表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
二の章 夏の宮の日々と、父の側室

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/128

肆拾壱


庭での宴がお開きとなり、日が暮れ始めた夏の宮の私室で、朱夏は父と向き合った。

菓子を食べ過ぎた煌姫は、華やかな装束を脱ぐのを嫌がり、秋穂につき添われて庭を散策している。

烏だけを室内に入れ、朱夏は父に向かって口を開いた。

「それで、父上。ご用向きは」

「祝いと、申したはずだが」

それだけで、多忙な父が夏の宮まで赴くとは朱夏には思えなかった。

「宵にはまだ早いが、成人を迎えた其方と酒を酌み交わしたいと思うのは、おかしなことか?」

「私と、酒を……?」

「春日の喪に服しているため、大々的な祝いは来年にはなるが。其方の成人祝いと、煌との成婚を父として祝いたいのはおかしなことではなかろう」

朱夏の返事を待たず、夏勢は持参した酒瓶の蓋を手ずから開けた。

濃厚な酒精の香りが、部屋に広がる。

「これは、其方の生まれ年の酒だ。成人の暁に其方と飲み交わそうと、本宮で保管しておった」

「そんなに以前から……」

「大吟醸ゆえ、華やかな香りであろう?」

何故か懐から盃を取り出した夏勢が、卓の上に二つ並べて置く。

「父上、何故懐になど」

額を押さえる朱夏に構わず、夏勢が酒を盃に注いだ。

「其方は、酒は初めてだな?飲みすぎぬよう、加減致せよ」

さっさと盃を手にし、夏勢は軽く掲げて口をつけた。

諦めて溜息を一つ吐いた朱夏も、父に倣って盃を手に取る。鼻を近づけると、ふわりと酒精の香りを感じた。

「では、ありがたく」

くいっ、と小さな盃から酒を飲み干す。途端、体の芯がかっと熱くなったような気がした。

軽く咳込んだ朱夏を面白そうに眺め、夏勢が酒を注ぐ。

「一息に飲むやつがあるか」

「……っ、ごほっ。いえ、私も大人となったのですから、このくらい」

負けじと、盃を父に向かって差し出した。注がれる酒を見つめながら、朱夏は口を開いた。

「母上のお加減は、いかがですか」

春の終わりに毒を盛られた朱夏の母は、近頃床に就く時間が長くなっていると聞く。見舞いを強く断られた朱夏は、母が気に入っていた花や香、気分が高揚するような絹地を贈ることしかできずにいた。

「少し持ち直したようだが、まだ伏せる時の方が多いようだな」

「そうですか」

「奥宮に移すか、迷っておる」

本宮から少し離れた離宮に暮らす美紘は、宮中の使用人たちよりも生家から連れて来た侍女たちを信頼しているという。本来なら、奥宮の差配をしなければならない立場だが、現在それは第二室に任されていた。

「今更奥宮に移られたとしても、居場所などないでしょう」

酒精が回って熱を持った体が、汗ばみだした。ふう、と息を吐き、朱夏は再び酒を口に運ぶ。

「……いける口だな」

「はい?」

「ああ、いや。

 奥宮の差配は第二室がしておるが、正室がいるのといないのとでは、やはり室たちの心構えが違うのでな」

それに、と夏勢は続ける。

「離宮ならば手を出せても、奥宮の厳重な警備の中では、第二室の派閥も美紘に手は出せまい」

父の言葉に、朱夏ははっと視線を上げた。

「それは……」

「奥宮におれば、朕が守ってやることもできる。其方の母として、立場は確固たるものだ。警備さえしっかりしておれば、再び毒を盛られるようなこともあるまい」

「第二室どのは、ご納得なさいますか?」

朱夏が第二室である蓮黄れんおうに会ったことは、片手で数えるほどしかなかった。だが、苛烈な性格をしているとの噂は漏れ聞こえていた。

もう少し生まれるのが早ければ、己が正室として入内できたのだと、憤慨していたとかいないとか。

「納得しようがしまいが、朕の決定に逆らうことなどできぬ」

「……冬廉はどうされます」

第二室の元で、偽りを教え込まれて育てられている弟。結局、夏の間一度も会うことは叶わなかった。

「五つになった男子を、いつまでも奥宮に置いておくことはできぬ。本来ならば、生まれたその時から冬の宮を与えてそこに住まわせるはずだったのだからな」

父の言葉に朱夏は頷く。己とて、生まれてすぐに母から引き離され、この夏の宮で秋穂を乳母に育ったのだ。帝一族に生まれるとは、そういうものだ。

「冬の寒さが来る前に、美紘は奥宮に移す。其方も、その方が通いやすかろう」

「会っていただけるかはわかりませんが」

「それでも、見舞いの品を自分で持参できるであろう」

いつの間にか、酒の瓶は中身が半分ほどに減っていた。

「父上、私への祝いだというのに、飲まれ過ぎではありませんか」

「其方も朕と同じように飲んでいるぞ」

そう言われれば、頬が熱いような気がする。顔に手を当てた朱夏に、夏勢がさらに続けた。

「それと……迦陵だが」

「っ!」

朱夏の肩が跳ねる。父の口からその名が出たことへの、動揺を悟られないように朱夏は口を引き結んだ。

「奥宮から本宮へ移す」

「は……?」

「朕の寵愛を、第二室が不快に思っているようでな。どのような攻撃を受けるかわからぬ」

寵愛――。

父帝の口から彼女への想いを語られ、朱夏は酒で回らない頭を必死に回転させようとした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ