『運命』 平穏と幸せ
平穏は、脅かされてこそ価値を理解できる。
幸せは簡単に、人を縛り付ける呪いへ変わる。
「元気でね‥‥‥アベルっ」
彼女の涙が、脳裏に焼き付いて離れない。ふとした時に、思い出す事になるだろう。
過去の平穏と幸せは、無意識に何度も噛み締めてしまうものだ。
「待ってセリカっ‥‥‥セリカぁぁぁぁぁ!!!」
6歳の少年なら、尚更だ。
自分の無力を嘆き、苦しむ。
それでも、人生は始まったばかり。
ポッカリと空いた心の隙間に、悲しみが入り込んでくる。
「くそっ‥‥‥なんで、こんな事にっ‥‥‥!!」
この顛末は‥‥‥ある場所から始まった。
平穏は壊され、幸せが過ぎ去っていったのは‥‥‥彼女が好きだった場所。
「ゔぁッ‥‥‥!!?」
燃えるように熱くなる、左肩。
少年は蹲り、何度も地べたを這いずる。
襟元からは、微かに赤くなった包帯を覗かせている。
「ーーー辛いよな。到底、受け入れられないよな」
少年の耳に届くのは、見下ろしてくる男の声。
「この世界は、強い奴が全てを奪っていく。それが真実だ、少年」
その言葉は、少年の境遇を代弁しているようだった。
「強い奴が‥‥‥全てをっ‥‥‥」
少年は前を向く。
うつ伏せに寝たままの状態で、去っていた彼女を追いかけるように手を伸ばす。
すると、男は何も言わずに歩いていく。彼女が去っていった方へ、淡々と。
「強く、なるんだっ‥‥‥誰にも奪われないように、誰よりも強くッ‥‥‥!!」
少年は決意する。
去っていった、最愛の少女。
「ぼくは絶対っ、君のもとまでッ‥‥‥!!!」
その隣に立つために、自分の人生を懸ける覚悟を。
「い、く‥‥‥」
全ては、あの場所から始まった。




