なわけないッ!!」


 するとセリカが必死に、訴えるように抱き着く。

 顔を真っ赤にして、一筋の涙を流していた。

 風で花が靡く中、2人は見つめ合う。


「私も‥‥‥アベルとずっと一緒にいたい。あなたがいない人生なんて、耐えられない」


「セリカ‥‥‥ぼくもだよ」


 アベルはすぐに言葉を返しながら、彼女の背中を優しく摩る。ゆっくり、ゆっくりと。

 満開の花畑で、二つの色が混ざり合う。


「‥‥‥それ、ほんとう?」


 顔を上げたセリカが、息を止めて小さく呟く。今も涙を溢れさせ、頬は真っ赤になっている。


 アベルには、迷いは無かった。

 素直な気持ちを、素直に伝える。


「もちろん、本当ーーーゔぁっ‥‥‥!?」


 返答には適さない、呻き声が混ざる。


「ゔぐっ、がぁっ‥‥‥!!」


 アベルは歯を噛み締め、左肩を押さえ始める。


 ーーージク、ジク、ジク!!


 まるで、針を刺されたような鋭い痛みに襲われる。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ‥‥‥!!」


 跡が残りそうな勢いで左肩をギュゥゥッと押さえ込み、アベルは必死に激痛に堪える。


「アベルっ?」


 その様子を見た、セリカの口から声が漏れる。その声は控えめで、儚げだった。


「‥‥‥だい、じょうぶ。少し痛んだだけ」


 彼女に、余計な心配をさせてしまった。

 アベルは深呼吸しながら、しっかりと彼女を見つめて‥‥‥口を開く。


「ぼくは‥‥‥セリカが好きだ」


 そして、言いそびれていた想いを伝える。

 気持ちが昂ったからか、肩の痛みが消えていく。

 まるで、気のせいだったかのように。


「‥‥‥‥‥‥嬉しい。私は、ずっと大好きだからね‥‥‥」


 そう言った彼女の表情は、少し寂しげだった。

 その反応に、アベルは納得いかなかった。


「だから、ぼくもだって」


 念を押して、自分の気持ちを言い放つ。


「‥‥‥うん、そうだといいな」


 セリカが小声で呟き、何かを祈るように微笑む。


「この気持ちは、絶対に変わらないから」


 アベルにとって、セリカより大切なものは無かった。


「‥‥‥アベルは、変わったよ」


 目を細めて、小さく呟くセリカ。


「え?」


「さ、早く遊ぼ!」


 そして、セリカは笑顔で花の元へしゃがみ込む。


(いや、絶対に変わってない‥‥‥)


 アベルは心の中で強く呟いて、彼女の後に続く。



  『ーーでーーーの? 私たちはーーーーーー』



 すると突然、頭の中で響く言葉。

 アベルは一瞬だけ足を止め、小さく首を振って違和感を振り落とす。


「‥‥‥?」


「どうしたのアベル?」


「いや、なんでもない!」


 セリカを、いつ好きになったか‥‥‥覚えていない。


(この気持ちは、ずっと変わってない)


 だが記憶が無いからこそ、もっと昔から好きだったんだと自覚した。

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― 新着の感想 ―
花畑のシーン、とても印象に残りました。 綺麗な情景がイメージできますが、不穏な部分もあり今後の展開が怖いです笑 左肩の痛みも気になります。引き続き読もうと思います。
かなりせつないスタートになりそうですね。これから二人がどうなっていくのかをしっかり読んでいきますね。
すごく読みやすくて、気づいたら最後まで一気に読んでました! 花畑のシーンがとても綺麗で、二人の関係も微笑ましくて好きです。 だからこそ後半の展開が一気に怖くて、ギャップにゾクッとしました……。 続き…
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