↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
終の章 新たな時代へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

298/299

終話

 

 都を出立した帝の行幸のための輿が、大通りを抜けて大港へ至る道を進む。

 亜伊夜の国から訪れたシャファング三世を、見送るための行列である。

 昨夜は四季の国で過ごす最後の夜であるため、特別にシャファング三世の客間で眠ることを許された春明は、はしゃぎすぎたのか今朝早くに熱を出した。大港までの行幸に同行することは元より許されてはいなかったため、本日は春の宮で静養することとなった。


 輿の内から、薄布越しに景色を眺めていたシャファング三世は、夏の陽射しから逃げるように薄布を下ろした。

『長逗留を許してもらって、シュカどのには改めて感謝申し上げる』

「こちらこそ、楽しい三月であった。亜伊夜の国へ戻られても、文を交わすことはできる」

『うむ。シュンメーどのとも、文を書き合うと約束したからな。妃にシーキ国の文字も習うぞ』

 別れを泣いて嫌がった春明であったが、春明から文を貰えるのを楽しみにしているとのシャファング三世の言葉に、袖で目元を拭って大きく頷いていた。

『いつか、また訪れたいものだな』

「さすがにその折は、先触れをいただけるとありがたい」

 朱夏の苦言にからからと笑い、シャファング三世は腰に巻いた薄布から小さな包みを取り出した。

『これを、貴殿に』

「何だ?」

 首を傾げながら差し出した朱夏の手に、シャファング三世が包みを乗せた。白い紗で縫われた巾着に、赤い紐が結んであった。

『俺の紋章を刻んだ、黒曜石だ。アイーヤ国で採れた良質の石に、職人が彫りを入れてある』

「貴重なものではないのか?」

『だから、友情の記念に贈ろう。貴殿がアイーヤ国を訪れることがあるかはわからんが、俺の友人だという証だ。それを持っていれば、我が国のどこにでも入れる』

 後宮以外にな、と笑ったシャファング三世に、朱夏は鼻の奥がつんと痛んだ。

「……『ありがとう』」

 亜伊夜の国の言葉で告げた朱夏に、シャファング三世が目を丸くする。

『そう言えば、言葉を習うと言っていたな』

「せっかく友人になれたのだ。親雪たちを介してでなく、己の言葉で語り合いたいだろう?」

 とは言え、まだまだ習いたてである。外交官たちのように流暢に話せるようになるには、多くの時がかかるだろう。

『これから俺はせっせと子を作らねばならん。俺の後を継ぐ王子も、嫁入りさせる姫も、大勢な』

「……大変そうだな」

『それが俺の務めだからな。たくさん子ができたなら、一人くらいはシーキ国にやってもよいな』

 驚いてシャファング三世の顔を見つめた朱夏だが、王の表情は真剣だった。

「遠く国元を離れさせるのか?外交官というわけでもなく?」

『ショコー国ではな、留学という制度があるようだぞ』

「留学?」

 首を傾げた朱夏に、シャファング三世がわかりやすいようにと苦心して説明する。

『自国を出て、外国で勉学に励むのだそうだ。行く先はどの国でもよい。自国のよいところを広め、他国で学んだことを自国に持ち帰って活かすらしい』

「それは、外交官とは違うのか?」

『うむ。外交官は国同士の繋がりのために働く者だろう。留学というのは、学ぶことが主な目的だからな。それに、個人で金を貯めて留学する者もいるらしいぞ』

「個人で……」

 考え込む朱夏に、シャファング三世が続ける。

『アイーヤ国はあまり他国と交流していない。悪いことではないが、新たな友人との出会いに繋がりにくい。シーキ国とこうして国交を開いたのは、よい機会となった』

「交流する先を広げるのか?」

『すぐには難しいだろうな。だが、いずれは我が国でも、その留学という制度を整えたい。そうすれば、俺の息子がいずれ、シーキ国に訪れることもできるかもしれん』

 四季の国の至るところで、自国の民と外国からやって来た留学生たちが交流しているところを、朱夏は想像してみた。新たな時代に、相応しい光景のような気がした。

「そうなったなら、朕の息子もいずれ、亜伊夜の国へ行けるかもしれぬな」

 親王が海を渡ることを、重臣たちが許すとは思えなかった。長く宮中に仕え古い考え方をする者ほど、新たな風を嫌うものだ。

 しかし、それでは国の歩みは止まる。伝統も大切にしながら、外へ目を向けることも必要だと朱夏は思っていた。

『そうして、末永く、アイーヤ国とシーキ国は友情関係を続けるのだ』

 胸を張ったシャファング三世に、朱夏も力強く頷いた。

 未来を生きる子どもたちのために、朱夏は朱夏にできることを成していかねばならないのだ。

 目の前に座る豪胆な王と、こうして交流できてよかったと、朱夏は心から思ったのであった――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。