↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季帝(しきのみかど)、愛のゆくえ  作者: 紫月 京
終の章 新たな時代へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

297/299

弐佰玖拾

 

 煌姫が春香への文をようやく書き終え、手渡された朱夏は大切に木箱にしまった。上から、薄桃色の飾り紐で封をする。

「シャファング三世どのは、来月の夏煌丸の出航で帰国なさる」

「はい。船に傷みも少なく、予定通りに出航できるとお聞きしましたわ」

 奥宮の煌姫の私室である。

 本来ならば、今回帰還した夏煌丸に乗って戻ってくる予定であった親雪は、シャファング三世とともに櫻花楼の船に乗ってきたため、夏煌丸が持ち帰ったのは外国からの交易品だけであった。

「次の出航には、築岳が同乗していく」

「商家の出と仰せだった、外交官の方ですわね?」

「うむ。この二月、常にシャファング三世どのの側には親雪がついていたからな。航海の間、上手くつき合ってくれるとよいのだが」

 宮中に滞在している間、シャファング三世は片時も親雪を側から離さなかった。通訳が必要なのは当然ではあるが、以前に聞いた話が朱夏に僅かな不安を抱かせる。

 確か、男でもよいから後宮に入らないかと、親雪に迫ったことがあるはずだった。シャファング三世の様子を見ていると、まったくそんな気はないようにも見える。親雪も、きちんと節度を保って通訳に徹している。朱夏が気にしすぎであろうか。

 思い悩む朱夏の手に、煌姫の手がそっと重ねられた。

「煌?」

「大丈夫ですわ、朱夏さま」

「えっ?」

 微笑む煌姫に朱夏は首を傾げる。

「王陛下は春香を愛しておいでなのでしょう?それに、亜伊夜の国の奥宮には、たくさんの女人がおりますし。殿方に目を向けている暇は、王陛下にはないと思いますわ」

「……」

「わたくしは親雪どのにお会いしたことはないけれど。朱夏さまのお話を聞いていれば、職務に忠実に励まれる誠実な方という印象を受けますわ」

「そう、だな」

 小柄でひ弱に見られやすいが、芯の通った強かな外交官である。近頃は築岳から護身術なども教わっているらしい。男に組み敷かれるような心配はないが、身分の高い相手から迫られれば、親雪の身分で躱しきれるか朱夏は心配になる。

「朱夏さまが、その目でお確かめになった外交官ですもの。お信じあそばしませ」

「……うん」

「それに、亜伊夜の国の王陛下は、早く春香に会いたくて堪らないと思いますわ」

 ふふっと笑い、両手を胸の前で合わせた煌姫が、頬を染めて囁く。

「きっと、あちらの奥宮に戻られたなら、春香を片時もお離しにならないわ。そういう、愛の深い御方で……」

 煌姫の言葉の途中で、朱夏はぐいっとその体を抱き寄せた。腕の中に閉じ込める。

「しゅ、朱夏さま?」

「……妬けるな」

「えっ?」

 身動いだ煌姫の耳元に、朱夏は唇を寄せた。

「其方は、それほどシャファング三世どのに会ったわけではないのだろう?愛が深いなどと、彼のことをよく見知っているように語ってくれるな」

「しゅ、朱夏さま……」

 真っ赤に染まった煌姫の顔を覗き込み、朱夏はその柔らかい唇に口づけた。

「まだ休むには早いが……」

 煌姫の体を横抱きにして朱夏は立ち上がった。驚いた煌姫が、朱夏の首に腕を回す。

「朱夏さまっ?」

「私に嫉妬など抱かせた其方が悪い。今宵は離さぬ」

 大股に私室を歩き、朱夏は寝所の扉を開いた。二人の空気を察してか、控えていたはずの侍女たちは、すでに華永が部屋から下がらせていた。


 寝所の扉を足で閉め、朱夏は寝台にそっと煌姫の体を横たえた。潤んだ薄桃色が見上げてくる。

 頬を指で撫で、たどり着いた唇を親指でなぞる朱夏に、煌姫が戸惑ったように声を震わせた。

「朱夏、さま……何だか……」

「どうした?」

「いつもと、違う、から……」

 煌姫の言葉に苦く笑い、朱夏は額に口づけた。

「そうだな。其方の体に障らぬように、普段は自制していたからな」

「我慢?何を……」

「私が其方をどれだけ愛しているか、今宵はわからせてやろう」

「しゅ……んっ」

 少し乱暴に唇を奪い、朱夏は煌姫の夜着の腰紐を性急に解いた。

 明日の朝、煌姫は起き上がれないかもしれないと思いながらも、白い肌に赤く証を刻んでいく。

 誰に憚ることない、世にも天にも認められた帝と正室である。嵐のような夜を過ごしても、咎められる者などこの世にはいないのだ。

 熱に浮かされたように全身を熱くしながら、朱夏は煌姫との夜を過ごした――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。