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四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
三の章 立太、そして政争の始まり

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55/119

伍拾参


朝議の席で、夏勢帝が改めて宣言した。

「本日より、朱夏親王は日嗣宮として、正式に朕の補佐を務める。まだ年若いゆえ、皆よく導くように」

居並んだ重臣たちが頭を下げる。夏勢帝より一段下がった場所に席を与えられ、朱夏は気を引きしめた。これまでのような、子どもとしての甘えは許されない。

朝議を進める輝山の大臣が、立ち上がって一同を見渡した。

「さて、本日の議題は、先年の飢饉によって国庫から放出した食糧の、新たな買いつけについてですが――」

帝と重臣が集う朝議の場で、皆が語る内容を一つも聞き漏らさないように、朱夏は持参した藁紙に筆を走らせた。


帝の御前で議論される内容は多岐にわたる。

民の年貢について。

国内に不穏な動きがないかどうか。

廷臣たちの領地から献上される品について。

天候に左右される塩害や虫害に、有効な対策はないかどうか。

次々に議題に上がる内容に、帝を始めとする国の重鎮たちが、議論を進める。

藁紙に黙々と書きつけながら、朱夏は重臣たちの話に耳を傾けた。

「では、最後にお知らせがございます。明日は日嗣宮さまのご成婚の儀が執り行われます。昨日の成人の儀と同じく、本宮の大広間で行われ、大内殿での祝宴と続きます」

朗々と語る輝山の大臣が、ちらりと朱夏に視線を向けた。

頷きを返した朱夏に目だけで微笑んでみせ、大臣が続ける。

「ご正室となられる煌姫さまは、まだ六つと幼くあられますので、祝宴は昼の刻限に行われます。宴から参加なさる方々は、お間違えなきよう」

話を締めくくった輝山の大臣が、帝に場を譲る。

「それでは、今上さま。お言葉を」

一つ頷いた夏勢帝が立ち上がった。

「今年の夏は暑さが厳しく、体調を崩す者も多かった。皆よく持ちこたえ、秋を迎えられたことを嬉しく思う。これよりも、国と朕によく仕え、二心なく忠義に励むがよい」

居並ぶ重臣が一斉に頭を下げた。


朝議を終え、ほどよい疲労感のまま席を立った朱夏は、父帝に呼び止められた。

「日嗣宮、体調はどうか」

昨夜のことを訊かれているのだと察し、朱夏は父を真っ直ぐに見つめ返した。

「はい。今朝は目覚めもよく、頭もはっきりしております。昨夜は、場をお貸しいただきありがとうございました」

部屋を出ていきかけていた輝山の大臣が、足を止めて気遣わしげな顔を見せた。

「お言葉を挟みますぞ。親王さま……いや、日嗣宮さま。昨日、何かございましたか」

夏勢帝と朱夏の側まで戻ってきた輝山の大臣が、孫の顔を覗き込む。

「大したことではない。少し、夏の宮まで戻りきれずに籠宮で休ませていただいただけだ」

朱夏の答えに、大臣は眉を寄せた。

「それは……」

「本当に、案ずるようなことはないから。何かあれば、きちんと知らせる、祖父上」

呼び方を改めた朱夏に目を丸くし、輝山の大臣はふくふくと笑った。

「まこと、孫の成長とは早いものですな。すっかり大人になられたようだ」

「明日には正室を迎えるのだ。いつまでも、子どものままではいられない」

「左様ですな。頼もしく思っておりますぞ。では、御前失礼致します」

軽やかな足取りで去っていく祖父を見送り、朱夏は夏勢に視線を戻した。

「第六室どのにも、御礼申し上げたいと思いますが」

「必要ない」

「ですが……」

朦朧とした意識の己を、常ならば立ち入ることを許されない私室に入れてくれたのだ。

たとえ記憶が曖昧であろうとも、礼儀を尽くすのは当然だった。

「其方の熱が抜けたのなら、それでよい。あれには、其方の礼の言葉を伝えておこう」

父にこうまで言われては、引き下がるしかなかった。

全身を熱に支配され、朧気にしか周囲を認識できていなかった。彼女と、何か言葉を交わしただろうか。

父と抱き合う彼女を見たような気がするが、あれは現実だったのかどうか。

脳裏に、密やかな声が蘇る。


『熱夜の夢でございますよ』


軽く頭を振って、朱夏は父帝の御前を辞した。執務の補佐は、今日は免除されている。

夏の宮に戻って、明日の支度をしなければならなかった。


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