コイバナにもご注意を
四十六日目 夜
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脈絡もなく我が家のリビング。
サンドイッチを箱詰めして手渡していたというのに、我が家のリビング。
懐かしの教室でもなく、懐かしの購買室でもなく、パン工場でもなく、我が家のリビング。
見慣れた我が家のリビングを、俺は畳の上に座って眺めている。
一瞬、夢から覚めたと思った。これで夢見ノイローゼから解放されるとも思った。
そして、読者の皆さんに『夢オチの話はこれで終わりです』と伝えることができる、とも。
でも、違ったんだよね。
本文前の「~~~~~~」の上の経過日数、見ました?
四十六日目。経過日数、四十六日目。
前回が一日目だったのに、その間の描写なく一気に四十六日目。
夢は続いているんですね。
何度も言うけれど、夢って本当に不思議だよな。
一日目から四十六日目に飛んでも、四十六日目だよなって納得しちゃうんだから。
現実で一日目から四十六日目に飛んでごらんなさいよ。
二日目から四十か日目は?ってなるから。
その間の空白期間、なにがあった?って不安になるから。
それはともかく。
なぜ四十六日目の舞台がなぜ我が家のリビングなのか。
それもなんとなくわかっている。
修学旅行の宿泊ホテルの一室という設定になっている。
つまり設定上、俺は修学旅行中で、夜の自由時間に宿泊先のホテルの一室にいるということだ。
いや、どう見ても我が家のリビングなんだけどね。
「先輩、コイバナをするっす」
「先輩さん、コイバナをするっす」
ひとりでいたはずなのに、唐突に現れたのが後輩と後輩の彼女さん。
「家主様、コイバナをしたいですニャ」
「にゃあ」
次に現れたのが、黒猫と猫の姿のままのタマ。
「コイバナ、か……」
夢の中で、十数年前の学生時代を思い出す。
初めて彼女ができたのが学生時代。
クラスの違う同学年で、体育祭の実行委員として知り合い、体育祭の当日の委員活動で一気に距離を縮め、俺から告白。
キスと手を握り合ったくらいの接触で、ありていに言えば『清らかな恋愛』が続いた。
卒業後、別々の大学に進学。
進学直後は会ったり、連絡をしあったりしていたけれど、そのうちに会わなくなり、連絡もしあわなくなったりして、自然消滅。
よし、その話をしよう。
「俺が学生時代につ」
「俺たち、今年が終わるまでに新しいアパートを借りて同棲するっす」
「私たち、今年が終わるまでに新しいアパートを借りて同棲するっす」
話を冒頭からへし折ったのは、後輩と彼女さん。
しかも、同時に話し出したものだから、綺麗にハモった。
「知ってる。それ、夢の中のことじゃなくて、現実で本当にそうしようというのは知ってる。それでね、俺が学生じ」
「家主様が物置を提供してくれたおかげで、タマ様との同棲は順調ですニャ。ありがとうございますニャ」
「にゃあ!」
話の再開を止めたのは、黒猫とタマ。
黒猫と嬉しそうに笑っている(?)タマ、夢の中だったしても、酷いことを言われたことは忘れない。
「先輩は戦いの女神さんと結婚するんすか?」
「先輩さんは戦いの女神さんと結婚するんすか?」
「家主様、タマ様と離れたくないですニャ。女神様と一緒に異世界に帰りたくないですニャ。女神様が戻りたいと言ったら、戻らないように説得してほしいですニャ」
「……にゃあ」
後輩と彼女さんの質問と、黒猫とタマの懇願が同時に来た。
もういいや、俺のコイバナなんて。
「戦いの女神がいうには、女神と人間は結婚できない。だから、俺と戦いの女神は結婚できない」
まずは後輩と彼女さんの質問に答えた。
すると、なぜか俯いた後輩と彼女さん。
ん? なぜ寂しそうに俯く?
そんな様子を現実で見たことがないから、余計に印象に残る。
「戦いの女神がいうには、異世界に戻る手段を知らない。でも、戦いの女神は異世界に戻りたいという気持ちも持っている。こればかりは、俺がどうのこうの言える立場にはない」
次は黒猫とタマの懇願にそう答えた。
そしたら、黒猫はタマの抱き寄せ、タマは黒猫の胸に顔を埋める。
うーん……離れたくない気持ちはわかるけどね。
ただ、こればかりは本当に俺がどうのこうのと言えることではない。
と、ここで場面変更。
場所はカラオケボックスの店舗の裏の駐輪場。
俺が告白した場所だ。
俺の目の前にいるのは元カノではなく、仁王立ちしている戦いの女神。
女性用のジャージがなくて着せた男性用のジャージを着ている戦いの女神。
夜の駐輪場には、俺と戦いの女神の二人しかおらず、ひっそりとしている。
笑っているようで、泣きそうで。
楽しそうで、寂しそうで。
戦いの女神はそんな表情で俺を見つめている。
「……おっさん」
耳元で戦いの女神の寝言のような声が聞こえた。
ただし、目の前の戦いの女神は口を動かしていない。
胃の張り具合がようやく楽になりつつあるも、今度は胸に誰かが覆い被さられているような圧迫感を感じるの気になる。
また、耳元で、
「……おっさん」
俺と戦いの女神の二人しかいない夜の駐輪場。
あの日の夜と同じだな。
その時も俺と元カノの二人しかいなかった。




