チェンジにもご注意を
一日目 お昼休み
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体育館にいたと思ったら、懐かしの購買室の前にいる。
着替えた記憶がないのに、体操服から制服に着替え終わっている。
瞬間移動に瞬間着替え。
移動も着替えも手間を掛けずに済むんだから、夢の世界は便利な世界ですねぇ。
なんて、感心している場合じゃない。
俺の背後に白色の誰かがいる。
俺の体と密着している誰かがいる。
黒猫と違う音色の、にゃあ、と小さく鳴く誰かがいる。
振り向いてみよう。
俺の背後にいたのは、まったく見知らない女性だった。
艶のある頭髪が真っ白で、肌が色白で、スーツの色が真っ白で、長く整えられた手の爪も真っ白く塗られている。
それだけでも異様……ではなく、特徴的なのに、鼻をヒクヒクさせ、ネックレスのように鈴のついた首輪をしている。
真っ白な女性と鈴のついた首輪。
「どちらさまで?」
「にゃああん」
恐る恐る訊いた俺に鳴き返した女性。
「いや、にゃああん、ではわかりませんよ」
「にゃあああん」
「いや、わかりませんって」
「にゃん!」
女性は短く鳴いてから、手首を曲げて猫パンチのように俺の肩を叩いた。
文句を言い返そうとして、耳に聞こえてきたのが、あのエンディングソング。
そう、国民的アニメ『サ〇エさん』のエンディングソング。
違っていたのは、サ〇エさん一家が家の中に入り、家が歪んで揺れたあとの、カーン、という響く音ではなく、おっさん、という戦いの女神の声だった点だ。
今度は楽器の振りして俺を呼ぶなよ。
それはともかく、エンディングソングを聞いて女性の正体がわかった。
いや、以前からわかっていた気がしてきた。
初対面の女性なのに、以前から知り合いの関係だと認識できるのは、夢の作用だね。
「お前、人間として現れたのか」
この女性は毛色の白いタマだ。
黒猫と同棲しているタマだ。
話し言葉と白色と鈴のついた首輪以外、猫の要素がない。
「にゃあん」
これも不思議だね。
その、にゃあん、の鳴き声が、なんだお前、と人間の言葉に変換されて聞こえたのは。
夢って翻訳機なんてなくても会話ができ……ちょっと待て。
「おい、タマ。俺に向かって『なんだお前』と言ったか?」
「にゃん?(人間とは愚かな生き物よの)」
「にゃん?と可愛らしく誤魔化すな。人間を愚かな生き物と言ったよな?」
「にゃああん(特にお前)」
「あのね、そんな酷いことを言うなよ。俺は現実の世界では黒猫とお前の世話をしている身なんだよ。わかってる?」
「にゃにゃにゃああん(ほざけ、愚かな生き物よ。特にお前)」
「……ほざけって」
「にゃああん(人間が我らの世話をするのは、当然の義務。特にお前)」
「……もう、いいよ」
「にゃん(特にお前)」
「……もう、いいって」
「にゃん?(特にお前)」
「……やめてって」
特にお前、の言葉による猫パンチにやられた俺は懐かしの購買室に入って行く。
胃の張り具合は解消には程遠いが、懐かしのコロッケパンが食べたくなった。
学生時代、コロッケパンをよく食べたっけなぁ。
人気が高かったせいで、買いに行ったら売り切れ、ということもあったなぁ。
その時は友達と半分にしてあげたり、貰ったりしていたなぁ。
懐かしの学生時代の思い出に懐かしのコロッケパンは欠かせない。
いざ購買室に入ると、生徒たちで混雑していた。
この感じだと、コロッケパンは売り切れかもね。
陳列棚を見ると……ああ、やっぱりだ。コロッケパンは売り切れだ。
というか、陳列棚は空っぽだ。
買うのを諦めて、購買室から出ようとしたとき、
「おっさんも手伝え!」
と俺を呼ぶ戦いの女神の声が聞こえてきた。
そして、再び瞬間移動と瞬間着替え。
次の移動先は調理場、着替えは制服の上からエプロン。
俺はエプロン姿で次々と作られるサンドイッチを箱に詰め、行列を作る生徒に手渡ししている。
そんな俺の隣には、サンドイッチを作り続ける戦いの女神。
鎧姿ではなく、アン〇ンマンのジャムお〇さんのような服装で、サンドイッチというパンを作り続ける戦いの女神。
読者の皆さんにご報告です!
戦いの女神、パン工場長の女神にジョブチェンジしました!
これに伴い、ラノベタイトルを『同居人は戦いの女神さま』から『同居人はパン工場長の女神さま』に変更します!
パンを作り続けるパン工場長の女神の活躍にご期待あれ!
……って、なんなんだよ。
何がパン工場長の女神だよ。
女神が工場長にジョブチェンジって、そんな転職できるのかよ。
「おっさん! 手を休めるな!」
戦いの女神の檄と共に次々と送られてくるサンドイッチ。
「(特にお前)」
姿はどこにもないのに、聞こえてきたタマの声。
「おっさん! 呆けるな! 間に合わぬぞ!」
「(特にお前)」
「おっさん! 括目せよ! 作ったサンドイッチが地球二つ分の量にまで溜まったぞ!」
「(特にお前)」
「おっさん! 抜け毛など気に病むな!」
「(特にお前)」
夢とはいえ、いい加減にしてくれないかな、本当に。
戦いの女神の檄とタマの声を聞きながら、行列を作っている生徒たちに箱を手渡していく。
感覚的にお昼休みが終わった気がするが、生徒たちの行列がなぜか消えない。
長々と行列が続き、延々と箱の手渡しを繰り返す。
……いつまで続くんだ、これ?




